親の相続財産を独り占めしたい(渡したくない)場合

相続トラブル事例

Q:親の財産を独り占めするにはどうすれば良いですか?

父は現在認知症で、父の財産は事実上、私が管理しています。

仮に父が亡くなった場合、他の家族として私には姉がいるのですが(母は既に他界)、姉には父の財産を渡したくはありません。

と言うのも、姉は結婚して他の家に嫁いでいますので、そもそもウチの家の事についてとやかく言われたくありません。

また、姉は子供の頃から性格的にだらしなく、ちっとも努力をする事なく自堕落な生活をしています。

その為、私は姉の事を軽蔑しており、そのような姉には父の財産は絶対に渡したくはありませんし、父の財産を譲り受ける権利はありません。

父は認知症で意思表示は出来ませんが、もし父が認知症でなければ、きっと私に全財産を相続させると思います。

私が父の財産を独り占め出来る方法を教えて下さい。

A:あなたがお父様の財産を独り占めする事が出来る法律上の方法はありません。

むしろお父様の財産を独り占めしようとする行為は、あなたにとって法律上、不利益になる事ばかりです。

1.親の財産は独り占め出来ない

結論から先に申し上げますと、子供が親の財産を独り占めする事が出来る法律上の方法はありません。

このブログのタイトルは「親の財産を独り占めしたい場合」ですので、結果としてタイトルで煽った事になります。

しかし、親の財産を独り占めしたいと思う考えそのものが、非常に危険で問題がある事をご理解頂きたい為に、あえて煽るようなタイトルにしました。

以下、「どうして親の財産を独り占め出来ないのか?」をお話していきたいと思います。

2.親の財産は子供のもの?

まず、大前提のお話として、「親の財産は子供のものなのか?」と言うお話をしていきたいと思います。

当然ですが、親の財産は親のものです。

けっして子供のものではありません。

当たり前すぎる事なのですが、この当たり前の事が崩れ去る時があります。それが、親が認知症になった時や、介護が必要になった時です。

親が認知症になったり、介護が必要になった場合、自分の財産の管理を自分で行う事は出来ません。

その為、その子供が親の財産を管理する事があると思います。

初めのうちは自分の財産と親の財産を別々に管理していたのですが、次第に管理が面倒になってしまい、自分の財産と親の財産をごちゃ混ぜにしてしまう。

また、親の面倒を看ているうちに「どうして自分だけがこんなに辛い思いをしなくてはいけないのか?

こんなに辛い思いをしているのだから、少しぐらい親からお金をもらっても文句を言われないだろう」と考え、親のお金を着服するようになるのです。

このように「親の財産は親のもの」と言う当たり前の考えが崩れ去るのが、親が認知症になった時や介護が必要になった時なのです。

3.親の財産を独り占め出来ない理由

① 相続人には相続分がある

各相続人には法律上決められた相続分があります。

事例の場合であれば、父が亡くなった場合の相続人は子供二人ですので、それぞれ相続分は2分の1となります。

なお、他の家庭に嫁いでいても、子供としての地位は失わない為、相続人となります。

この相続分は特別受益や相続欠格となる事由が無い限り、減少する事はありません。

その為、親の財産を独り占めしたとしても、相続が発生してしまえば他の相続人にも相続する権利があります。

つまり、相続が発生してもあなたが父の財産を独り占めしていて話し合いに応じない場合、他の相続人から遺産分割調停を申し立てられる可能性が高くなるでしょう。

当然あなたは調停を無視すると思いますので、そうなれば審判に移行されます。

審判に移行すれば、裁判所は基本的に法定相続分をベースにした結論を出します。

裁判所を利用する手続きは時間がかかりますが、「法定相続分をベースにして遺産の分け方を決める」と言う明確な判断基準があります。

さらに、確定した審判には法律上の強制力があります。

よって、親の財産を独り占めしていたあなたの行為は結局、無駄な努力に終わってしまうのです。

② 親に遺言を書いてもらえば良いのでは?

それでは、父に「全ての財産を自分に相続させる遺言」を書いてもらえば良いのでは?と考えたあなた、着眼点は良いのですが、これも問題があります。

まず、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には、最低相続分である「遺留分」があります。

他の相続人から遺留分を請求されれば、その請求に応じなければなりません。

その為、親の財産を独り占めする目的は不可能となります。

また、遺言を書く書かないはあくまで親の意思です。

親が遺言を書く意思が無いのであれば、それを無理強いする事は出来ません。

無理に遺言を書かせようとすると、場合によってはあなたは相続人の地位を失う事もあります(民法第891条)。

さらに、認知症の人がそもそも有効な遺言を作成する事が出来るのか?と言う問題もあります。

このように、親に遺言を書いてもらう方法も無理があるのです。

③ 成年後見制度を利用すれば?

それでは、成年後見制度を利用する方法はどうでしょうか?

「自分を成年後見人候補として後見の申し立てを行い、家庭裁判所から成年後見人に選任してしまえば、親の財産を独り占め出来る」と思われるかもしれません。しかし、この考えも問題があります。

成年後見人は家庭裁判所が選任するのですが、ある程度の財産がある方の成年後見人には、高確率で弁護士や司法書士と言った専門家が選任されます。

弁護士や司法書士が成年後見人になった場合、あなたが独り占めしている財産を成年後見人に引き渡す義務があります。

これを拒否すれば民事裁判等の手続きを利用されるでしょう。

なお、万が一あなたが成年後見人に選任されたとしても、成年後見人は本人(事例で言えば父)の利益の為に財産を管理する義務を負います。

仮にあなたの利益の為に父の財産の使い込み等を行った場合、刑事罰が科せられる事になります。

成年後見人はその財産管理について家庭裁判所に報告する義務を負います。

財産の使い込みを行っても簡単にばれてしまいます。

したがって、親の財産を独り占めする目的で成年後見制度を利用する事も出来ません。

④ 使い込んでしまえば良いのでは?

「とりあえず使ってしまえ!後は何とかなるだろう」と思って親の財産を使い込んでしまった場合、あなたには当然に法律上の責任が発生します。

父親が生きている場合は、(意思能力があれば)父親本人や成年後見人等から、父親が亡くなった場合は他の相続人から、使い込んだ父親の財産の返還請求訴訟を提起されるでしょう。

なお、「父の財産を全部使ってしまえ!自分の財産もなければ裁判を起こされたとしても、取られるものは何もない」と言う「無い袖は振れない」理論を持ち出せば良いのでは?と思われるかもしれませんね。

しかしこの考え方ではあなたの奥様や子供に精神的に迷惑をかける可能性もありますし、その結果、家族の仲がギスギスして悪くなる事だってあるでしょう。

さらに、場合によっては刑法上の犯罪に該当する可能性もあります。

裁判を起こされて長期間ストレスにさらされ、家庭内でも長期間ストレスにさらされる。こんな生きた心地がしない生活を、あなたは送りたいですか?

4.まとめ

このように、他の家族(相続人)を無視して、親の財産を独り占めする行為は全く無駄な努力になるのです。

仮にご自分の目的を達成出来たとしても、長期間にわたり精神的に疲弊してしまえば、残りの人生を有意義に過ごす事は難しくなるでしょう。

また、他のご家族の方は、本当に父親の財産を譲り受ける権利はないのでしょうか?

あなたには言い分があるかもしれませんが、他のご家族にも言い分があります。

その言い分を聞かず、自分が絶対に正しいと思う事は、問題を深刻化する原因となります。

親の財産を独り占めする事は無駄な努力になります。

無駄な努力を続けて心に重大な傷を負うぐらいであれば、嫌々ながらでもご家族と話し合いをした方が良いでしょう。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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