
こんにちは。司法書士の甲斐です。
男性の方から相続のご相談を承っていますと、時々「妻に全財産を渡したい」とおっしゃられる方がいらっしゃいます。
その理由は様々だと思うのですが、他に相続人がいた場合、もめない相続とする為に様々な事を考えなくてはいけません。
今回は、その「自分の財産を全て妻に相続させたい場合に考えるべき事」をお話していきたいと思います。
1.自分の財産を全て妻に相続させた方が良い理由
「財産を全て妻に」と思われている方は、感覚的にその方が良いと思われていますし、(相続税対策はひとまず置いといて)現実問題として、ご主人の財産は全て奥様が相続した方が良い場合があります。
その理由は単純に、残された奥様にも生活費が必要だからです。
一般的には男性よりも女性の方が平均寿命が長く、また「夫が妻よりも年上」と言うケースも珍しくないでしょう。
そうすると、夫が亡くなった場合、妻には10年~20年ほどは次の人生があると考える事が出来るでしょう。
この期間を過ごす為の生活費について、早くから準備をされている方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?
あくまで私の感覚ですが、「きちんと準備している方」は、まだまだ少数派だと思います。
なぜなら、「年金」の存在が大きいからです。
「夫が亡くなったとしても年金は入ってくるので、それで生活すれば良い。」
と考えがちになりますが、実はここに大きな落とし穴があるのです。
一家の生計を維持している稼ぎ手(=夫)が死亡した場合、残された家族に支給される「遺族年金」というものがあります。
個人事業主(国民年金加入者)には遺族基礎年金、サラリーマン(厚生年金加入者)や公務員(共済年金加入者)には遺族基礎年金と遺族厚生年金(公務員の場合は「遺族共済年金」)が支給されます。
しかし、遺族基礎年金は、生計維持者が死亡した時に18歳未満の子(障害のある子の場合は20歳未満)がある場合に限って支給されるものです。
ところが、夫が老齢年金を受給しはじめてから死亡した場合、子どもは18歳以上になっていることが多いはずです。
そのようなケースでは遺族基礎年金は支給されず、遺族厚生年金や遺族共済年金のみになってしまいますし、それも全額支給されるわけではないのです。
さらに、夫が個人事業主であった場合は遺族厚生年金や遺族共済年金は支給されない為、夫が亡くなった後の妻の収入は年金のみになってしまいます。
(妻が自営業を行っていたり、パート等で働いている場合は除く。)
結局のところ、年金収入は減少します。
これに対して妻の生活費は夫が亡くなる前と比べて大幅に減少するのかと言えば、そのような事はけっしてありません。
つまり、収入は減るが支出はたいして減らないのです。
この状況を考えれば、妻に全財産を相続させた方が良いと考える方が非常に自然であるとご理解頂けるでしょう。
妻によほどの貯金がない限り、今後の生活が当然厳しくなりますし、自身の入院費、葬式代だって捻出するのが難しくなります。
2.財産を相続させたい場合の対策
しかしながら、子供やその他の相続人にも相続の権利があります。
子供であれば
「お母さんが全部相続すれば良いよ」
と言ってくれるかもしれませんが、元々母親と子供の仲が悪い場合、子供は自己の権利を主張するかも知れません。
その為、何らかの対策も必要になってくるでしょう。
① 遺言を残す
「全ての財産を妻に相続させる」旨の遺言を残し、妻の生活を守る方法です。
最低相続分である遺留分の主張を他の相続人から行われる可能性がありますが、何も対策を行わない時と比較して、妻の今後の生活を守る事が出来ます。
② 他の相続人の遺留分対策を行う
例えば、妻以外の相続人に対して、生命保険等を利用して遺留分に相当する金銭を用意する方法です。
妻に全財産を残すと言う目的とは外れるかもしれませんが、もめる相続を防ぐ事が出来る可能性が高くなります。
③ 家族できちんと話し合う
当たり前のようですが、実際に行っていないご家族が多いように思えます。
相続の事を話し合う事は、お金の事を話し合う事であり、それは何だか悪い事のように思える方がいます。
また、「家族なんだから、言葉が無くても分かり合えるはず」と、対話をしない家族も多いでしょう。
しかし、相続の事を話し合う目的は、将来相続が発生した時にもめないように、困らないようにする事です。
だからこそ、財産を残したいあなたが、どのようなお気持ちで妻に全財産を相続させたいかを、ご自分の言葉で語るべきです。
ご自分の言葉で、しっかりと本音で語る事により、他の相続人から遺留分等を請求されない、円満な相続の実現の第一歩となるのではないでしょうか?
3.まとめ
「きちんと話し合う」「自分の言葉で語る」と言った行動は、実はとても大変な行動です。何故なら、そこには相手の存在があり、相手の理解出来る、納得出来る話を行わなくてはいけないからです。
しかし、それを逃げずにしっかりと行う事こそ、残されたご家族の方が困らない相続につながるのです。
財産を残す側の責任として、まずは対話をする事を心がけましょう。