遺言があっても登記は早いもの勝ち?対抗策は死因贈与契約と仮登記

相続登記

こんにちは。司法書士の甲斐です。

相続法(民法)が改正され、実務においても様々な動きがみられています。

ニュースでも様々取り上げられているのですが、今回は「遺言の効力の弱体化?」についてお話したいと思います。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200214-00010002-manetatsun-bus_all

今までは有効な遺言があれば相続手続きに時間をかけても大丈夫だったところ、これからは相続手続きは迅速に行う必要が出てきたのです。

1.相続法が改正されて、遺言の効力がどう変わったか?

今までは、「妻に全ての財産を相続させる」と言う遺言させ残せば(遺留分の問題は出てきますが)、不動産の名義変更等の相続手続きに時間をかける事は出来ました。

有効な遺言さえあれば、例え他の相続人が法定相続分による不動産の名義変更を行い、自分の持分を第三者に売却したりしても、妻は相続人以外の人間に対しても、自分が不動産の所有者である事を主張する事が出来たのです。

しかし、相続法が改正され、この取り扱いが変更になったのです。

民法第899条の2 

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

ちょっと難しい表現なので分かりやすくすると、

① 夫が「妻に全ての財産を相続させる」遺言を残して死亡。

② 遺言による登記申請を行う前に、他の相続人が法定相続分による相続人全員名義の登記申請を行い、登記が完了。
(法定相続分による登記であれば、相続人の一人からの申請が可能です。)

③ その後、他の相続人が自分の持分を第三者に売却し登記も完了(もしくは他の相続人の債権者がその相続人の持分を差押え)。

をされた時は、妻は自分の法定相続分を超える持分については、自分の所有権を主張する事が出来なくなるのです。

つまり、今までの取扱いとは180度異なり、登記は早い物勝ちと言う結論になったのです。

その為、今後は遺言があったとしても、けっして安心ではなくなったのです。

2.登記は早い物勝ち。その対策は? -死因贈与契約と仮登記-

とは言え、財産を残す側としてはそれでは困るでしょう。

妻の為に自宅だけは絶対に守ってあげたいと願う夫の気持ちを踏みにじる事になりますので。

この問題、複数の解決方法が考えられるのですが、確実な方法は自宅について死因贈与契約を締結して仮登記を行う方法です。

① 死因贈与契約とは?

死因贈与契約は贈与の一種で、財産をあげる人が亡くなった時に効力が発生する贈与の事です。

「私(夫)が死んだら、この家をあなた(妻)に贈与します。」

と言う約束を、夫と妻で事前に行っておくのです。

あれ?それじゃ遺言と全く同じじゃないの?

確かに遺言も死因贈与も「自宅を妻に渡す事が出来る」と言う結論は同じです。

しかし、大きな違いがあります。

それは、死因贈与は仮登記が出来ると言う点です。

② 仮登記とは?

仮登記とは、文字通り「仮に入れる登記」です。

仮登記は登記申請できる条件が決まっていて、

⑴ 法律上の権利は発生しているけれど、登記申請を行う上での書類が揃っていない場合。

⑵ 法律上の権利はまだ発生していないけれど、その権利を取得する「予約者」としての権利がある場合。

この2つに該当する場合、仮登記を行う事が出来ます。

今回のケース、死因贈与契約は契約をした段階では不動産の所有者は変更していませんので、上記の⑵に該当します。

仮登記の段階では第三者に対する対抗力はないのですが、仮登記を本登記にした時に、本登記は仮登記と同じ順位で登記されますので、結果として第三者より先に登記した事になり、自分の権利を主張する事が出来るのです。

③ 仮登記のデメリット

仮登記のデメリット、それは通常の相続よりも税金が高い事があげられます。

例えば不動産の名義を変える登録免許税、通常の相続では税率が0.4%ですが、死因贈与では仮登記・本登記併せて2%です。

また、相続では発生しない不動産取得税が、死因贈与では発生する事になります。

3.死因贈与契約書と登記申請書(例)

① 死因贈与契約書(例)

死因贈与契約書

贈与者 山田太郎 を甲とし、受贈者 山田花子 を乙として、甲乙間において次の通り死因贈与契約を締結した。

第1条 甲は下記不動産(以下「本件不動産」という)を乙に贈与することを約し、乙はこれを承諾した。

所  在 〇〇市〇〇町〇〇一丁目
地  番 〇〇番〇〇
地  目 宅地
地  籍 〇〇平方メートル

所  在 〇〇市〇〇町〇〇一丁目〇〇番地〇〇
家屋番号 〇〇番〇〇
種  類 居宅
構  造 木造スレートぶき2階建
床面積
1階 〇〇.〇〇平方メートル
2階 〇〇.〇〇平方メートル

第2条 前条の贈与は、甲が死亡したとき効力を生じ、かつこれと同時に本件不動産の所有権は当然に乙に移転する。(注1)

第3条 甲及び乙は、本件不動産について乙のため所有権移転請求権保全の仮登記手続を行うものとし、(注2)甲は、乙が上記仮登記申請手続をすることを承諾した。

第4条  甲は、下記の者を執行者に指定する。(注3)

住所:東京都町田市森野二丁目1番8号
氏名:司法書士 甲斐智也(東京司法書士会第〇〇号)
生年月日:昭和〇〇年〇〇月〇〇日

上記契約を証するため本証書を作成し、各自署名押印する。

令和〇年〇月〇日

贈与者(甲)
住所:〇〇市〇〇町〇〇一丁目〇番〇号
氏名:山田 太郎 

受贈者(乙)
住所:〇〇市〇〇町〇〇一丁目〇番〇号
氏名:山田 花子 

注1・・・贈与者の死亡後に効力が発生する死因贈与である事を明記します。

注2・・・死因贈与の仮登記は原則として贈与者、受贈者の共同で行う必要があるのですが、この文言を入れる事により受贈者が単独で登記申請を行う事が出来ます。

注3・・・遺言と同様、執行者を定める事が出来ます。

【その他の注意点】
・押印は実印で行いましょう。
・収入印紙を余白に貼り付け、割印をします。
・死因贈与契約書は公正証書で作成する事をお勧めします(理由は後程ご説明します)。

② 死因贈与契約の仮登記を行う場合の登記申請書(例)

贈与者の承諾を得て、受贈者が単独で登記申請を行う場合の登記申請書(例)です。

登記申請書

登記の目的 始期付所有権移転仮登記

原因 令和〇年〇月〇日贈与(注1)
    (始期 山田太郎の死亡)

(注2)
権利者 〇〇市〇〇町〇〇一丁目〇番〇号
   (申請人)山田 花子
   TEL:〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇

義務者 〇〇市〇〇町〇〇一丁目〇番〇号
        山田 太郎

添付情報
  登記原因証明情報 承諾証明情報
  印鑑証明書(注3) 代理権限証明情報

令和〇年〇月〇日 〇〇法務局

課税価格 金〇円

登録免許税 金〇円

不動産の表示 【省略】

注1・・・日付は死因贈与契約の締結日を記載します。

注2・・・財産をもらう方(受贈者)を「権利者」、財産をあげる方(贈与者)を「義務者」と記載します。

注3・・・贈与者の印鑑証明書を添付します。
死因贈与契約を公正証書遺言で作成して、かつ贈与者が仮登記を行う事を承諾している時は、印鑑証明書の添付を省略する事が出来ます。

【昭和54年7月19日 民三4170号 通達】

仮登記義務者の承諾書を添付して仮登記権利者単独で仮登記をする場合、仮登記について承諾条項のある公正証書を承諾書とする場合は、仮登記義務者の印鑑証明書は不要。

③ 上記の仮登記について本登記を行う場合の登記申請書(例)

登記申請書

登記の目的 (注1)〇番仮登記の所有権移転本登記

原因 令和〇年〇月〇日贈与(注2)

(注3)
権利者 〇〇市〇〇町〇〇一丁目〇番〇号
        山田 花子
   TEL:〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇
(注4)
義務者 〇〇市〇〇町〇〇一丁目〇番〇号
    亡山田太郎相続人 山田一郎
   TEL:〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇

    〇〇市〇〇町〇〇一丁目〇番〇号
    亡山田太郎相続人 山田花子
   TEL:〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇

添付情報
  登記原因証明情報(注5) 登記識別情報 
  印鑑証明書(注6) 相続証明情報
  住所証明情報 代理権限証明情報

令和〇年〇月〇日 〇〇法務局

課税価格 金〇円

登録免許税 金〇円

不動産の表示 【省略】

注1・・・仮登記を行っている順位番号を記載します。

注2・・・贈与者が亡くなった日付を記載します。

注3・・・財産をもらう方(受贈者)を「権利者」と記載します。

注4・・・贈与者の相続人全員を「義務者」と記載します。

相続人全員ですので、権利者(受贈者)が相続人でも、義務者としてもう一度住所氏名を記載する必要があります。
注5・・・死因贈与契約書と贈与者が亡くなった事が分かる戸籍謄本等を添付します。
注6・・・
(原則)相続人全員の印鑑証明書を添付します。
(例外)執行者が定められている場合、執行者の印鑑証明書を添付します。

4.死因贈与契約書を公正証書で作成した方が良い理由

① 死因贈与契約を行ったと言う証拠力が高い為

何らかの法律文章を公正証書で作成する場合、公証人が本人確認・意思確認を必ず行います。

その為、自筆で作成した契約書よりも証拠力が高い為、後日相続人から「こんな契約は無効だ」と争われても十分に対応する事が出来ます。

② 登記申請を行う上で、必要な書類が減る

これが死因贈与契約書を公正証書で作成する大きなメリットになります。

仮登記を本登記にする場合、相続人全員の印鑑証明書が必要になります。

(上記の申請書では記載していませんが)執行者が指定されている場合であっても、死因贈与契約書が公正証書で作成されていない場合、

⑴ 贈与者が死因贈与契約書に押印した印鑑の印鑑証明書。
⑵ 贈与者の相続人全員が押印した承諾書(印鑑証明書付)。

のどちらかが必要になってきます。

⑴、⑵の場合も用意するのが非常に大変ですので、死因贈与契約書は公正証書で作成した方が良いでしょう。

5.まとめ

相続人が法定相続分を第三者に売却したり、債権者から差し押さえられる事は、現実的には特殊な例だと思います。

しかし、絶対に無いとは言い切れませんし、最近では不動産の持分を買い取る不動産会社も現れています。

残される家族の為にも、自宅について「死因贈与契約+仮登記」を選択肢の一つとしてご検討しても良いでしょう。

なお、死因贈与契約や登記に関しては、具体的な事情を考慮した上で考える必要がありますので、必ず司法書士等の専門家に相談するようにして下さい。

当事務所でも死因贈与契約に基づく登記関連のご相談を承っております。

お気軽にご相談下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格も持つ「もめない相続の専門家」
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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