
こんにちは。司法書士の甲斐です。
最近インターネット、特にTwitter上で、
「不動産登記はオレでも出来た!だから皆も自分で登記やればいいんだよ!」
1.「不動産登記(相続登記)は簡単!自分で出来る」と言う発言を簡単に信じてはいけない理由
さて、「登記は簡単。自分で出来る!」と言う人は沢山いますが、その理由を良く分析してみると、彼らの言っている事を鵜呑みにしてはいけない事が分かります。
① 登記申請書を見ると簡単そうに見えるから?
不動産の登記申請を行う場合、登記申請書を作成して管轄の法務局に提出する必要があります。
それでは、その登記申請書を実際に見てみましょう。
登 記 申 請 書
登記の目的 所有権移転
原 因 令和1年7月1日売買
権 利 者 ○○市○○町二丁目12番地
法 務 太 郎
義 務 者 ○○郡○○町○○34番地
甲 野 花 子
添付情報
登記識別情報(又は登記済証) 登記原因証明情報
代理権限証明情報 印鑑証明書 住所証明情報
登記識別情報(又は登記済証)を提供することができない理由
□不通知 □失効 □失念 □管理支障 □取引円滑障害 □その他( )
□登記識別情報の通知を希望しません。
令和1年7月1日申請 ○○ 法 務 局(又は地方法務局)○○支局(又は出張所)
【以下省略】
上記は法務局のWebサイトのひな型を見やすいように少し加工した物です。
上記の登記申請書をパッと見て、その内容が何となく分かる気がしませんか?
この「何となく分かる気がする」が、登記は簡単!自分で出来る!と結論付けていると思うのですが、これが大きな勘違いなんです。
例えば、申請書の中に「所有権移転」とありますが、この意味が分かりますか?「所有権移転」以外の記載方法にすべき事があるの、ご存知ですか?
「原因」に日付けが記載されていますが、この日付けはいつの日付けを記載するかご存知ですか?
このように、登記申請書に記載すべき内容については、その根拠(不動産登記法等)があります。
「なぜその項目を記載する必要があるのか?」を理解していなければ、そもそも登記申請をしたとしても正しい登記が行わなかったり、最悪申請が却下される事もあるのです。
② 法務局が丁寧に教えてくれるから?
「登記申請について、何か分からない事があったら法務局が丁寧に教えてくれるので、自分で手続きをしても大丈夫!」
この意見も良く出てくるのですが、これも大きな勘違いです。
法務局が行う相談は一般的な登記手続きに関する相談であり、例えば個別具体的な登記申請書の書き方を教えると言った、事前審査に近いような相談は行う事は出来ません。
※法務局によってはこの原則を破り、登記申請書やその他の書類の作成を行っている所があるようですが、これは例外中の例外だと思って下さい。
この事を大きく勘違いしている人が、「登記は簡単」と言っているのです。
2.そもそも、「登記は自分で出来る」と言う人は責任を取らない
では、このような「自分できる」と言う発言を信じて、実際に何らかのトラブルが発生した場合、どうなると思いますか?
不動産は数百万~数億円する高額な商品です。
その高額な商品について何らかのトラブルが発生した場合、その損害額も高額になるでしょう。
そう言えばちょっと前に、売主になりすました詐欺事件がありましたね。



このようなトラブルになった時に「自分で登記できるから」と言った人が、果たして責任を取ってくれるでしょうか?
ハッキリ言って責任なんか取ってくれません。全て自己責任です。
「自分で登記できるから」と簡単に言う人は登記の怖さを知らず、無責任に発言しているだけなのです。
3.「不動産登記(相続登記)は自分で出来る!」と言う人の真の目的
このように登記は本来怖いものです。
それにも関わらず、なぜ「登記は自分できる!」と簡単に言う人がいるのでしょうか?
実は、(全員ではありませんが)彼らにはこのような発言をする目的があります。
それは、炎上マーケティングです。
このような発言をする人達は、主に不動産会社の人間だったり、司法書士以外の他の士業だったりします。
そして彼らも何らかの事業を行っているので、何とか注目を浴びたい。
その方法として、誤った情報や批判が絶対に起きる情報を発信し、注目・炎上させ、結果的に自分が運営しているサイト等に誘導したいと言う目的があるのです。
「炎上」があくまで目的である為、登記の事をしっかりと理解して発言しているわけではないのです。
4.まとめ
誤解しないでほしいのは、登記はご自分でも出来ます。
でもそれは、ご自身でしっかりと登記の事を勉強する事と、どんなトラブルが起こったとしても、自分で全て責任を取る覚悟がある事が大前提です。
冷たい言い方ですが、このようなお気持ちが無く軽い気持ちで手を出すと、大火傷ではすまない状況になる事もあります。
「司法書士が仕事を取られたくないから言ってるんでしょ?」
と思って頂いても全然構いません。
しかし、炎上マーケティングに振り回される事なく、「何が正しいのか?」と言う事についてはしっかりと判断できるよう、皆様には「賢い消費者」になって頂きたいと思います。