
こんにちは。司法書士の甲斐です。
昨今、様々な相続対策が行われていますが、その代表的なものが「生前贈与」です。
生前贈与は相続対策の基本中の基本であり、相続対策の事をきちんと勉強された方が良く利用されているのですが、注意点があります。
それは、「生存贈与をする人が借金をしている場合、その債権者から生前贈与を取り消される可能性がある」と言う点です。
これを「詐害行為取消権」と言います。
今回は、生前贈与を行いたい時に注意したい「詐害行為取消権」の事についてお話ししたいと思います。
1.詐害(さがい)行為取消権とは?
例えば、Aさんには色々な会社から借金があり、とても自分の財産では支払う事ができない。
その為、もし自分に相続が発生した場合、家族に迷惑をかけてしまうと悩んでいます。
そのような時に、
「生前贈与で家族に財産を渡し、自分が亡くなった時に相続放棄をしてもらえば良いんだ!」
と思い付き、奥様もそれに了承し、実際に自宅を奥様に生前贈与してしまいました。
この場合、Aさんの目ぼしい財産が自宅しかない場合、債権者としては債権の回収が出来なくなる可能性があり、たまったものではありません。
このように、AさんとBさんが、Aさんの債権者の利益を害する事を知ってした行為(これを「詐害行為」と言います。)を、債権者が取り消す事が出来る制度、それが、詐害行為取消権なのです。
2.どのような場合に詐害取消権の対象となるのか?
【債務者側について】
・事例の場合で言えば、財産をあげる方(贈与者)と、財産をもらう方(受贈者)が、贈与者の債権者の利益を害する事を知っている事が必要です。
逆を言えば、受贈者が贈与者にお金が沢山あると信じていて、自宅を生前贈与しても債権者を害するとは思っていない場合は、詐害行為取消権は利用できない事になります。
・債務者は債務超過の状態(無資力)でなくてはいけません。
生前贈与を行っても、債権者にしっかりと支払うだけのお金があれば問題がありませんからね。
その為、債務者が債務超過の状態である必要があります。
【債権者側について】
・債権者が有している債権は、詐害行為が行われる前に発生していなくてはいけません。
まぁ、当然と言えば当然ですね。
・債権は原則として貸金のような金銭債権である必要があります。
ただし、物の引渡しのような債権であっても、最終的に損害賠償請求をできるようであれば、詐害行為取消権を行使する事ができます。
・詐害行為取消権は必ず裁判を行う必要があり、裁判外で詐害行為取消権を行う事は出来ません。
・詐害行為取消権は、債権者が取消の原因を知った時から2年間で消滅します。
また、詐害行為の時から20年を経過したときも消滅します。
3.詐害行為取消権が行使されたら
債権者により詐害行為取消権が行使され、裁判上確定した場合、債務者の行為は取り消されますので、その行為が無かった事になります。
事例で言えば、奥さんへの不動産の生前贈与が取り消され、所有権者が元の所有者に戻ります。
(なお、登記申請は、確定判決を元に債権者で別途行う必要があります。)
ちなみに、詐害行為取消権訴訟に関する被告は債務者ではなく、財産を取得した人となります。
4.まとめ
今回は分かりやすく生前贈与を事例にしましたが、売買等でも詐害行為取消権の対象となり得ます。
その為、相続対策はプラスの財産だけに目を配るのではなく、マイナスの財産にもしっかりと気を付ける必要があります。