相続登記を省略できるか?(両親死亡)

相続登記

こんにちは。司法書士の甲斐です。

今回の記事は不動産の相続についてご相談されたい方向けの記事です。

(なおご紹介する事例は、非常に良くあるご相談を参考にした創作です。 )

相続登記を面倒になってそのままにしている不動産について、ようやく相続登記をやろうとその気になった時に、ふと思った事がありませんか?

「曾祖父名義になっているこの不動産の名義、直接オレ名義に出来ないのか?」と

もし、相続登記を省略する事が出来るならば、登録免許税の節約になりますので、使わない手はないと思います。

実は、この相続登記の省略は、出来る場合と出来ない場合があるのです。

【事例】
Q:私の父、太郎は平成20年に亡くなりました。

相続人は配偶者である母、花子と息子である私、一郎の二人だったのですが、父の相続について目ぼしい遺産が自宅のみだった為、特に母との間で遺産分割協議を行わず、自宅の名義も父のままにしていました。

先月母も亡くなり、父の相続について遺産分割協議を行う必要も無くなった為、自宅の名義を直接私にしたいと思うのですが、何か問題はありますでしょうか?

A:本事例の場合、直接ご依頼者の方へ名義変更を行う事はできません。

太郎さんの相続に対して、花子さんと一郎さんの法定相続による名義変更を行い、その後、花子さんの相続に対して、花子さんの持分の名義を変更する二段階の手続きが必要となります。

1.遺産分割協議とは?

被相続人が亡くなられ相続が開始されると、被相続人が有していた財産は相続人がその法定相続分で相続します。

例えば、被相続人の財産が不動産、預貯金、株式で、相続人が子供の二人だった場合、それぞれの財産に対して各子供は2分の1の持分を持ち、共有で財産を取得している状態です。

その共有状態を解消し、各遺産について具体的に誰のものにするのかを相続人間で話し合うことが、遺産分割協議です。

遺産分割協議が成立すると、相続開始時にさかのぼって、各遺産を相続した事になります(民法909条)。

2.遺産分割協議を行う前に相続人が亡くなったら?

もし、遺産分割協議を行う前に、相続人の中の一人が亡くなった場合、その亡くなった方の相続人が遺産分割協議を行う地位を引き継ぎます。

事例の場合ですと、太郎さんの相続に関する遺産分割協議を行う前に花子さんが亡くなっておりますので、

・『太郎さんの相続人』である地位の一郎さんと、
・『太郎さんの相続人である花子さんの相続人』である地位の一郎さん

とで、遺産分割協議を行う必要があります。

しかし、結局のところ同じ「一郎さん」ですので、太郎さんの遺産は全て一郎さんが相続する事になります。

そうすると、本事例では太郎さんが所有している不動産について、一郎さんに直接相続による名義変更ができるはずですが、実は登記実務上、直接太郎さんから一郎さんの名義変更は認められていないのです。

3.本事例で相続登記を省略できない理由

従前は登記を省略して、直接太郎さんから一郎さんへの名義変更を行う事は可能だったのでした。

しかし、登記に関する専門誌上で本事例の場合、直接名義を変更する事ができないという取り扱いが明らかにされ、登記実務上もそのルールに則り処理をされているのです。

「甲の共同相続人乙丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記が未了の間に乙が死亡した場合には、丙を相続人とする遺産分割協議書又は乙の特別受益者証明書等の添付がない限り、直接甲から丙への相続による所有権の移転の登記を申請することはできない」(登記研究758号171頁)

「遺産分割協議が行われていない場合、または、特別受益者でない場合等には、中間の相続である一次相続が単独相続であると認めることはできません」(登記研究759号113頁)

最終的な相続人が一人の場合、そもそも遺産分割協議を行うことができないから、登記申請も省略できない、と言うのが主な理由です。

なお、最終的な相続人が二人以上の場合は、遺産分割協議ができるので直接相続人名義へ登記が行うことが可能です。

最終的な相続人が一人か複数かによって、結果が違ってくるのは少し変な話ですが、実務上はこのような取り扱いになっているが現状です(今後、取り扱いが変わる可能性もありますが、現状は上記の取扱いです)。

4.本事例で相続登記を省略する方法

本事例の最大のポイントは、父、太郎さんの相続による遺産分割協議を行う前に、母、花子さんが亡くなったことです。

もし花子さんが亡くなる前に遺産分割協議が成立していれば(その当時に遺産分割協議書を作成していなくても)、直接、太郎さんから一郎さんへの名義変更が可能となります。

そのため、相続が発生したらなるべく早く遺産分割協議を行うことをお勧めします。

なお、「遺産分割協議を行ったこと」にして、虚偽の登記申請を行うことは犯罪(公正証書原本不実記載等罪)となりますのでご注意下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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