行政書士が行う相続の手続きを分かりやすく解説します

相続一般

こんにちは。司法書士の甲斐です。

相続のご相談を承っておりますと、高確率で「司法書士と行政書士って何がどう違うのですか?」と質問される事があります。

また、酷い(?)場合は「行政書士の資格を取って、勉強とっても大変ではなかったですか?(司法書士と行政書士を完全に混同しています)」と質問される事もあります。

確かに名前に同じ「書士」と言う漢字が入っているので、司法書士と行政書士の違いが分かりにくいと思います。

その為今回は、行政書士が法律上行う事が出来る相続の業務を分かりやすく解説していきたいと思います。

1.そもそも行政書士の業務とは?

行政書士が法律上行う事が出来る業務は、行政書士法第1条の2及び第1条の3に規定されています。

(業務)
第1条の2 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。

2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

第1条の3 (省略)

第1条の3にも行政書士の業務が規定されているのですが、メインになるのは第1条の2です。

① 官公署に提出する書類

まずは、『他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類の作成』を行う事が出来ます。

「官公署」とは国と地方公共団体の諸機関の総称です。

市役所、区役所等をイメージして頂ければ分かりやすいと思います。

官公署に提出する書類とは、色々あるのですが、建設業・宅建業・旅行業などの許可申請、 飲食店・理容店・古物商などの許可申請等が代表的なものです。

② 権利義務は又は事実証明に関する書類

続きまして、行政書士は『権利義務又は事実証明に関する書類』を作成する事も出来ます。

『権利義務又は事実証明』の代表例が、相続手続きにおける遺産分割協議書です。

その他何かの契約書、会社設立時に作成する定款等ですが、『権利義務又は事実証明』と言う規定は非常に抽象的で、場合によっては世間で作成される全ての書類が行政書士の業務となり、行政書士以外が取り扱う事が出来ないような印象を受けます。

実際にはある程度の制限はありますが、それでも抽象的な規定の為、その業務範囲を巡って裁判になる事が多々あります。

(最近の例で言えば、家系図の作成は行政書士の業務ではないと判断された最高裁判例があります。)

2.行政書士が行う具体的な相続手続き代行の内容

① 遺言の原案作成

行政書士が行う相続手続きとして、まず思いつくのが遺言の原案作成でしょう。

なお、「遺言の作成」ではないのには理由があります。

遺言は遺言者本人が自筆して作成するか(自筆証書遺言)、公証人が作成(公正証書遺言)しないと、その効力は生じません。

つまり、行政書士(弁護士や司法書士もそうですが)が作成した遺言は無効になるのです。

その為、業務として行う事が出来るのは、遺言の原案作成、つまり遺言の相談業務です。

先の行政書士法第1条の2には「相談業務」を行政書士の業務としていません。

実は行政書士法第1条の3に別途相談業務が規定されているのです。

第1条の3 行政書士は、前条(注:第1条の2)に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。 
(一号~三号省略)
四 前条(注:第1条の2の事です)の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。

ところで、行政書士法で権利義務又は事実証明に関する書類作成の相談業務が規定されていますので、行政書士以外の専門家が遺言の相談業務が出来ないように思えませんか?

でも、司法書士も遺言の原案作成を行っていますよね?

不思議に思えませんか?

実は、『権利義務又は事実証明に関する書類作成の相談業務』は行政書士の独占業務では無いのです。

この事は行政書士法に明確に規定されています。

(業務の制限)
第19条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
2 総務大臣は、前項に規定する総務省令を定めるときは、あらかじめ、当該手続に係る法令を所管する国務大臣の意見を聴くものとする。

上記の相談業務は行政書士法の第1条の3に規定されています。

つまり、独占業務として規定された第1条の2ではないので、相談業務は法律上、誰でも行う事が出来ます。

まぁ、当然と言えば当然です。

『権利義務又は事実証明』はかなり抽象的で広範囲なのに、その書類作成の相談まで独占業務となってしまえば、行政書士以外の人は何も出来なくなってしまいます。

② 相続人調査の為の戸籍の取得

後ほどご紹介する『遺産分割協議書作成』において、相続人を確定する為に被相続人の戸籍(除籍・改正原戸籍)謄本を取得します。

なお、(司法書士もそうですが)戸籍取得の為の委任状を頂かなくても、行政書士法(司法書士法)に規定された業務を受任した場合、「職務上請求書」を利用する事で戸籍謄本等を取得する事が出来ます。
(当然ながら、職務上請求書で取得する場合は、この旨を説明します。)

逆を言えば、行政書士法(司法書士法)で規定された業務を受任しない限りは職務上請求書を使用する事は出来ません。

戸籍謄本等はプライベート情報の塊ですので、取得出来る条件がきちんと法定されているのです。

③ 遺産分割協議書の作成

相続人の意向を聞き取り、権利義務又は事実証明に関する書類である遺産分割協議書の作成を行います。

なお(司法書士もそうですが)、あくまで相続人の意向を聞き取ったり、遺産分割協議のやり方をレクチャーし、書類の作成が出来るにとどまります。

相続人の誰かを代理して、その方の利益を優先する為に他の相続人と交渉するのは弁護士法違反となります。

行政書士のホームぺージ等で、「他の相続人と交渉します」等謳っている場合はご注意下さい。

そのような行政書士に依頼してはいけません。

以上、行政書士が行う相続手続きの具体的内容は、遺言の原案作成、相続人調査の為の戸籍謄本取得、遺産分割協議書作成がメインとなります。

それでは次に、行政書士が出来ない相続手続きを解説していきたいと思います。

3.行政書士は銀行解約等の遺産の名義変更は出来るのか?

では、遺産分割協議が成立した後の、遺産の名義変更を行政書士が業務として取り扱う事が出来るのかと言う話に入っていきたいと思います。

まず、不動産の相続による名義変更(相続登記)は司法書士の独占業務の為、行政書士が行う事は出来ません。

報酬を得なくても出来ません。違反した場合は刑事罰の対象になります。

行政書士のホームページを見てみますと、司法書士を関与させず相続登記を行う事を宣伝している事務所も見受けられますが、このような事務所には、絶対に依頼をしないようにお願いします。

その他、相続手続きに関する預金の解約手続きを行う事が出来るのか?と言う問題があります。

実はこれは法令上の解釈として意見が対立しているのですが、現状は相続人を代理して預金の解約手続き等は出来ないとされています。

ただし、行政書士によっては預金の解約手続き代行を行っている方がいらっしゃるのですが、これはおそらく相続人ご本人様名義の書類を作成して対応しているものと思われます。

あくまで相続人ご本人が手続きを行っている体で手続きが進行しますので、書類に何か問題があった場合、ご本人様が対応しなくてはいけませんのでご注意下さい。

(行政書士がもし遺言執行者に就任していれば話は別です。遺言執行者の立場として預貯金の解約手続きは出来ます。)

4.相続放棄は行政書士が行う事が出来るのか?

相続放棄は相続手続きの中でも重要な手続きの中の一つなのですが、相続放棄は家庭裁判所に対して相続放棄の申述書を提出する必要があります。

実は裁判所に提出する書類の作成は司法書士と弁護士しか行う事は出来ません。

行政書士は報酬を得なくても行う事は出来ません。

違反した場合は刑事罰の対象になります。

ホームページの中で、相続放棄の事を色々と解説している行政書士がいらっしゃいますが、行政書士は相続放棄の為の書類作成は出来ませんのでご注意下さい。

5.まとめ

相続手続きは多岐に渡り、その手続きを行う事が出来る専門家はそれぞれ分かれています。

専門家にご相談される時は、その専門家の法律上の権限をしっかり確認し、あなたの問題をきちんと解決する事で出来る適切な専門家を選択するようにして下さい。

なお、当事務所は司法書士事務所です。

相続登記や家庭裁判所に提出する書類の作成権限は法律上ございますので、ご安心下さい。

 

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
(詳細なプロフィールは名前をクリック)

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町田・横浜FP司法書士事務所
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