
こんにちは。司法書士の甲斐です。
昨今の相続ブーム(?)を受けて、相続「税」対策の必要性が各種メディアで語られていますが、相続税対策の方法の一つとして、「アパート建設」が紹介されています。
つまり、アパートを建てる事で相続税が安くなる!と言う流れなのですが、一方でこの相続税対策の問題点も指摘されています。
「無理な相続税対策を勧めた悪徳会社が悪い!」と言えばそれまでなのですが、この問題をアパートオーナー側の視点で見ると、また別の問題がはらんでいるのです。
「アパートを建設すると言う事が、どう言う意味なのか?」
今回は、その事についてお話したいと思います。
1.なぜ、アパートを建てる事で相続税が安くなるのか?

そもそも、どうしてアパートを建てる事で相続税が安くなるのですか?

簡単に言えば、財産の評価額が下がるからです。
例えば、現金で1億円持っている場合、相続税の計算上、1億円の財産として取り扱われます。
でも、その1億円で土地を購入し、アパートを建てた場合、土地と建物は1億円の財産ではなく、それよりも低い金額の財産として取り扱われます。
さらに融資を受けて土地を購入したり、アパートを建てた場合、相続財産の額から融資を差し引く事ができますので、相続税が課税される金額がさらに低くなります。
家賃収入が入ってきますので例え融資を受けたとしても、毎月の返済に困る事はないでしょう。
さらに、大手会社が行っているサブリースを行えば、家賃保証もついていますので、全く損がないように感じます。
また貸しの事です。不動産のオーナーから業者がアパートを借りて、業者が実際にアパートを借りたい人と賃貸借契約を行います。
さらに、アパート建設で融資を受けたものの、その融資を返済する事ができずに自己破産される方もいます。
なぜ、このような問題が発生するのでしょうか
2.アパートを建てる=経営者になると言うこと!
一つの問題は、不動産会社側の問題です。
営業マンが契約欲しさにメリットばかり説明して、デメリットを一切説明していない事もあるでしょう。
「善良な市民が悪徳会社に騙された!」と言うヤツです。
でも、不動産会社と契約した本人には、何も落ち度は無かったのでしょうか?
あくまで私個人の考えですが、彼らはアパートを建てると言う意味を、十分に理解しようとしなかったと思うのです。
アパートを建てると言う事はアパート経営を行う事、経営者になると言う事です。
つまり、会社の社長です。
収入の元になる入居者は黙っていてもやってきませんので、広告等を行う必要があります。
また、アパートを建てようとしている地域に、そもそも入居者が見込めるのかも十分に検討する必要があります。
入居者がいないにも関わらずアパートを建てたとしても全く無意味ですから。
さらにキャッシュフロー、つまり、収入だけではなく、支出の事もしっかりと考える必要があります。
これが「経営」なんです。
細かい運営を業者に丸投げするとしても、アパートのオーナーは最低でもこれらの事を考える必要があるのです。
普段から何も考えない人は、
「営業マンが良い事いっているし、アパートの事良く分からないけど、家賃収入にもなるし、まぁ何とかなるでしょ?」
と考える事を放棄して契約をした結果、地獄を見ているのです。
経営の世界は「何とかなるでしょ?」が通用しないのです。
3.そもそも、その相続「税」対策、本当に必要ですか?
さらに、別の問題提起をします。
そもそも、相続「税」対策のためにアパート建設が必要なのか?と言う点です。
例えば、
・遺産の総額1億円
・借金等はなし
・相続人は配偶者、子供2人の合計3人
この場合の相続税の合計額、ザックリと計算して約630万円です。
特例を使えばもっと低くなるでしょう。
アパート建設を行う事による減税の効果は、最大で630万円です。
たかだか630万円の為にきちんと運営ができるかどうかが分からないアパートを建設して、その経営の負担を相続人に負わせると言うのは、合理的なのでしょうか?
こう言った事もしっかりと考えてほしいのです。
4.まとめ
アパート経営は上手くいけば定期収入にもなりますし、相続人にも喜ばれるでしょう。
なにより相続税対策になります。
しかし、相続税対策「だけ」のためにアパートを建設すればいずれは経営が立ち行かず、相続人に様々な負担を強いるだけの結果になります。
もし、相続税対策のためにアパートを建てるのであれば、業者の話を鵜呑みにせず、アパート建設=経営者になると言う事をしっかりと自覚し、
「全ては自己責任である」
と強く言えるような経営者を目指すようにして下さい。