「相続させる」旨の遺言と遺贈の分かりやすい解説

遺言

こんにちは。司法書士の甲斐です。

相続対策を行う上で重要になる遺言。

近頃ではインターネットや様々な書籍で遺言の書き方について紹介がされていますので、少し勉強を行えば誰でも手軽に遺言を作成する事ができます。

例えば、自宅を相続人の一人に相続させたい場合に良く使われる文章は、
「下記の不動産を長男○○に相続させる」ですが、一方で、
「下記の不動産を長男○○に遺贈する」と言う文章を見た事はありませんか?

相続させると遺贈する、結局のところ財産の権利が移転するので、その意味では同じ事になります。

ではなぜこの二つの言葉が存在するのか?その使い分けはどうすれば良いのか?と言う様々な疑問が出てくると思います。

今回はその「相続させる」「遺贈する」、この二つの特徴や様々な疑問を解説していきたいと思います。

なお、重要なポイントを先に申し上げますと、「相続させる」「遺贈する」、この二つの言葉は、その後の相続手続き(遺産の名義変更の方法)が変わってきますので、実はこの二つの言葉は意識して使う必要があるのです。

1.実は民法の原則は「遺贈」です

先ほどご紹介しました「下記の不動産を長男○○に相続させる」と言う文章、遺言の書式集等に良く紹介されている基本的な文章ですので、自筆証書遺言を作成された方は良く「~に相続させる」と言う文章を使われていると思います。

実は、この「相続させる」と言う言葉の意味をめぐって、かつて様々な議論や争いがあったのです。

「いやいや、『相続させる』って言っているのだから、相続させる、つまり指定された人がその財産の権利を取得すると言う事で良いのでは?何が問題があるの?」と思われた方、まさにその通りです。

普通に考えれば、何も問題はありません。

では、一体何が問題になったのか?簡単に解説しますと、そもそも民法の遺言に関する条文の中に、「相続させる」旨の規定が存在しないと言う事が出発点になっているのです。
民法に記載されている遺言の条文を見てみましょう。

(包括遺贈及び特定遺贈)
第964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。

このとおり、自分の財産を遺言で処分する事ができる事が規定されていますので、自分の財産を誰かに引き継がせる事が遺言により可能になるのです。

でもその方法は、条文前のかっこ書きに記載されているとおり、遺言による贈与、つまり遺贈なのです。

したがって、
「下記の不動産を長男○○に遺贈する」であれば、条文どおりなのでその法律効果は誰から見ても分かりやすいのです。
でも「相続させる」と書かれていれば遺贈ではないし、ではその意味は一体何なのか?と言う疑問に発展するのです。
この点、最高裁では
「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。」
と判断しています(最判平成3.4.19) つまり、「相続させる」遺言は、遺産分割の方法が指定されたものであり、即座にその遺産の権利が移転します。

さらに、相続人間でこの遺言と異なる遺産分割をすることはできない、と言う法律効果が生まれるのです。

(ただし、事実上は相続人全員の合意のもと、遺言の内容と異なる遺産分割協議を行う場合もあると思います。)

では、「相続させる」と「遺贈する」の言葉の違いが、その後の相続手続きについてどのように変化していくのかを見ていきましょう。

2.その後の相続手続きの方法

① 「遺贈する」の場合

遺贈、つまり、遺言による贈与の場合、財産をあげる方ともらう方が共同して手続きを行う必要があります。

財産をあげる方=被相続人ですが、当然亡くなっておりますので、相続人全員が財産をあげると言う義務を負います(遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者がその義務を負います)。

例えば、不動産の名義変更であれば、相続人(もしくは遺言執行者)と財産をもらう人の共同申請で登記を行う必要があります。

【「遺贈」のポイント】

・受遺者(財産をもらう人)は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法第986条)
遺贈はある意味、遺言者の一方的な意思表示でもありますので、受遺者側にも遺贈を放棄する権利が法律上存在します。

なお、遺贈の承認及び放棄は、撤回することが出来ませんのでご注意下さい。

・遺贈には特定遺贈と包括遺贈がある。
「特定遺贈」とは、特定の財産を遺贈する事です。

「包括遺贈」は、特定の財産を指定せず、「相続財産の2分の1」と言った割合で遺贈する方法です。

ちなみに、包括遺贈の受遺者は、相続人と同一の権利義務を有します(民法第990条)ので、遺贈の放棄を行いたい場合、家庭裁判所に申述する方法による「相続放棄」が必要になります。

(特定遺贈の場合は、単純に遺贈を放棄すれば良いだけです。)

② 「相続させる」の場合

「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法の指定であり、即座に権利移転の効果が生じます。

つまり、遺贈のように共同で相続手続きを行う必要がありませんので、例え遺言執行者が指定されていたとしても、単独で名義変更等の手続きができます。

つまり、「相続させる旨の遺言」で指定した財産は、遺言執行の対象外の財産となります。

【「相続させる」遺言のポイント】

・相続人以外に使っても意味はありません。
「相続させる」と言う言葉は財産を受け取る側が相続人である事が前提です。

その為、相続人以外の人に「相続させる」旨の遺言が残された場合、それは遺贈とみなされ、手続きも遺贈に準じた流れになります。

3.結局、「相続させる」「遺贈」どちらを使えば良いか?

どちらの文言を使用すれば良いか?非常に悩ましいところがあるかも知れませんが、これは個別具体的な事情を考えて、最終的に判断するしかありません。

(例えば、相続人がもめるのが確実に分かっているのであれば、全て遺贈する方式にして、遺言執行者を指定しておく事で、後々のトラブル最小限に食い止める事が出来るかもしれません。)

なお、最近問題になっている事案として、遺言執行者の報酬に関する事があります。

遺言執行者の報酬は、「執行する財産の価額の○%」と言う取り決めをする場合が多いのですが、「相続させる」旨の遺言の場合、上述したとおり、遺言執行の対象外の財産となります。

その為、一部の専門家、信託銀行等が遺言執行者になる時に、少しでも多く報酬を確保する為に、全て遺贈形式にしている場合があります。

しかし「相続させる」「遺贈」のどちらにするかは、あくまで総合的な事情によって考慮されるべきですので、何の説明もなく「遺贈」を提案された場合はご注意下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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