こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、相続対策について考えてはいるけど、中々重い腰が上がらない向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
1.相続を取り巻く紛争の現状
相続の事をきちんと考えていなければ、実際に相続が発生した後、相続人間でもめる事があります。
相続の紛争解決手段と言えば家庭裁判所での遺産分割調停や審判です。
裁判所が発表している資料(司法統計)によりますと、最近の件数としましては、遺産分割調停や審判で年間1万件以上の申立てがあり、さらにその約75%は、遺産総額が5,000万円以下です。さらに、1,000万円以下の遺産額でも約30%の割合となっています。
つまり、普通の家庭でも十分に相続が『争続』になりうるのです。
では、特に相続人間でもめなければ良いのでは?と思われるかもしれませんが、実際には、相続人間で紛争になっていない、もめていない。けれどもとっても手間と時間がかかって大変な相続の事例が存在します。
年間100万人を超える方が亡くなられている(厚生労働省の資料より)事を考えると、相続は、『相続人間でもめる相続よりも、もめていないが、膨大な手間がかかる相続』の件数がむしろ多い事が推測されます。
2.もめていないが、大変な相続の具体例
① ゴミ屋敷から莫大な遺産
とある方が亡くなりました。相続人の方は、その方が住んでいた賃貸アパートを片付けようと部屋の中に入ったのですが、そこで見たものは、想像を絶するような大量のゴミでした。
床は当然見えず、天井まで届くぐらいのゴミ袋の山を目の当たりにした相続人は、このまま帰りたかったらしいのですが、賃貸アパートと言う事もあり、きちんとした状態で大家に返さなくてはいけないと、嫌々ながら掃除をしていったそうです。
「このようなゴミだらけの部屋に住んでいるのだから、遺産なんてきっとないはず」と掃除をしながら相続人は思っていたのですが、ふと手にした封筒に掃除の手が止まりました。
その封筒の差出人は、有名な投資信託会社だったのです。まさかと思い封筒の中を確認すると、亡くなれた方の明細書があり、5,000万円を超える運用実績がありました。
さらに、別の相続人が見つけた封筒には、固定資産税納税通知書が入っていました。
どうやら亡くなられた方は、自分は賃貸アパート暮らしなのに、投資用物件を複数所有していたみたいです。
その後もゴミの山から遺産が次々と出てきて、結局ゴミと遺産の区別をきちんとしながら掃除をした結果、部屋が片付くまでに一ヶ月がかかったそうです。
ご自分の財産の事は、当然ご自分にしか分かりません。残される相続人の為にも、きちんと財産を整理して、目録等を作成し、誰が見ても分かるような状態にした方が良いと思います。
② 相続税の納税
ある時、「相続税に強い税理士を紹介して下さい」と相談にこられた方がいらっしゃいました。
話しを聞いてみますと、お母様が亡くなり、相続が発生したのですが、その遺産のほとんどが不動産の為、相続税が支払えずに困っている、とのお悩みでした。
誰も相続しない不動産であれば、売却して相続税の納付資金にすれば良いのですが、それでも売却までの時間がかかります。
このケースは相続税の納付が難しい事が事前に分かれば、生前に不動産を売却等の対応が出来たはずのケースです。
相続時にバタバタとするよりも、きちんと事前に相続税対策を行う事をお勧めします。
③ 奥様の住む家が無くなった
ご主人が亡くなった相続で、相続人は奥様とその子どもの三姉妹です。
奥様としてはご自宅をこれからも住むので自分名義にしたかったのですが、三姉妹の三女から「また相続が発生した時に名義を変えるのが面倒」と言う理由で、自宅は三女が相続する事になりました。
その後、奥様と三女は仲が悪くなり、三女は所有者として、自宅から奥様を追い出してしまったのです。
奥様はその後、ご主人との思い出がいっぱい詰まった自宅には戻る事なく、とある市営住宅で暮らしたそうです。
このケースは、奥様に自宅を相続させる旨の遺言を残していれば、問題は無かったケースです。
④ 相続人に認知症の方がいる
同じく、ご主人が亡くなられたケースです。相続人は奥様と長男、次男の三人です。
本来であれば、ご主人の財産について遺産分割協議を行うべきなのですが、実は奥様は認知症で、意思能力が無い状態です。
その為、遺産分割協議を行う為には、後見の申立てが必要なのですが、これに次男が大反対しています。
「もし、後見の申立てをした場合、弁護士や司法書士が成年後見人になる可能性がある。全く面識がない第三者になんか、お袋の事を任せられない。」
これが次男が反対する理由です。
その為、遺産分割協議が出来ずに、ご主人の預貯金口座が凍結されたままで、非常に困った状態になりました。
このケースも、きちんと遺言を残す事で、上記の問題を回避出来たケースです。
3.まとめ
いかがでしたでしょうか?相続人間でもめていなくても、大変な相続は沢山あります。
残されたご家族の方に、相続手続きで大変な思いをさせないように、お元気な今のうちに相続対策はやっていきましょう。
当事務所では相続対策のご相談を承っております。
「ウチは相続対策としてどのような事をやれば良いのか?」等、お悩み、お困りの場合はお気軽にお問い合わせ下さい。