【事例】
Q:私はとある方にお金を貸していました。
先日その方が亡くなったと言う話しを聞き、その唯一の相続人の方(息子)へ被相続人へ貸していたお金の事をお話したところ「私は相続放棄したから関係がない」と言われてしまいました。
相続放棄をされてしまったら、私は貸したお金を返してもらえなくなるのでしょうか?
結構な額を貸しているので、返ってこないと非常に困ります。何とかならないのでしょうか?
A:まず、本当に相続放棄をしているのか、相続人に対して相続放棄の申述受理証明書の提出を求めたり、家庭裁判所に確認する事が必要です。
なお、相続放棄をされたとしても他の相続人や次順位の相続人が相続する事になりますので、次順位の相続人からお金を返してもらう事は可能です。
1.相続放棄の確認方法
相続人から「相続放棄をしました」と言われても、それが本当かどうかは分かりません。
相続放棄をした証明として「相続放棄申述受理証明書」の提示を求めましょう。
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄を受理した家庭裁判所が発行してくれる証明書です。
なお、相続人が相続放棄申述受理証明書の提出を拒んだ場合、相続放棄を行ったかどうかを家庭裁判所で確認する事が出来ます。
【相続放棄の申述の有無についての照会】
⑴ 管轄
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
⑵ 必要書類(事例のような債権者が行う場合)
・照会申請書(各裁判所のホームページからダウンロード出来ます)
・被相続人等目録(同上)
・被相続人の住民票の除票(本籍地が表示されているもの)
・ 照会者の住民票
・利害関係の存在を証明する書面(コピー)
例えば、金銭消費貸借契約書や念書等です。
・返信用封筒と返信用切手
その他、裁判所が必要と判断した書類。
2.次順位の相続人への請求
もし相続人が本当に相続放棄を行っていた場合、次に検討すべき事は他の相続人や次順位への相続人への請求です。
相続放棄が行われると、その相続人は初めから相続人ではなかった事になり、同順位の相続人が他にいない場合、次順位の相続人が相続人となります。相続人の順位は下記のとおりです。
第2順位:父母等の上の世代
第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合はおいめい)
※配偶者は上記の第1~第3順位の相続人と同順位で相続人になります。
3.相続人全員が相続放棄をした場合
第1~第3順位の相続人全員が相続放棄をしてしまった結果、相続人が誰もいなくなった場合にとるべき解決方法は次の二つです。
① 相続財産管理人選任申立て
被相続人に財産があり、貸したお金の回収が見込めるようであれば、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てを行い、貸したお金を返してもらうと言う方法が考えられます。
裁判所への予納金が必要になりますが、被相続人に財産があるようであれば、他の債権者の状況にもよりますが、貸したお金の回収が出来る可能性があります。
なお、相続財産管理人の制度に関しての詳細はこちらをご覧下さい。

② 相続放棄申述無効確認訴訟
もう一つの方法は、相続人が行った相続放棄の申述の無効を民事で争う方法です。
相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三ヶ月以内」に行う必要があります(民法第915条)。
この三ヶ月の起算点は通常被相続人が亡くなった時からカウントされますが、場合によっては被相続人の死亡後三ヶ月経過後に相続放棄の申述が行われる場合があります。
あくまで「自己のために相続の開始があったことを知った時」からであり、被相続人が亡くなった時からではありません。
その為、被相続人が亡くなってから長期間経過した後に相続放棄がされる事も少なくありません。
その場合でも家庭裁判所で相続放棄が申述される事はほとんどなのですが、民事事件でその相続放棄の申述の無効を争う事は可能なのです。
その結果裁判に勝つ事が出来れば、相続人へ貸したお金の請求を行う事が出来ます。
4.まとめ
貸したお金を回収しようと相続人へ連絡したところ、「相続放棄をしました」と言われてしまえば頭の中が真っ白になってしまうかもしれませんが、まずは冷静に、本当に相続放棄が行われたのかを確認して、その後の対応を検討するようにしましょう。