こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、相続放棄をしたにも関わらず、遺産分割協議を求められている方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
Q:数ヶ月前に父が他界しました。
財産としては父が住んでいた築50年以上の自宅のみで、逆に借金があった為、家庭裁判所にて相続放棄の手続きを行いました(その為、父の相続人は、父の兄弟になりました)。
その後、父が住んでいた家を売却する事になったのですが、それには名義変更が必要であると、叔父が私に言ってきました。
父が住んでいた家の名義は、実は20年以上も前に亡くなった祖父の名義のままであり、父の名義に変更する必要がある為、遺産分割協議書に私の実印を押してほしいと言う事です。
私はこの遺産分割協議書に実印を押さなくてはいけないのでしょうか?
私は父の相続に関しては相続放棄をしているので、実印を押す必要はないと思っています。
しかし、あくまで私が相続放棄したのは父の相続の事であり、祖父の相続に関しては相続放棄を行っていない為、そう考えると、遺産分割協議書に実印を押す必要があるのでは?と思い、非常に考えが混乱しています。一体どうすれば良いのでしょうか?
A:事例の場合であれば、父の相続に関して相続放棄を行っているので、遺産分割協議書に実印を押す必要はありません。
1.相続人の地位の相続
事例の場合は、まず祖父が亡くなり、その後に父が亡くなっています。
おそらく父は、祖父に関する相続について相続放棄を行っていないと思われますので、そのまま祖父の相続人となります。
また、父が住んでいた家が祖父名義のままとなっていると言う事ですが、その理由として考えられるのが、
・遺産分割協議は行い家は父が相続する事になったが、遺産分割協議書を作成する前に父が亡くなった・・・等が考えられます。
どちらにしても、祖父名義の家を父名義に変更する為には、遺産分割協議書が必要です。
しかし、父は既に亡くなっていますので、祖父の相続人である父の地位を、父の相続人である子(相談者)が引き継ぎ、遺産分割協議書に実印を押印するのが原則的な流れです。
2.父の相続放棄をしている場合
しかし、事例では子は父の相続について相続放棄を行っています。
相続放棄を行った場合、その効果として、初めから父の相続人ではなかった事になります。その為、事例の場合では、遺産分割協議書に実印を押す必要はありません。
確かに、祖父の相続に関しては相続放棄等していないので、考え方として混乱するかもしれません。
『祖父の相続人である父の地位』を相続放棄した、と考えると分かりやすいと思います。
結果、父の相続人である父の兄弟が対応を行えば良い事になります。
(なお、実務上は相続放棄をした証明として、「相続放棄申述受理証明書」の添付が求められますので、取得しておきましょう。)
3.まとめ
このように、相続放棄を行ったとしても、他の相続が絡んできますと考え方が難しくなるかもしれませんが、一つ一つの相続の事をしっかりと分けて考える事で、正しい答えが出てきます。
なお、上述のとおり、相続放棄をした事を証明する為、「相続放棄申述受理証明書」は必ず取得しておきましょう。