こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、遺留分侵害額請求を行おうとしたところ、相続放棄をされてしまい、困ってしまった方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
Q:父が先日亡くなりました。
相続人は兄と私のみです。
葬儀も終わり一段落したので、兄と遺産について話をしようとしたのですが、父は生前、自分の財産を全て兄に贈与しており、父の財産はほとんどない状態である事を初めて知りました。
さらに兄は、父の相続について相続放棄を行ってしまいました。
この様な事は寝耳に水で、兄に対して散々文句を言ったのですが、兄は
「贈与は父の意志で行われた事だから」
と、全く聞き入れてくれません。もう私は父の遺産を相続する方法は残されていないのでしょうか?
A:状況によっては遺留分侵害額請求が可能ですので、その場合は遺留分に相当する遺産を取得する事が可能です。
1.相続放棄の効果
相続放棄の手続きを家庭裁判所に対して行うと、その相続人は、初めから相続人ではなかったとみなされます(民法第939条)。
つまり、父から生前贈与を受けた兄は、父の相続人ではなくなったのです。
相談者は本来であれば2分の1の法定相続分があり、この主張が出来るはすですが、本来遺産であった財産は、生前贈与により相続人ではない者に贈与されています。
元々父の財産であったのですが、兄への贈与により、遺産では無くなっているのです。
この場合、相談者は遺留分がありますので、自己の権利を回復させる為、遺留分侵害額請求を行う事が考えられるのですが、果たして相続人以外の人間に、遺留分侵害額請求を行う事が出来るのか?と言う疑問が出てくると思います。
実は、一定の条件はありますが、相続人以外の人間に対しても、遺留分侵害額請求を行う事は可能なのです。
2.相続人以外の者に対する遺留分侵害額請求
相続人以外の者に対する遺留分侵害額請求が出来る条件は、下記のとおりです。
① 相続開始前の1年間にされた財産の贈与
被相続人が亡くなる前1年間にされた贈与の財産に対しては、遺留分侵害額請求を行う事が出来ます。
なお、相続人に対する生前贈与は、特別受益に該当する可能性があり、特別受益の場合は、被相続人の死亡前何年前の贈与であっても、遺留分侵害額請求を行う事が出来ます(最判H10.3.24)。
② 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与
被相続人と受贈者の双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与については、上記の被相続人が亡くなる前1年間には関係無く、いつ行われた贈与でも遺留分侵害額請求を行う事ができます。
ただし、『被相続人と受贈者の双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知ってした』事を遺留分権利者が立証する必要はあります。
3.まとめ
以上、相続放棄を行われて相続人ではなくなったとしても、遺留分侵害額請求を行う事は可能です。ただし、その為には上記に掲げた条件がある事に注意する必要はあります。