
こんにちは。司法書士の甲斐です。
相続法が平成30年7月に改正され、その多くが今月(令和元年7月)に施行されます。
相続に関する多くのルールが変わる事になりますので、何がどのように変わるのか、ここでまとめてみたいと思います。
1.遺言に関する事
① 遺言執行者の権限の明確化
旧法では、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」と規定されているだけで、遺言執行者の法的な地位や実際に行った行為が誰に帰属するのかが、条文上明確になっておらず、実は学者等の中で様々な考え方が議論されていました。
その為、遺言者の意思と相続人の利益が対立する場合に、遺言執行者と相続人の間でトラブルになる事もありました。
この点、改正相続法では、遺言執行者の権限が明確化されるようになります。
具体的には、
・特定遺贈又は特定財産承継遺言がされた場合における遺言執行者の権限等を明確化する。
以上の内容が明確化、明文化されます。
※特定財産承継遺言・・・相続させる旨の遺言のうち、遺産分割方法の指定として、特定の財産の承継が定められたもの。
② 自筆証書遺言の要件の緩和(施行済み)
自筆証書遺言は従来、全て遺言者が自筆する必要があったのですが、いわゆる財産目録に関する部分だけは、自筆する必要がなくなりました。
(なお、当然自筆してもOKです。)
③ 自筆証書遺言の法務局での保管(令和2年7月10日施行)
自筆証書遺言は1人で手軽に作成する事ができるのがメリットなのですが、様々なデメリットがあります。
その内の一つが「保管場所」に関する事なのですが、改正相続法では自筆証書遺言を法務局で保管する事が出来るようになりました。
ただし、その施行日は来年の令和2年7月10日となりますのでご注意下さい。
2.遺産分割協議に関する事
① 夫婦間での家・土地の贈与の持ち戻し免除の推定
旧法では、夫婦間の贈与であっても、特別受益の「持ち戻し免除」の意思表示を行わない限り特別受益になり、遺産分割協議の段階で持ち戻しがなされます。
つまり、遺産分割協議で相続人全員で他の合意を行わない限り、相続人配偶者が具体的に相続できる財産が減る事になります。
この点、改正法では婚姻期間が20年以上ある夫婦間で行われた、自宅や土地の贈与については、特別受益の「持ち戻し免除」の意思表示があったと推定される事になります。
その為、遺産分割協議で特別受益の持ち戻しを行わなくても良い事になります。
② 預貯金の仮払い
被相続人の預貯金について、一定額までですが、相続人が単独で銀行等から払い戻しを受けられるようになります。
相続人の内の一人が銀行等に対して仮払いの請求する場合、その金額は、
となります。
従来は葬儀費用や相続人の生活費として使う場合でも預貯金の払い戻しが遺産分割協議を行わなければ原則出来なかったところ、これらが対応できるようになります。
なお、家庭裁判所での手続きを利用する仮払い制度もあり、こちらは上限金額はないのですが、家庭裁判所への申し立てが必要となり、費用や時間がかかるのがデメリットになります。
③ 遺産が使い込まれた場合の対策
従来では、相続人の一人に遺産を使い込まれたとしても、遺産分割協議の対象外で、その遺産を取り戻す為には最終的には民事訴訟を行う必要がありました。
そのような相続人間の不公平さを無くすため、改正法では遺産を使い込んだ相続人「以外」の相続人全員の同意があれば、使い込んだ遺産も遺産分割の対象に含める事ができるようになります。
例えば、被相続人の遺産が5,000万円、相続人が子供4人であった場合で、実は相続人Aが1,000万円を使い込んでいた場合、今までは5,000万円を法定相続分で割ると、一人あたり1,250万円で、使い込まれた1,000万円は別途相続人Aから取り戻す必要がありました。
しかし改正相続法では、遺産を使い込んだ相続人「以外」の相続人全員の同意があれば、この使い込まれた1,000万円も遺産に含め、合計6,000万円として遺産分割協議を行う事が出来ます。
※注意※
今回紹介しなかった、「配偶者居住権に関する規定」は、来年(令和2年)4月1日に施行されます。
3.相続人以外の親族が行った介護等に関する特別の寄与
旧法では相続人以外の親族(息子の嫁等)が被相続人に介護等を行っていたとしても、その親族は遺言等が無い限り、何も遺産を取得する事が出来ませんでした。
改正相続法ではこの問題点をカバーし、相続人以外の親族が、無償で被相続人の介護・看護などをしていた場合に、相続人対して、「特別寄与料」と言う金銭を請求できるようになります。
従来の「寄与分」と似た制度だと思って頂ければ大丈夫です。
4.遺留分侵害に関する事
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に与えられている最低相続分です。
この遺留分を他の相続人等に侵害された場合、「遺留分減殺請求権」と言う権利を行使して、遺留分を取り戻す事が出来ました。
ただし、この遺留分減殺請求権を行った場合、財産そのものを返還する事が原則とされてきました。
つまり、不動産であれば共有状態になってしまいます。
不動産の共有状態は非常に不便である為、改正相続法では、「遺留分侵害額請求権」と改められ、遺留分に相当する金銭を請求できるようになりました。
5.まとめ
以上、相続法改正の中で代表的なものを挙げてみました。
今回の相続法改正の多くが今月(令和元年7月)に施行されますので、混乱しないよう今までの内容と違う部分を押さえるようにしましょう。