
こんにちは。司法書士の甲斐です。
少し前に、民法の債権法が改正されるというニュースが話題になったのですが、実は相続法の改正の議論も活発になっているのをご存知ですか?
遺産分割で配偶者を優遇 民法改正の要綱案
1月16日 18時22分法務大臣の諮問機関である法制審議会の民法部会は、家事や介護を担ってきた配偶者が、遺産分割の際に優遇されるよう、現在住んでいる住居に引き続き住むことができる「居住権」を新設することなどを盛り込んだ、民法改正の要綱案をまとめました。
NHK NEWS WEBより
エラー|NHK NEWS WEB
相続は法律に沿って手続きが行われますので、その法律が改正されると言う事は、多くの人に影響をおよぼすと言う事になります。
そこで今回は、相続法がどのような改正を行われる予定となっているのか、実際に改正された時に慌てないように分かりやすく解説していきたいと思います。
1.配偶者の居住の場所を守る「居住権」
今回の相続法改正の目玉の一つが、この「居住権」です。
相続で問題になる点として、自宅の相続が挙げられます。最近では相続税対策の為に、自宅の名義を先に子供名義にする場合もあるのですが、名義を子供にする=自宅は子供の物になります。
その為、自宅に住んでいる親と子供の仲が何かの原因で悪くなった場合、子供は親を自宅から追い出す事が簡単に出来てしまうと言う問題点があります。
そこで、相続財産である自宅を使用する法律上の権利「所有権」とは別に、配偶者が引き続き住むことができる「居住権」を新設し、自宅からの退去を迫られることがないよう保護する制度が議論されています。
この居住権ですが、大きく分けて短期的な居住権と長期的な居住権の二つがあります。
短期的な居住権とは、例えば遺産分割協議が行われて自宅を配偶者以外の者が相続した場合、その者が相続した日又は相続開始時から6ヶ月を経過するいずれか遅い日までの間、配偶者はその自宅について、タダで使用する権利の事です。
長期的な居住権とは、
・被相続人が長期居住権を配偶者に遺贈した時。
・被相続人と相続人の間に、被相続人が死亡した時に配偶者に長期居住権を取得すると言う契約(死因贈与契約)をしていた時。
等の場合に、その居住している自宅について、タダで使用する事が出来る権利です。
長期居住権は、被相続人の配偶者が亡くなるまで続きます。また、長期居住権は登記の対象となる予定で、登記を行う事により被相続人の配偶者に居住権がある事が第三者から見ても明らかになります。
2.自宅が遺産分割協議の対象とならなくなる?
さらに、配偶者が居住している自宅が遺産分割協議の対象とならなくなる制度も検討されています。
今までは自宅を遺言で配偶者に贈与したり(遺贈)、生前に贈与した場合は、その自宅は原則として遺産分割協議の対象となります。
簡単に言ってしまえば自宅を遺贈若しくは贈与された配偶者は、他の相続財産(預金等)を取得する金額が少なくなるのです。
そこで、結婚して20年以上の配偶者に生前贈与や遺贈された住居は、原則として遺産分割協議の対象から除外する事とし、結果的に配偶者が取得出来る相続財産を増やす制度が議論されています。
3.自筆証書遺言の制度に関する見直し
さらに自筆証書遺言に関する制度の見直しも検討されています。
自筆証書遺言は手軽に作成する事が出来る反面、形式上のルールが非常に厳格に規定されており(全文を自書する必要があります)、そのルールどおりに作成しないと、遺言が無効になります。
相続対策を行う上で、自筆証書遺言は非常に有効なのですが、一方で厳格さが求められいますので、人によってはどうしても敬遠しがちになってしまいます。
そこで、自筆証書遺言の作成の方式を緩和して、自筆証書遺言がより作成しやすいようにする事が議論されています。
具体的には、相続財産に関する目録を添付する時は、その目録に関しては自書する事を必要としないと言う方向で話しが進んでいます。
相続財産の種類が沢山ある人は、財産を書くだけでも大変になりますので、そのような人にとってみれば非常に良い内容でしょう。
その他、法務局で自筆証書遺言を保管する事ができる制度等も議論されています。
4.まとめ
相続法改正の議論はまだまだ続いており、実際の改正はもう少し先になると思います。
さらに、今回ご紹介した内容も細かい部分では変更になる可能性もありますが、「居住権」と言う大幅な道筋は変更がないものと考えられます。
この居住権を考える事で、今後より柔軟に、いろいろな相続に対応する事が出来ると思われますので、今後も法改正の状況をしっかりと見守っていく必要があるでしょう。