こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、相続放棄についてご相談されたい方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
2ヶ月前に父が亡くなりました。相続人は父の子である私と、次男、三男の3人です。
次男と三男は相続放棄をした為、唯一の遺産である自宅について、自分で登記申請を行い、私名義の相続登記を行いました。
ところが、生前父は親族から借金をしており、その借金の抵当権が自宅に設定されていたのです。
その為、最近になって、親族から借金の返済を求められています。
そもそも父が親族から借金をしていたなんて知りませんでしたし、その額も大きい為、今から相続放棄をしたいと思っているのですが、それは可能でしょうか?
なお、もし相続放棄をした場合、親族から無効確認の訴えを提起すると言われています。
【回答】
このケースの場合、相続放棄は難しいと思われます。
1.抵当権付き不動産を相続する意味
抵当権とは、不動産を借金の担保とし、もし借金の支払いができなくなった時にその不動産を強制的に売却し、借金の返済に充てる事ができる債権者の権利です。
つまり、不動産の登記事項証明書に被相続人が債務者である抵当権が設定されていた場合、高確率で被相続人が借金を残して亡くなっている事を意味します。
(まれに、借金は完済したけど抵当権の抹消登記を忘れている方がいらっしゃいますが、それは例外的な事と思って下さい)
そして、本事例のように相続登記をしてしまえば、相続について単純承認した事になりますので、その後の相続放棄を行う事は不可能です。
なお、相談者は被相続人に借金があった事を知らなかったようですが、抵当権が設定されている不動産を相続する意味は、
「マイナスの財産である借金も、相続人である私が引き継ぎますよ」
と言っている事と同じなのです。「知らなかった」は通用しない能性が極めて高いです。
2.相続放棄が認められた場合
万が一、幸運にも家庭裁判所から相続放棄を認められたとしても、今度は債権者である親族から相続放棄の無効確認の訴えを提起される可能性があります。
(事実、本事例では親族がそう宣言しています)
家庭裁判所から相続放棄が認められた事と、その無効を民事上で争える事は、全くの別問題です。
例え相続放棄が認められたとしても、問題解決まで多くの時間とお金を割く事になります。
3.本事例を未然に防ぐ為に
本事例は、相談者本人が相続登記を行ったのですが、もし相続登記を行う前に、きちんと登記事項証明書を確認していれば、このような事態は未然に防ぐ事ができました。
なお、司法書士に相続登記をご依頼された場合、受任した司法書士は必ず最新の登記事項証明書を確認しますので、同様に未然に防ぐ事ができます。
4.まとめ
借金をしている場合、中々身内には打ち明けられないものです。
その為、被相続人が借金をしている事が分からずに、遺産の名義変更を行い、後になって慌ててしまう事案もあります。
本事例の様に、登記事項証明書を確認さえすれば借金がある事が簡単に判明する場合があります。
相続財産の調査(プラスの遺産、マイナスの遺産両方)は確実に行うようにしましょう。
また、万が一被相続人の借金があったとしても、消滅時効を主張できる事がありますので、債権者に問合せする際段階では、支払う意思表示は行わず、借金の残金を開示してもらいましょう。
相続登記の事、被相続人の借金の事、相続放棄の事でお悩み、お困りの場合はお気軽に当事務所やお近くの専門家にご相談下さい。