個人の抵当権者が亡くなった場合の相続手続き

不動産登記

こんにちは。司法書士の甲斐です。

今回の記事は、抵当権者が亡くなられて困っている方向けの記事です。

(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)

【事例】
Q.私は数十年前にある方からお金を借りました。

その時に「不安だから担保を提供してほしい」とその方に言われたので、仕方なく自宅に抵当権を設定し、登記も行いました。

その後、毎月分割払いで少しずつ返済をしていき、3年前に完済をしたのですが、抵当権の登記を抹消する事を忘れていました。

先日その事を思い出し、登記の抹消をお願いしようとしたところ、その方と連絡が取れなくなってしまいました。

色々と調べた結果、実はその方が1年前に亡くなっていたのが分かりました。

この場合の抵当権の登記の抹消のやり方について教えて下さい。

A.状況により、様々なケースが考えられますので各ケース毎に解説したいと思います。

1.抵当権設定登記の抹消

抵当権で担保されていた債権が完済等によって消滅すると、抵当権も同時に消滅します。

しかし、その登記は自動的に抹消されるのでは無く、あくまで当事者で抵当権抹消の登記申請を行わなければ、抵当権の設定登記は不動産の登記簿からは消滅しません。

その為、元債権者と不動産の所有者が共同で登記申請を行い、抵当権設定登記の抹消を行う事が原則なのですが、何十年も前の昔の抵当権の場合、事例の様に元債権者が亡くなっている事があります。

このような場合の抵当権設定登記の抹消については、ケースによって様々な方法があります。

2.完済した事の証明書がある場合

① 相続人がいて連絡が取れる場合

元債権者の相続人がいて、連絡が取れる場合であれば事情を説明し、共同で抹消の登記申請を行います。

【元債権者が死亡した場合の抵当権抹消登記申請書の例】

不動産の所有者が佐藤 進、
元債権者を山田 太郎、
山田太郎の相続人が山田一郎、山田次郎の二人の場合

登記申請書

登記の目的    抵当権抹消

原因 平成〇年〇月〇日 弁済

抹消すべき登記  平成〇年〇月〇日受付第〇〇〇〇号(注1)

権利者(注2) 横浜市西区〇〇一丁目2番3号
佐藤 進  
TEL 045-〇〇〇ー〇〇〇〇

義務者(注3) 東京都町田市〇〇四丁目5番6号
亡 山田太郎 相続人 山田 一郎 
TEL 042-〇〇〇ー〇〇〇〇

相模原市中央区〇〇七丁目8番9号
亡 山田太郎 相続人 山田 二郎 
        TEL 042-〇〇〇ー〇〇〇〇

添付書類
登記原因証明情報 登記識別情報 相続証明情報

令和〇年〇月〇日申請 〇〇地方法務局

登録免許税    金〇円(注4)

不動産の表示 (省略)

注1・・・登記事項証明書に記載されている抵当権が設定されている受付番号を記載します。

注2・・・不動産の所有者を権利者の欄に記載します。

注3・・・元債権者の相続人全員を義務者の欄に記載します。

注4・・・不動産1筆につき、1,000円です。

登記原因証明情報の例

抵当権解除証書

平成〇年〇月〇日

横浜市西区〇〇一丁目2番3号
佐藤 進  殿

抵当権者

東京都町田市〇〇四丁目5番6号
亡 山田太郎 相続人 山田 一郎 

相模原市中央区〇〇七丁目8番9号
亡 山田太郎 相続人 山田 二郎 

平成〇年〇月〇日〇〇地方法務局〇〇出張所受付第〇〇〇〇号で設定登記済の後記表示の不動産に対する抵当権は、平成〇年〇月〇日 弁済 により消滅しました。

不動産の表示(省略)

② 相続人がいるが連絡が取れない(もしくは協力してくれない)場合

元債権者の相続人に連絡をしているが無視をされている、もしくはそもそも登記申請に協力してくれない場合は、抵当権設定登記の抹消の為の裁判を行い、判決書をもとに抹消登記申請を単独で行う方法があります。

具体的には借金が返済された事により抵当権も消滅した事を主張します。

なお、消滅時効が援用出来るのであれば、

消滅時効を援用する→借金が消滅する→だから抵当権も消滅した。

と言う主張でも良いでしょう。

③ 相続人の所在が不明

相続人がどこに住んでいるのかが不明な場合、

完済した証明書と元債権者の相続人の所在が分からない事(該当相続人の住所に宛てた郵便物が不送達であった事を証する書面等)

を証明する事で、不動産の所有者が単独で抹消登記申請を行う事ができます(不動産登記法第70条3項)。

3.完済した証明がない場合

実務上、こちらのパターンが多いとは思うのですが、実はこのケースが非常に厄介です。

元債権者の相続人の方が登記申請に協力をしてくれれば良いのですが、協力をしてくれない場合、裁判手続きを行おうとしても、完済した証明がなければ裁判に勝つ事は難しいと思います。

(相続人が期日に欠席して、争う姿勢を見せなければ話は別ですが・・・。)

その為、相続人の方に対して誠意を持って、丁寧に分かりやすく状況を説明をし、協力を得る事が一番の近道だと思われます。

なお、相続人の所在が不明な場合、非訴訟事件手続法第99条に規定する公示催告の申立てを行い、同第106条1項に規定された除権決定を得て不動産の所有者が単独で登記申請ができます。

ただし、この手続きは裁判所もほぼ実績がない為、不在者財産管理人の選任申立てを勧められる事があるようです。

(どちらにしても、一般の方にとってみれば難解な手続きです。)

なお、抵当権を設定した債権の弁済期から20年を経過していた場合、別の制度を使用する事ができます。

詳しくは下記のページをご覧下さい。

4.まとめ

結論としましては、完済した証明書がきちんとあれば良いのですが、完済した証明書がなければ、抹消登記に非常に手間暇がかかります。

今後の不動産の売却等を考えられた場合、抵当権設定登記を抹消する事は必須となりますので、相続人の方に丁寧に根気良く事情を説明し、登記申請の協力をお願いする事が一番の近道だと思います。

ただし、「協力をお願いする」と簡単に申し上げましたが、相続人の立場に立ってみますと、客観的にどんなに丁寧に説明したとしても、事情が全く分からずアカの他人から連絡が来れば、「何かの悪質商法か?」と疑われて、連絡を一切無視される可能性もあります。

このような時は、登記の専門家である司法書士が相続人の方へ事情を丁寧に説明し、対応を行う事で、登記申請をスムーズに行う事ができる可能性が高まります。

個人の抵当権者が亡くなられてその対応にお困りの場合は、当事務所へお気軽にご相談下さい。

文責:この記事を書いた専門家

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格も持つ「もめない相続の専門家」
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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