【事例】
Q:私には子どもが3人います。
妻はもう亡くなっているので私の相続人はこの3人の子どもになると思うのですが、長男、次男にのみ私の財産を相続させて、三男には絶対に私の財産を相続させたくないと思っています。
三男は数年前にとある事情で勘当し、親子の縁を切った状態です。
このような場合、勘当した子どもに相続させないようにする事は出来ませんでしょうか?
私は三男をどうしても許す事が出来ず、相続させたくないのです。
1.法律上の親子の縁を切る事が出来るのか?
日本には古くから「勘当」と言う習慣があります。
これは子どもに何らかの不法行為や非人道的行為等があった場合に、親の方から親子関係を断絶させる事を指すのですが、例え勘当したとしても、法律上の親子関係は消滅しません。
その為、ご相談者の方が亡くなった場合、勘当した三男も相続人となります。
とは言え、勘当したと言う事はそれ相応の事情があっての事だと思いますので、相続させたくないと言うお気持ちも理解出来ます。
その為、今回は相続させたくない相続人がいる場合に、その対応方法を解説していきたいと思います。
2.相続させたくない相続人がいる場合の対応方法
① 生前贈与
相続させたい人物に生前贈与を行う事で、結果的に相続させたくない人物の相続分を減らす事が出来ます。
デメリットは、贈与税の基礎控除を超える贈与を行うと贈与税が発生する事と、基礎控除内で生前贈与を行う場合、長期間に渡って贈与を行う必要がある事です。
(基礎控除は年間110万円以下です。)
② 廃除
廃除とは相続人としての地位を奪う事を、家庭裁判所に認めてもらう事です。相続人の地位を奪う=相続人ではなくなりますので、その要件は厳格に規定されています。
具体的には
・被相続人に重大な侮辱を加えた時
・推定相続人にその他の著しい非行があった時
と規定されています(民法第892条)
この条文に規定された事実があれば廃除を認めてもらえそうですが、実際には廃除が認められるのは非常にまれです。
廃除は相続する権利を奪う手続きですので、家庭裁判所としてはどうしてもその判断は慎重にならざるを得ない、と言うのが理由です。
③ 遺言
遺言で相続させたい人物にのみ財産を与えると言う方法があります。
しかし兄弟姉妹以外の各相続人には、最低限相続する権利である遺留分があります。
遺留分を侵害するような遺言を作成した場合、遺留分侵害額請求権を行われる場合がありますので、その対策も必要になってきます。
④ 民事信託
民事信託とは、文字通り、財産を「信じて託す」事です。
つまり、財産を託したい人(委託者)が、自分の財産を信頼のおける人(受託者)に渡して、予め定めた目的に従ってこの財産を管理・処分(運用)し、結果得られた利益を特定の人(受益者)に与える事を取り決める仕組みです。
信託を利用して受託者に託された財産は、固有の財産とは別の財産になります。
つまり、委託者が亡くなったとしても、相続財産とはならないと言う特長があります。
その為、「相続財産ではないので、遺留分侵害額請求の対象とはならない」と言われています。
しかしそれは解釈上の話であり、実際は、明確な答えがないのが現状です。
民事信託は新しい制度の為、今後の判例の積み重ねにより、この問題は解決される事になるでしょう。
3.まとめ
相続させたくない相続人に100%相続させない方法は非常に難しいですが、ある程度のご希望に沿うものであれば、上記のとおり、様々な方法があります。
ただし、忘れてないけない視点があります。
それは「実際に相続が発生した時に、相続した家族が困ってしまったら全く意味がない」と言う事です。
財産を残す側の責任として、残された相続人が遺留分侵害額請求権を行使されたり等、トラブルに巻き込まれないような十分な配慮を行うようにして下さい。