
こんにちは。司法書士の甲斐です。
人が亡くなれば必ず何らかの相続手続きが必要となるのですが、相続手続きは法律上の手続きが大半を占めています。
つまり、法律の事をしっかりと理解していないと、正確な相続手続きが出来ないのが基本です。しかしながら、普段法律に接する事がない方にとってみれば、法律の事を調べるだけでも非常に苦労をします。
そこで今回は、相続手続きにおいて最低限必要になる法律知識をお話したいと思います。
なお、相続手続きについてより詳しい内容を知りたい方はこちらをご覧下さい。

1.相続人は誰?
まず、相続手続きを行う上で確認すべき事は、「誰が相続人になるのか?」と言う事です。
相続に関する様々な書籍やWebサイトで解説がされていますが、まだまだ多くの方が勘違いをされている部分でもあります。
なお、相続人が誰になるのかを間違えていまいますと、その後の相続手続きも全てやり直しになってしまいますのでご注意下さい。
誰が相続人になるのかは、「民法」と言う法律で決められています。
その決まり方は第1順位の相続人、第1順位の相続人がいなければ第2順位の相続人、第1、第2順位の相続人がいない場合は第3順位の相続人、と言うように相続人となる順番が決められています。
それでは具体的に見ていきましょう。
① 第1順位の相続人
被相続人(亡くなった方)の子供。子供がもし被相続人より先に亡くなっていて、さらにその子供の子(つまり、被相続人から見れば孫)がいた場合、孫やその下の世代の方が相続人になります。
(これを、「代襲相続」と呼びます。)
(具体例)
被相続人の子供がAとB。ただしBは既に亡くなっていて、Bの子供Cがいる場合は、相続人はA及びCとなります。
② 第2順位の相続人
第1順位の相続人がいない場合、被相続人の父母、父母がいない場合は祖父母と言ったように、被相続人の上の世代の方が相続人になります。
なお、第1順位と異なり、第2順位の相続人は代襲相続は発生しません。
(具体例)
被相続人には子供や孫がおらず、父Aが健在。母Bは既に亡くなっているがその父母CD(被相続人から見ると祖父母)は健在している場合、相続人はAのみです。
③ 第3順位の相続人
第1順位と第2順位の相続人がいない場合、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
なお、兄弟姉妹の中で被相続人よりも先に亡くなっていて、さらにその子供(被相続人から見れば甥姪)がいる場合、その甥姪が相続人になります。
(具体例)
被相続人には子や孫がおらず、父母も祖父母も既に亡くなっている。被相続人には兄弟姉妹のABCDがいるが、Cは既になくなっており、その子供(被相続人の甥)Eがいる場合、相続人はA、B、D、Eが相続人になります。
④ 配偶者について
ここまでお話をしましたが、疑問に思われた方もいらっしゃるかも知れませんね。
配偶者どの順位になるのか?と。
実は配偶者は第1~第3順位の相続人とは別に、常に相続人になるのです。
つまり、例えば被相続人に子供と配偶者がいる場合、子供(第1順位の相続人)+配偶者が相続人となります。
⑤ その他、勘違いしやすい相続人の事
・離婚した元配偶者は相続人ではありませんが、元配偶者との間に生まれた子供は相続人になります。親権が元配偶者にあっても、相続関係は関係ありません。
・連れ子がいる方と結婚された場合、その連れ子と養子縁組を行わない限り、法律上の親子関係は発生しません。連れ子に相続させたい場合、きちんと養子縁組を行いましょう。
2.遺産(相続財産)になるもの、ならないもの
相続人は、被相続人が有していた財産や権利義務を引き継ぐ事になります。
原則、全ての財産、権利義務を引き継ぐ事になります。
具体的には、
① いわゆる「財産」
不動産、預金、現金、株式等の有価証券、宝石、貴金属類、絵画、ゴルフ会員権、バイク、自動車等、被相続人が所有していた全ての物が遺産(相続財産)となります。
② 貸金等の債権
他人への貸付金や被相続人が商売をしていた場合の、売買代金の支払いを請求する事が出来る権利である「債権」も相続財産となります。
なお、上記の①で挙げた「預金」は、正確に言いますと金融機関に対しての債権となります。
③ 借金等の義務
被相続人の権利ばかりではなく、義務も相続する事になります。
具体的には借金等がこれに該当します。
なお、家庭裁判所に対して行う相続放棄の手続きを行えば、借金の支払いを免れる事が出来ます。
④ 相続人が引き継がないもの
被相続人の全ての財産、権利義務を相続人が引き継ぐのが原則ですが、例外的に引き継がないものもあります。
「被相続人の一身に専属したもの」は相続人が引き継ぐ事はありません。
「被相続人の一身に専属したもの」とは、被相続人としての身分、地位に基づいた権利義務であり、具体的には生活保護の受給であったり、養育費の支払い等がこれに該当します。
3.遺言書とは?
相続を考える上で、遺言書の存在も非常に重要になってきます。
現在の相続の実務や判例の考え方では、遺言があれば遺言に書かれた遺産の分け方が優先される事になります(ただし、相続人全員が合意すれば、遺言と異なる遺産の分け方を行う事も可能です)。
遺言は大きく分けて自筆で作成されたものと公正証書で作成されたものに分かれます。
自筆で作成された遺言は、被相続人の自室や貸金庫等で保管されている事が多く、公正証書で作成された遺言は、公証役場で保管されています。
被相続人の遺品を整理する時は、遺言の有無のチェックも行うようにしましょう。
4.相続人の相続分と相続分の修正
① 各相続人の相続分
相続人も確定して、遺産の調査も全て終了したら、各遺産をどのように分けるかを相続人間で話し合います。
これを「遺産分割協議」と呼びます。
基本的には遺産をどのように分けても相続人の自由なのですが、民法では各相続人の相続分が規定されています。
(相続人に配偶者がいない場合)
同順位の相続人の相続分は原則として同じです(例:相続人が被相続人の子供A、B、Cの3人の場合、A、B、Cの相続分はそれぞれ3分の1です)。
例外的に、父母の一方のみが同じ兄弟姉妹の相続分は、父母の双方が同じ兄弟姉妹の相続分2分の1となります。
(相続人に配偶者がいる場合)
・相続人が第1順位の相続人と配偶者の場合
第1順位の相続人2分の1 配偶者2分の1
・相続人が第2順位の相続人と配偶者の場合
第2順位の相続人3分の1 配偶者3分の2
・相続人が第3順位の相続人と配偶者の場合
第3順位の相続人4分の1 配偶者4分の3
※第1順位~第3順位の相続人が複数いる場合、それぞれの相続人の相続分は等しくなります。
② 寄与分、特別受益
各相続人の相続分は法律上決められていますが、この相続分を修正(増減)する制度も法律上存在します。
それが寄与分と特別受益です。
・寄与分
被相続人の財産の維持や増加について、特別の貢献をした相続人について、相続分をプラスする制度が寄与分です。
具体的な金額は、相続人間の話し合いによって決めますが、相続人間で決める事が出来ない場合は、寄与分を主張する相続人の請求により、家庭裁判所がその額を決める事になります。
・特別受益
被相続人から遺贈(遺言による贈与)を受けたり、生活の資本として贈与等(これを「特別受益」と言います。)を受けた相続人がいた場合、そのまま法定相続分で相続すると他の相続人との関係上不公平になります。
その為、特別受益を受けた相続人の相続分を減少させて、他の相続人との公平を図る制度が特別受益の制度です。
寄与分も特別受益も、あくまで法律上公平になる為の制度であり、絶対に主張、考慮しなくてはいけないと言うわけではありません。
相続人全員が寄与分、特別受益を主張しない事について納得しているのであればそれでも良いですし、相続手続きの中で寄与分、特別受益を取り上げる事が事実上、相続人間で公平になるのであれば取り上げても構いません。
法律上の規定はありますが、相続人間で柔軟に対応する事も当然可能です。
5.遺産分割協議の方法とは?
相続人、遺産、遺言、相続分の確認が終了すれば、後は相続人間で遺産をどのように分けるのかを話し会う「遺産分割協議」を行います。
① 現物分割
遺産をそのまま分ける方法です。例えば、不動産を長男A、預金を次男B、株式を三男Cが相続する、と言う決め方です。
また、(複数の)預金を解約して、その合計額を相続人で分配する、と言う方法も現物分割になります。
② 換価分割
例えば不動産のような分けにくい財産を売却して金銭に換え、その金銭を相続人間で分配する方法が「換価分割」と呼ばれる遺産分割協議の方法です。
遺産そのものを相続したい相続人がいない場合で、売却等が比較的容易に出来る場合に、良く使われる遺産分割の手法です。
③ 代償分割
被相続人の遺産が不動産のように分けにくいものしかなく、さらにその不動産を欲しがっている相続人がいて換価分割が難しい場合に利用される方法です。
特定の相続人が遺産を取得する代わりに、他の相続人の相続分に相当するような金銭を、ご自分の財産から支払う事で相続人間の公平を図る制度です。
6.相続税について
発生した相続の件数に対して、実際に相続税を課税される件数は10%以下とまだまだ少ないのですが、相続税の基本も押さえておく必要があります。
相続税は一定の金額(基礎控除)を超えた場合に課税される税金です。その基礎控除の額ですが、次のような計算式で計算されます。
【3000万 + (相続人の人数 × 600万)】
例えば相続人が3人の場合、3000万+(3人×600万)=4800万円(基礎控除)となります。
全体の遺産が基礎控除を超えていたり、超えるか超えないかが微妙な場合は、税理士にご相談した方が良いでしょう。
7.まとめ
「必要最低限の法律知識」とタイトルにつけましたが、それでも結構なボリュームになってしまいました。
相続手続きは原則的に法律の規定に従った手続きを行う必要があり、「自己流」「勘違いした知識」で手続きを行ってしまいますと、場合によっては取り返しがつかない事になる可能性もあります。
正しい知識を身につけて、問題がないような相続手続きを行うようにしましょう。