こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、働く能力があるにも関わらず働いていない相続人の相続分についてご相談、ご依頼されたい方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
Q:今年で45歳になる弟について困っています。
弟は大学卒業後にとある企業に就職したのですが、半年もたたないうちに退職してしまい、以後20年以上働く能力があるにも関わらず働いていない、いわゆるニート状態になりました。
今までは両親が働いていたので弟の生活費等の面倒をみる事が出来たのですが、両親も定年になり、今後弟の生活を支えるのにも苦労すると思います。
実は私がどうしても納得出来ない事があります。
それは今後両親が亡くなった時に私と弟が相続人になると思うのですが、弟は先程述べたとおり、全く働いておらず、両親と同居し、生活費を貰っている状態です。
しかし私はきちんと独立し自分の家を持ち、しっかりと自分自身で生活をしています。
それなのに相続が発生した場合、同じ相続分と言うのは納得いきません。
こう言った場合でも、私と弟で相続分は同じになるのでしょうか?
A:両親から弟に対して特別受益があったと認められる場合は、相続分が修正される可能性がありますが、事例の場合ですとそれが認められる可能性は厳しいかもしれません。
1.特別受益とは?
相続が発生した場合、各相続人の相続分は法律で決められています。
しかし相続人の中に被相続人から特別な贈与を受けた者がいる場合、法律で規定された相続分をそのまま適用させると、相続人間で不公平が生じてしまう事があります。
そこで民法では、各相続人間の公平を図る事を目的として特別受益という規定を定めて、被相続人より特別受益を受けた相続人がいた場合は、それを相続財産に持ち戻して、各相続人の相続分を算定する事にしています。
2.特別受益の計算方法
被相続人からの特別受益と言える為には、下記に当てはまる贈与である事が必要となります。
・結婚や養子縁組の為に財産の贈与を受けた。
・住宅購入資金等、生計の為の贈与を受けた。
【計算例】
被相続人Aの遺産は5,000万円。
Aの相続人は子どものB、C、Dの3人。BはAより住宅購入資金として1,000万円の贈与を受けていた場合。
まず、特別受益である贈与の金額を相続財産に持ち戻します。
5,000万円+1,000万円=6,000万円(みなし相続財産)
ここから、各相続人の一応の相続分を算出します。
子B,C、D 6,000万円×3分の1=2,000万円
ここから、特別受益を受けたものはその金額を引いて、具体的な相続分を算出します。
B 2,000万円-1,000万円=1,000万円
C、D 2,000万円
3.生計の資本としての贈与とは?
事例の場合では、弟は働く能力があるにも関わらず全く働いておらず、その生活は両親に依存しています。
その為、相談者はもし相続が発生した場合に不公平が生じると考えていらっしゃるのですが、ではこの場合、弟に対して特別受益が認められるのでしょうか?
恐らく特別受益の中の「生計の資本としての贈与」が事例では一番近いと思われます。
つまり、弟が両親から「生計の資本としての贈与」を受けたと認められれば、相続分を修正する事が出来る可能性があります。
では、この「生計の資本としての贈与」と認められる為の判断基準をお話しします。
特別受益の制度趣旨は、本来であれば相続分の前渡しであると考えられる程度の財産の譲渡について、具体的な相続分において考慮することで、各相続人間の公平を図る制度です。
このため、民法は、被相続人のあらゆる生前贈与を特別受益とするのではなく、このうち「生計の資本として」なされた贈与に限定していると思われます。
つまり、この特別受益の制度趣旨に照らすと、生前に行われた贈与が相続財産の前渡しと評価されるほどのものか否か、すなわち、生前に行われた贈与が親族間の扶養としての援助の範囲を超えるものかどうかという基準で判断されるのが一般的です。
なお、その重要な判断要素となるものは、下記の項目が考えられます。
・財産を贈与した趣旨
・被相続人の社会的地位や経済状況等
4.生計の資本としての贈与と認められる具体例
生計の資本としての贈与と認められ具体例としては、下記のようなものが挙げられます。
・子どもが独立起業する為の資金援助
・生活費名目だが、極めて多額の贈与
なお、上述したとおり、親族間における扶養義務の履行としての金銭援助であると評価される場合は、生計の資本としての贈与に該当しないとして、特別受益と認められない可能性があります。
5.まとめ
以上、特別受益の法律的なお話しでしたが、当事者間で話し合いによって相続分を修正するのは全然問題が無い事にご注意下さい。
つまり「お前は全然働いておらず、親から生活の援助を受けていたのだから、その分相続分を減らしてもらう」と言う話に対し、該当する相続人がそれに納得して同意すれば、それはそれで遺産分割協議が成立する事になります。
特に事例のような場合では、特別受益と認定する事が困難な場合がありますので、まずは当事者間の話し合いから進めてみるのが良いのかも知れません。