相続でもめたくない時の特効薬。心理カウンセラーの共感の技術とは?

相続一般

こんにちは。司法書士の甲斐です。

相続でもめてしまい、家庭裁判所に対して申立てられる遺産分割調停の件数が年間1万件以上あります。

この件数はあくまで家庭裁判所に持ち込まれた件数ですので、遺産分割調停の申立てはされなかったが、相続でもめた件数というのは相当数あると思われます。

相続は単純に法定相続で財産を分ければ良いと言うものではなく、自己顕示欲や感情の問題等、相続はまさに人間らしさが全面に押し出される出来事のため、本当にもめない相続とするためには、様々な事情を考慮し、建設的な話し合いを行う必要があります。

とは言え、もめない話し合いの行い方をしっかりと理解しておかないと、逆にお互いに感情的になり話し合いそのものがもめる原因となるでしょう。

そこで今回は相続における建設的な話し合いのために必要な「共感の技術」についてお話していきたいと思います。

1.なぜ相続はもめるのか?

まず、どうして人は相続でもめるのか?これを考えてみたいと思います。

人はどうして相続でもめるのでしょうか?

元々相続人間の仲が悪かった場合はもめる可能性は高いですが、仲が良かったとしても、相続をきっかけにして仲が悪くなり、関係性が修復不可能な状態に陥り、一生心の中にモヤモヤを抱えたまま生きていかなければならなくなる事だってあります。

相続は何も苦労しなくても多額の財産が手に入る。だからもめるのでしょうか?確かに、お金は人の心を変えてしまいます。

お金があれば出来る事が増えます。

今まで押さえてきた、自分の欲求を叶える事が、お金があれば出来ます。沢山お金が欲しい。だから相続でもめるのでしょうか?

もちろん、単純にお金が欲しいからもめると言うケースもあるでしょう。

しかし、ただ単純にお金が欲しいだけであれば、長期間に渡って遺産分割調停や審判を行う必要はないはずです。

なぜなら、長期間に渡って調停を行うよりも、少し譲歩してでもすぐにお金を手に入れた方がメリットがあるからです。

でも、相続でもめる家庭は長期間に渡って遺産分割調停や審判を行っています。

つまり、相続でもめる理由は単純にお金の問題だけではないのです。

家族が亡くなった時、人は何を考えると思いますか?

例えば、父親が亡くなった場合、残された子供は父親との今までの思い出にふけるでしょう。

小学生の時、どこどこへ連れて行ってもらった。デパートのおもちゃ売り場で駄々をこねて好きだったおもちゃを買ってもらった。

中学生や高校の時、進路の事で意見が合わず喧嘩したら思いっきりぶん殴られた。

社会人になって初めての給料でプレゼントしたら、照れ隠しに必死だった。結婚式の時にむちゃくちゃ泣いていた。

孫が生まれたら、あんなに厳しかった父親が仏のような顔になり、孫の面倒をみてくれた。

それから時は流れ、年をとった父親は体調を崩しがちになり、毎日自分が父の面倒をみるようになった。

「すまない。すまない」と言う父を見て、威厳があった昔の父親の面影がなく、何だか悲しい気持ちになった。

それから何年も面倒をみて、自分も肉体的、精神的に疲弊した後、父親が亡くなった。

少なくとも自分は兄弟の中で父親と一番深い関係であったし、老後の面倒もしっかりみていた。

そのように考えている時に他の相続人から「財産は均等に分けようね」と言われた場合、その人はどう思うでしょうか?

きっと、自分の人生を否定されたような気持ちになるのではないでしょうか?

自分の人生を認めて欲しい。でも認めてもらえない。だから長期間に渡ってもめる相続となるのです。

相続人にはそれぞれ言い分があります。その言い分を理解しようとせず、ムリヤリ法律に当てはめて問題を解決しようとするからもめるのです。

それでは、その言い分を理解する為には、どうすれば良いか?

様々な方法がありますが、ここでは心理カウンセラーが行う「共感」を取り上げてお話していきたいと思います。

2.円滑なコミュニケーションの為の共感とは?

① 共感の基本知識

共感とは何なのでしょうか?辞書を見てみますと、「人の意見や感情などにそのとおりだと感じること。また、その気持ち。」と書かれています。

つまり、上記の相続の例であれば、「お父さんに色々つくしてきたんだね。大変だったんだね」と感じる事になります。

しかし、本当にそれで相続でもめないのでしょうか?

例えどんなに相手の気持ちを感じ取ることができたとしても、同じ体験をしていない限り「あなたの気持ちがわかります」と言われても「分かったふりして、テキトーな事言わないで!」とますます心を閉ざしてしまうかもしれません。

では、もめない相続のために必要な共感とは一体何なのか?と言う事になるのですが、それは相手に「あなただったら信頼が出来るので何でも話す事が出来る」と思ってもらう事、及びその為のプロセスと言えます。

② 共感のためのプロセス

【受容】

上辺だけではなく、あなたの事を信頼が出来て何でも話す事が出来る人と思ってもらうためには、まず相手の事をありのままに受け止める「受容」が必要となります。

と、言葉にすると簡単なのですが、実際にやってみると非常に難しい事が簡単に想像できると思います。

なぜなら人は自分の経験や価値観から様々な事を判断する生き物だからです。

その為、相手の事を受容しようとしてもつい、「それは間違っている」「今のは常識的ではない」「オレの考えは違う」と言う考えが頭の中をグルグルまわり、時には相手の話を遮り自分の思う事を話してしまうのです。

つまり、相手の事を受容する事で重要な事は、相手のありのままの気持ちを自分の価値で判断しないと言う事です。

価値判断しない、相手のありのままの状態を、まさにそのままの状態で認識する事が共感の第一歩です。

【共感のための再現】

相手について受容する事が出来たら、次は実際に共感する為の準備を行います。

つまり、相手が感じている事、考えている事について、「どうしてそのように感じ、考えるようになったのか」について、時系列で丁寧に質問し、共感していくのです。

例えば、父が亡くなり、相続人は5人の子供達。その中に「自分は他の相続人よりも相続分が多いはずだ」と主張する相続人がいるとします。

その理由は「自分が父親に一番深く接してきたから」です。

このような時にただ言い合いを行い争うのではなく、

・具体的にどのように深く接してきたのか?(自分の生活を犠牲にしたのか?どんな事を犠牲にしたのか?)
・それはどれくらいの期間なのか?(毎日なのか?数ヶ月なのか?それとも何十年か?)
・父親から具体的にどのような事を言われたのか?(感謝されたのか?逆に邪険にされたのか?)
・その時にどのように感覚になったのか?(身体が舞い上がった?心臓がキリキリ傷んだ?絶望感しかなかった?)
・どんな気持ちになったのか(嬉しかった?、悲しかった?、悔しかった?)等、

その時の状況、感覚、感情を細かく再現してもらうのです。

ここまで詳細に再現を行えば、他の相続人もその相続人の状況や感情等、その相続人の歴史を深く体感する事が出来ますし、「それだったらそう考えても仕方がないね」と思う事が出来るはずです。

つまり、もめない相続、建設的な話し合いを行う事が可能となるのです。

3.共感するための注意点

① 自分の意見は取りあえず置く

上述したとおり、人は自分の経験、価値観で物事を判断します。

その為、他の相続人と話していても「その話はおかしい。間違っている」「こいつは常識がない」「どうやって反論してやろうか」といった考えがどうしても頭の中をグルグルまわってしまうのです。

しかし、相手にも当然、相手が考える常識や正しいと思う価値観があるのです。

あなたと相手の価値観、それがただ違うだけなのです。

その為、相手に共感し、前向きで建設的な話し合いをする為には、まずは自分の意見を取り敢えず脇に置いて、相手の話を聞くと言うスタンスが必要です。

なお、ここで重要なのは、けっして自分の意見を自分自身で否定するわけではない、と言う事です。

あくまで自分の意見を一旦置く事により、何ら先入観が無い状態で、相手の話を素直に聴く事が可能になります。

② すぐに分かろうとしない

他の相続人の思い、感情は長い年月をかけて築き上げられたものです。

さらに人の感情と言うのは様々な思いが複雑に絡み合い、時には矛盾に満ちあふれたものです。簡単には分かるはずはありません。

そのため、すぐに分かろうとしないで下さい。

相手の話、歴史を一つ一つ丁寧に聴き、その時に何を感じたのか、どのような感情になったのか等を質問するようにし、相手と同じ感情になるよう、意識を集中して下さい。

このプロセスこそが、相手と共感すると言う事に繋がるのです。

③ 対立する相手への共感の方法

実はこれが一番難しいのかもしれません。しかし、これが一番重要になります。

人は元々、対立する相手に対しては、共感しないように自動的に構えているのかもしれません。

「あいつは絶対に許せない。あいつに共感すると言う事は負けると言う事であり、それだけは絶対にやってはいけない」と。

しかし、ここまで挙げてきた事を実践していくと、実は自然に相手の視点に立つ事が出来てきます。

「あの時にあんな事を言ったのは、そう言った理由があったからか。だったら仕方がない」
「あの時にあんな行動をしたのは、それが原因だったのか。だったら理解出来る」等、

大切なのはあくまで自分の主張や感情を否定する事なく、相手の視点に立つ事。そうすれば相続でもめる事なく、きっと建設的な話し合いが出来ます。

4.まとめ

相続でもめないようにするために必要な事は間違いなく「話し合い」です。

話し合いをきちんと行わなければ、どんなに理路整然と法律上の主張を行ったとしても、もめる原因となります。

話し合いはコミュニケーションの基本です。長期間に及ぶ紛争を未然に防ぐためにも、共感の技術を活用して建設的な話し合いを行いましょう。

なお、私は司法書士だけではなく上級心理カウンセラーの資格を保有しています。

相続人間の話し合いの事でお困り、お悩みの場合はお気軽にお問い合わせ下さい。

心の中にモヤモヤをためない、もめない相続のお手伝いをさせていただきます。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
(詳細なプロフィールは名前をクリック)

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町田・横浜FP司法書士事務所
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