遺産を全てあげると言われたのに!口約束の相続は有効か?

相続・家族信託の専門家

【事例】
Q:私は3人兄弟の三男です。

先月、同居していた父が亡くなりました(母は数年前に他界)。

父の面倒を看ていたのは私であり、その為父は生前、私に対して財産を全てあげると言ってくれました。

私にとってはそれが父の遺言なのです。

先日、兄弟たちと父の遺産について話し合おうと集まった時に、父が言っていた事を兄達に伝えたのですが、兄達は全く取り扱ってくれず、あくまで法定相続分での相続を主張しています。

父が私に言った「財産を全てあげる」と言うのは、法律上何も意味がないものなのでしょうか?

A:お父様の発言は遺言としては無効ですが、お父様が亡くなった時に財産をタダであげると言う「死因贈与」には該当します。

ただし、死因贈与を主張する為には証拠が必要になりますので、事例では死因贈与の主張は非常に難しいでしょう。

1.遺言が成立する条件

遺言は大きく分けて自筆証書遺言、公正証書遺言の2つがあるのですが、それぞれ遺言が成立する為の条件があります。

・自筆証書遺言

遺言をする人が、その全文、日付及び氏名を自書(手書きの事です。パソコン等不可)して、押印する必要があります(民法第968条)

※平成31年1月13日より、財産目録に関しては自筆しなくても良い事になりました。

・公正証書遺言

⑴ 証人二人の立会の中、遺言をする人が遺言の趣旨を公証人に伝えます。
⑵ 公証人が遺言者の遺言の趣旨を書面に文章化し、それを遺言者と証人に読み聞かせます(若しくは閲覧させます)。
⑶ 遺言者と証人が文章が正確な事を確認した後、各自書面に署名、押印します。
⑷ 公証人がその証書は公正証書遺言の方式に従って作成されたものである旨を付記して署名、押印します。(民法第969条)

このように、自筆証書遺言、公正証書遺言とも有効になる為の条件はあるのですが、共通しているのは「文章にする事」です。

その為、事例のような口頭での遺言はそもそも遺言ではない事になります。

2.死因贈与

では、事例の父親の発言が、法律上全く意味がないものかと言いますと、そうではありません。

これは父の「死んだら自分の財産を全部あげる」と言う意思表示に対して、三男が「ありがとう」と承諾した場合、「財産をあげる、もらう」と言った贈与が成立します。

これは父が亡くなった時にその効力が発生する「死因贈与」と呼ばれるものです。

死因贈与は遺言のように書面にする必要はありません。

「財産をあげる、もらう」の意思表示が合致するだけで成立します。

このように父の発言は死因贈与としては有効なのですが、それを他の相続人に主張する為には、どうしても書面等の証拠が必要になります。

今回の場合は、書面が残っていない為、他の相続人に対して死因贈与を主張する事は非常に厳しいでしょう。

3.まとめ

家族間でのやり取りですので、どうしても口頭で行う事が多いとは思うのですが、他の相続人に不利益を生じさせるような財産の処分については、必ず書面を作成するようにして下さい。

煩わしいかもしれませんが、それこそが結局相続人間の争いを未然に防ぐ事につながります。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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