相続トラブルの原因にもなる「期待する事」について

相続トラブル事例

【事例】
Q:父の事でご相談があります。

私の家族構成は、父の太郎(母は既に亡くなっています)、父の長男で一郎(私)、父の次男で私の弟の二郎の3人です。

父は高齢になった為、相続対策を色々を行っているみたいなのですが、最近、公証役場で遺言書を作成したと聞きました。

問題はその内容で、父は全財産を次男である二郎に相続させると言う遺言を作成したと言うのです。

私は長男です。確かに、弟にもある程度の相続分はあると思うのですが、長男であれば親の財産を多く引き継ぐのは当然のはずです。

事実、私は独り身になった父に対して身の回りの生活の面倒を沢山みてきました。
 
それにも関わらず弟に全ての財産を相続させるような、勝手な遺言を作成する事は許されるのでしょうか?

これは私に対する裏切りであり、絶対に納得できません、この遺言書を無効にする方法は何かないのでしょうか?

A:残念ながら、太郎様が認知症で意思能力が無かった等の特殊な事情が無いかぎり、太郎様が残された公正証書遺言を無効とする方法はありません。

お父様が亡くなられた場合、最低相続分である遺留分は主張できますが、それ以外の方法を取る事は難しいでしょう。

そもそも、一郎様は太郎様の財産に対する誤った期待がありますので、まずはそれを正す事が必要になります。
  

1.親の財産は誰のものか?

まず、親の財産は誰のものでしょうか?当然ながら親の財産は親のものです。

とても当たり前の事ですが、いざ相続の場になってしまうと、この当たり前の考え方がなぜか180度変わってしまいます。

つまり、親の財産はいずれ相続で自分のものになる、だからその為に親に対して色々な働きかけをして、自分の有利なような相続にする、と言ったドラマのような事が起こってくるのです。

また、自分の財産をどのように処分しようと自由なのが当たり前です。

事例のように子供の一人に全財産を相続させる遺言を残すのも本来は自由です。

しかしながら、事例のように相続人にとってみれば不公平な相続を理由として、相続トラブルが発生する事は良くあります。

親の財産はどうしようが親の勝手です。

それなのに、なぜこのようなトラブルが起きるのでしょうか?

実はそれは誰もが心に持つ、「期待」が大きく影響しているのが原因なのです。

2.不満や怒りを生む「期待」

① 期待と現実のギャップ

人は誰でも、自分自身の価値観や考え方を、他人に対して「普通はこうあるべきだ」と一方的な期待を無意識のうちに持つ事が良くあります。

そして、自分が思っていた期待通りに物事が進まなかった時、期待と現実にギャップが生まれ、そのギャップから不満や怒りが生まれる事になります。

事例を再度検討してみましょう。

一郎さんは、自分が長男であり、また父の生活の面倒をみてきたと言う理由から、相続分が弟よりも多いはずと「期待」しています。

ところが、太郎さんは「全財産を弟に相続させる」と言う遺言を残しました。

一郎さんは最低相続分である遺留分を主張する事は可能ですが、それでも相続分は弟の二郎さんよりはるかに少ないでしょう。

現実と期待の間にはギャップがある為、一郎さんは不満を持っている、と言う流れになります。

なお、ここで言う「期待」は、客観的に正しく無かったとしても、結果的に不満や怒りを生む事になります。

本来、法定相続分は一郎さんと二郎さんで半分ずつで同じです。

一郎さんは「父の身の回りの生活の面倒をみていた」と主張していますが、おそらくそれだけでは、相続分を増加する事ができる「寄与分」は認められないでしょう。

その為、一郎さんの「期待」はそもそも客観的に正しくはないのですが、それはこの際関係が無いのです。

期待と現実にギャップが生じるだけで、場合によっては不満や怒りが生まれます。

このように、期待を持つ事が良いか悪いかは別として、人は様々な事に対して無意識に期待を持っており、時にはその期待から人間関係のトラブルに発展する事があるのです。

② 現実と期待のギャップを解消する方法

不満や怒りは物事を客観的に考えたり冷静な判断をする上で、大きな障害になります。

その為、相続の話し合いでは不満や怒りといった感情をきちんとコントロールして話し合うのが望ましいです。

しかし、人はそもそも感情の生き物ですし、そもそも色々な思惑がある相続の場では、感情をコントロールする事は非常に難しいと思います。

もし相続や遺産分割協議の時に不満や怒りで感情的になったしまったら、その時は少しだけ立ち止まって、その感情の裏側に、相手に対する一方的な期待はなかったか、ご自分の心をのぞいて見て下さい。

「どうして自分は、こんなに不満になっていたり、怒っているんだ?」と。

そしてもし何らかの期待を相手に対して抱いていたのであれば、その期待を抱いていた自分を俯瞰、つまり上から眺めるようなイメージで見て下さい。

そうする事でご自身を客観的に見つめる事ができる場合がありますし、そもそも客観的に適切ではない「期待」を相手に抱いていた事に気が付くかもしれません。

3.まとめ

無用な相続のトラブルを未然に防ぐポイントは、とにかく冷静になって建設的な話し合いを行う事です。

その為には、人が不満や怒りと言った感情を抱くメカニズムをしっかりと理解して、ご自身をコントロールする事が重要になります。

相続でもめる事は百害あって一利なしです。相続人間で適切なコミュニケーションをとり、建設的な話し合いを行うようにしましょう。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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