
こんにちは。司法書士の甲斐です。
当事務所に相続手続きをご依頼される方の中には、相続手続きをご自分で行っていたけれど、最終的に専門家である当事務所に手続きを依頼された方もいらっしゃいます。
それは
「最初は自分で相続手続きを行おうとやる気満々だったけれど、結局出来なかったから依頼した」
と言う事になるのですが、そもそもなぜ、自分で相続手続きが出来なかったのか?と言う理由が実は非常に重要になります。
何故なら、実はその理由が明確になるだけで、自分で相続手続きが出来るのか、出来ないのかと言う判断の目安となるからです。
当事務所では元々ご自分で相続手続きを行っていた方に対して、
「どうして相続手続きを自分で出来なかったのか」
その理由をヒアリングしております。
今回はその理由をご紹介してみたいと思いますので、相続手続きをご自分で行うと考えている方は、是非参考にしてみて下さい。
1.戸籍を集める事が出来なかったから
相続手続きを行う上で初めにやるべき事は、被相続人の出生から死亡時までの戸籍と、各相続人の戸籍を集める事です。
普通の方は戸籍(除籍・原戸籍)謄本を見る機会がほとんどない為、その見方を理解するのにも一苦労される方がいらっしゃいます。
さらに、相続人が被相続人の兄弟姉妹の場合で、さらにその中に亡くなっている方がいて、甥姪が相続人となる場合、集めるべき戸籍が非常に複雑になってきます。
具体的には、
・被相続人の父母の出生から死亡時までの全ての戸籍(除籍、原戸籍)謄本
・被相続人の祖父母の死亡の記載のある戸籍(除籍、原戸籍)謄本
さらに
・各相続人(代襲相続人含む)の戸籍謄本
が必要になります。
文章にすると簡単ですが、実はこれらの戸籍等を全てもれなく集める為には、戸籍がどのような理由で新しく作成されるのか、と言った事を理解する必要があり、非常に手間と時間がかかります。
また、甥姪が相続人となる場合、他の相続人との交流がほとんど無い場合があり、遺産分割協議が難航する可能性もあります。
その為、相続人に甥姪がいる場合は、そうではない場合と比べて相続手続きをご自分で行う場合の難易度が大幅に上がる事になります。
2.平日は会社で働いて、相続手続きを行う時間が無かったから
平日日中は働いているので、自分で相続手続きを行う事が出来ない、と言う方です。
相続手続き(名義変更)を行う為には銀行や法務局等に連絡、相談したり、様々な書類の提出を行う必要があります。
しかし、銀行や法務局等が開いているのは、平日の日中です。電話等で済む手続きであれば良いのですが、どうしても銀行や法務局に行く必要がある場合、仕事を休まなくてはいけません。
それも一度で済めば良いのですが、場合によっては何回か銀行、法務局に行かなくてはいけない事もあり、その都度仕事を休む必要があります。
さらに銀行預金が違う会社で複数あったり、法務局の管轄が違う複数の不動産があった場合は、さらに手間と時間がかかります。
その為、平日働いていらっしゃる会社員等の方は、相続手続きをご自分で行うのは難しいのかもしれません。
3.他の相続人がとにかく協力してくれないから
実務上、非常に困るのがこのパターンです。特に相続についてもめるわけではないのですが、相続手続きに非協力的な相続人がいて、相続手続きが進まない事があります。
相続手続きは遺産分割協議書に相続人の実印と印鑑証明書が必要になってくるのですが、遺産分割協議書に実印も押さず、印鑑証明書も用意してくれない相続人がいるのです。
「遺産分割協議に不満なのでは?」と思われるかもしれませんが、そう言うわけではなく、単純に面倒くさがっているだけなのです。
また、「そもそもどうして自分が相続手続きに関与しなくてはならないのかが分からない」と言った理由で協力してくれない相続人もいます。
このような状況の場合は、当事者だけで相続手続きを行うのは難しいのかもしれません。
4.会いたくない、話したくない相続人がいるから
これも実務上、非常に困るケースです。
元々仲が良くない相続人がいて、別にもめるつもりはないけど、相続について話をしたくない、と言うケースです。
人間である以上、性格的にあう、あわない人がいるのは避けられません。
しかし、相続は遺産について相続人全員で話し合う必要があります。
話したくない相続人がいたとしても、絶対に話し合う必要があります。
そのような時に専門家が連絡役、クッション役になる事で、相続手続きを前に進める事が出来ます。
5.本に書いている事は一般論で、我が家の事情と合っていなかったから
「自分で相続手続きを行う」趣旨の事が書かれた本は沢山あるのですが、限られたページの関係上、記載されている内容は一般論で終わっている事が多いです。
その本に記載されている内容が、実際にそのご家庭の状況に一致していれば良いのですが、少しでもイレギュラーなケースがありますと、どうすれば良いか分からずに困ってしまう、と言う事が実際に起こってしまいます。
6.金融機関からもらった書類の意味が良く分からなかったから
金融機関等が用意している相続関連の書類は、基本的に分かりやすく書かれているはずですが、それでも前提知識である法律の事が理解出来ていないと、書類に書いている内容の意味が良く分からない事があります。
その為、その都度金融機関に問合せを行う手間を考えて、専門家に相続手続きを依頼される方もいらっしゃいます。
7.まとめ
インターネットの質問サイトでは「相続手続きは自分で出来る」「自分で出来ない」の両方の意見があります。
これはどちらも正解でもあり、結局はその方の能力や置かれた状況等によって相続手続きがご自分で出来るか、出来ないかの結論が変わってきます。
まずは上記の相続手続きが自分で出来なかった例を参考にして、相続手続きをご自分で行うか否かを決めてみると良いと思います。