
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回は特別編としまして、世の中に溢れている相続手続きに関する様々な情報が本当に正しいのか?
その他素朴な疑問等を解説していきたいと思います。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
1.相続と弁護士
Q:父の相続に関して非常に困っています。
父が亡くなりその相続人は私を含む兄弟4人です。
遺産の種類が沢山あった関係から、長女が「相続に関しては弁護士に依頼したい」と言ってきて、私を含む兄弟全員も、面倒な手続きから解放されるからと思い、それを承諾しました。
ところが長女が用意した弁護士は、長女の話ばかりを聞いて、私達の意向をあまり聞いてはくれません。
その為、遺産分割協議が難航しており、時間だけがかかっています。
弁護士に任せれば安心だと思っていたのですが、なぜこのような事が起きるのでしょうか?
A:この弁護士はあくまで長女の代理人である事が理由としてあげられます。
代理人は依頼人の利益を最優先に考えなくてはいけない為、どうしても長女よりの話しになるのはむしろ当然なのです。
遺産分割協議のような、各相続人の利害が対立する場面で、全員の利益の為に動く事は弁護士の職業倫理としてむしろ望ましくありません。
その為、ご相談者様は「長女の話ばかりを聞いて、私達の意向をあまり聞いてはくれない」と感じられているのかもしれません。
解決方法としては、ご相談者様も弁護士に依頼するか、家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、中立的な立場である調停委員の前で話し合う事が考えられます。
2.国家資格者でも出来ない相続手続き?
Q:私は「相続手続きを代行します」と言う会社に、相続手続きを依頼しました。
その中で、「相続手続きの中には、税理士や司法書士と言った○○士ではないと出来ない手続きと、国家資格者でも出来ない手続きがある」と説明を受けました。
この会社は国家資格者でも出来ない相続手続きを行ってくれるそうなのですが、本当にそのような「国家資格者でも出来ない相続手続き」は存在するのでしょうか?
A:上記は非常に誤解を生じる表現だと思います。
国家資格者ではないと出来ない相続手続きは確かに存在しますが、「国家資格者でも出来ない相続手続き」等は存在しません。
要するに、国家資格者ではないと出来ない相続手続き以外の手続きは、(ご本人様から委任を受ければ)誰が行っても法律上は問題無いのです。
国家資格者によっては、知識が無いのでやらないと言う可能性はありますが、「国家資格者でも出来ない相続手続き」と言うのは存在しません。
3.成年後見人の職務
Q:父の相続について相続人の間で遺産分割協議を行いたいと思うのですが、相続人の一人である母は認知症で相続等の話の理解が全くできない状態です。
このままでは何も話しが進展しないので、後見の申立てを行い、成年後見人と言う人が家庭裁判所から選ばれれば良いと聞きました。
その後の財産の管理は私達が行いますので、遺産分割協議の為に後見の申立ての書類を作成して下さい。
A:成年後見人の職務は遺産分割協議だけではなく、その後のお母様の財産管理や身上看護におよび、成年被後見人であるお母様がお亡くなりになるまで、その職務は続きます。
よって、遺産分割協議の「為だけに」後見申し立てを行い、後は何も関与してほしくないと言った事は出来ません。
4.法定相続分は絶対か?
Q:母の相続について悩んでいます。母が亡くなり、相続人は父と子どもである私、妹の合計3人です。
母は生前自営業を行っており、それなりの財産があり、遺産分割協議を行おうとしたのですが、父は非常に真面目な性格で「法定相続分で相続しなくては法律上ダメなんだ!」と言って話し合いが進みません。
母の遺産には不動産等があり、法定相続分でキッチリと分けるのは不可能なのですが、何か良い方法は無いでしょうか?
A:お父様は勘違いをされているようです。
確かに、法律上、各相続人には法定相続分が存在しますが、当事者間の話し合いが調えば、法定相続分を無視した遺産分割協議を行っても、法律上は全然問題は無いのです。
(遺産を多く相続した相続人は、その分相続税が多くなる可能性はありますが。)
まずはお父様の誤解を解き、話し合いを進めてみてください。
なお、当事者間の協議が調わず、家庭裁判所での遺産分割調停を行った場合は、基本的に法定相続分をベースとした調停案が提示されます。
5.まとめ
このように、相続に関しては様々な情報が飛び交っている関係上、その意味を誤解している方も沢山見受けられます。
まずはその情報が本当に正確なのかを確かめる事からはじめてみましょう。