【事例】
Q:先月、主人が亡くなりました。
さしあたって自宅の名義を主人から妻である私に変更をしたいと思い、近くの司法書士事務所に相談に行ったのですが、
「被相続人が外国人である為、相続手続きが非常に難しくなります」
と言われてしまいました。
私自身は普通の相続手続きだと思っており、費用だってそこまでかからないと思っていたのですが、なぜ亡くなった人間が外国人の場合、相続手続きが難しくなるのでしょうか?
A:一番の理由は、その外国人の方の国の法律を調べる必要があるからです。
そこから不動産の相続手続きに必要な事や、不動産の名義変更(相続登記)に必要な書類や手続きを調べる必要があり、その点で通常の不動産の相続手続きよりも難しくなる為です。
1.渉外相続登記とは?
明確な言葉の定義があるわけではありませんが、不動産の相続について、被相続人や相続人と言った相続の関係者の一部、もしくは全員が外国人である場合の相続による不動産の名義変更手続き(相続登記)の事を『渉外相続登記』と呼んでいます。
法務省による在留外国人統計によりますと、平成28年の在留外国人数は約238万人で、5年前の統計では約203万人であった事を考えますと、今後も増加をしていく事が予想されます。
それに伴って外国人の方が関連する相続登記の件数も増加しておりますが、実は、外国人の方が関連する相続登記は、通常の相続登記と比べ、手間と時間がかかる非常に難しい手続きなのです。
2.被相続人が外国人の場合の相続登記はなぜ難しいのか?
被相続人が日本人の場合、民法の相続に関するルールに従って、様々な相続手続きが行われる事になります。
しかし、被相続人が外国人の場合、相続(遺産分割協議)は、「法の適用に関する通則法(「通則法」と呼ばれています)の36条「相続は、被相続人の本国法による。」と言うルールに従う事になります。
つまり、被相続人が外国人の場合、相続手続き(遺産分割協議)を行う場合、最初にその国の相続に関連する法律を調べる必要があると言う事です。
その結果、どの国の法律に基づいて相続手続きを行うのかを決めるのですが、これには大きく分けて二つの考え方があります。
① 相続統一主義
「相続手続きは、被相続人の国の法律に基づいて行う」と言う方式です。この方式の場合、その国の法律に基づいて遺産分割協議を行い、その後に日本の不動産について相続登記を行う事になります。
日本や韓国、台湾等がこの方式を採用しています。
② 相続分割主義
不動産以外の財産(動産)と不動産を区別して、適用される法律を決める方式です。例えば、被相続人の国の法律で、「不動産については不動産所在地の法律とする」と言う規定があった場合、日本の不動産については、日本の法律が適用されます。
アメリカ合衆国やイギリス等がこの方式を採用しています。
なお、上記の通則法36条で、「相続は、被相続人の本国法による。」と言うルールがありますので、その国の法律に従う事になりますが、不動産については日本の法律が適用され、しかし通則法36条では被相続人の本国法が適用され・・・とループが起こり、結論が出なくなってしまいます。
そこで「反致」と呼ばれる規定により、最終的に日本の法律を適用させる事になります。
このように、大きく分けて二つの方式があるのですが、実際には非常に細かいルールが定められている事もあり、外国の法律をしっかりと確認する必要があります。
その為、被相続人が外国人である場合の相続登記は手間と時間がかかる手続きとなっています。
3.相続手続きを行う上で確認すべき事
適用される法律が外国の法律の場合、そもそも相続人が誰になるのかを確認する必要があります。
また、養子や結婚関係に無い子供も相続人としての地位があるのか?、その他代襲相続に関連する事、遺言に関する事等、相続に関連する全ての事を確認する必要があります。
4.被相続人が外国人の場合に相続登記に必要な書類
相続登記は、日本の不動産の名義を変更する手続きでありますので、被相続人が外国人の方であっても、日本の不動産登記法のルールに従って行います。
相続登記で主に必要な書類は相続を証明する書類(登記原因証明情報)と住所を証明する書類です。
相続を証明する書類(登記原因証明情報)は、日本人が亡くなった場合、出生から死亡時までの戸籍(除籍・改正原戸籍)謄本が相続を証明する書類に該当します。
日本の様に戸籍制度がある国であれば戸籍を添付すれば良いのですが、戸籍制度は日本を含むごく一部の国でしか採用されていません。
その為、外国人の方が亡くなった場合の相続を証明する書類として考えられるのは、
・外国人登録原票記載事項証明書(ただし、2012年に廃止されていますので、それ以前に登録している方が対象です)、住民票、出生証明書や婚姻証明書、死亡証明書等です。
しかし、そもそも「相続を証明する書類」として必要なのは、
⑵ 相続登記の申請人が相続人であるという事実。
⑶ 他に相続人がいない事実。
を証明する必要があり、 上記の書類ではこれらの事実を証明するには不足しています(他に相続人がいないという事実が証明出来ません)。
その為、相続人全員が「私たちは被相続人の相続人であり、私たち以外には相続人はいません」という趣旨の、被相続人の国の在日領事館や公証人の認証を受けた宣誓供述書を入手する事で「他に相続人がいないという」と言う証明に代える事になります。
5.まとめ
このように、被相続人が外国人の場合、その国の法律を調べる事が相続手続きの第一歩となります。
また上記に挙げた点以外にも、様々な細かい事を調べる必要がありますので、十分にご注意下さい。
なお、当事務所ではこのような特殊な状況による相続登記について、ご相談を承っております。
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