不動産の相続対策。親族間売買と生前贈与、どちらが良いのか?

相続対策・認知症対策

こんにちは。司法書士の甲斐です。

相続対策の為、不動産を事前に子供名義にしたいと言うご相談を承る時があります。

生前に不動産の名義を変更する方法としまして、不動産を売却する「売買」と、タダで譲渡する「贈与」と言った方法があります。

お金を貰うか、それともタダであげるかの違いなのですが、どちらの方法にするのかについて非常に悩まれている方も少なくありません。

そこで今回は、相続対策のために、不動産を親族間で売買する方法と生前贈与する方法、それぞれの特徴を解説していきたいと思います。

1.不動産の親族間の売買について

父から子供と言ったように、親族間で不動産を売買して、名義を変更する方法です。

通常の不動産の売買と行う事は全く同じなのですが、メリット、デメリットがきちんとあります。

① メリット

・不動産が相続財産ではなくなる為、遺産分割協議の手間を省く事ができる。

相続人間の仲が良く、相続でもめる事がなくても、不動産を誰が相続するかについては悩まれるご家庭もあるようです。

しかし、不動産を子供に売却する事により、その不動産の所有者は子供になります。

その為、売却した不動産は相続財産とはならない結果、遺産分割協議の手間を省く事が出来ます。

・売買代金にある程度、融通を持たせる事が出来る。

他人に不動産を売却したい場合、買主さんと売買代金について折り合いがつかなければ、ある程度の交渉が必要になってきますが、親族間であればお互い知っていると言う関係上、売買代金についてある程度の融通を持たせる事が出来る場合があります。

(ただし、一般に取引される金額と比較して、あまりにも安い金額で売却すると、その差額分が贈与とみなされ、贈与税が課税される場合があります。)

② デメリット

・親族間でも、きちんと売買契約を締結する必要がある。

たとえ親族間であっても、しっかりとした売買契約を締結して、売買契約書を作成する必要があります。

親族間であれば、多少なあなあでも良いのではと思われるかもしれませんが、後々税務署等からあらぬ疑いをかけられないよう、きちんと売買契約を行う事、その証拠を残す必要があります。

・住宅ローンを組むのが難しい場合がある

一般的な不動産売買で、現金で不動産を購入しない場合であれば、住宅ローンを利用する事があると思います。

親族間の不動産売買も同じように現金で購入しない場合、住宅ローンの利用をしたいと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、通常の不動産売買と比較して、その審査が厳しい銀行があるようです。

その為、親族間売買で住宅ローンを利用したい場合、金融機関に事前に確認する必要があります。

③ 不動産を売却した場合にかかる税金について

不動産を売却した場合にかかる税金についても簡単に解説したいと思います。

なお、これらは国税庁のホームページを参考にした、あくまで一般的なお話です。個別具体的な事情については、税理士へご相談して下さい。

※税率は2019年7月25日現在のものです。

・売主さんにかかる税金

《譲渡所得税》

不動産を購入した時よりも高値で売却して利益が発生した場合、その利益に対してかかる税金が譲渡所得税です。

(売却不動産の取得費に売却費用を加えた額を、譲渡価格と特別控除価格(※)から差し引いた額に課税されます。)

(譲渡所得税の税率)
所有期間が5年を超える土地や建物を売却した場合、
所得税   課税価格×15%
復興特別所得税 所得税額×2.1%
住民税  課税価格×5% 上記以外の場合、
所得税   課税価格×30%
復興特別所得税 所得税額×2.1%
住民税  課税価格×9%

※ただし、譲渡する不動産が居住用、つまりマイホームであれば、譲渡所得から3,000万円の特別控除を受ける事が出来ます(要確定申告)。

この特例は非常に有名なのですが、売主と買主が親子や夫婦の関係の場合、この特例は使用出来ませんのでご注意下さい。

買主さんにかかる税金

《不動産取得税》

不動産を取得した買主に対して課税される税金です。税率は固定資産税評価額×4%です。

※ただし、土地及び住宅の場合は3%です(2021年3月31日まで)。

※宅地評価されている土地は、土地の価格を固定資産税評価額の2分の1とする特例があります(2021年3月31日まで)。

※その他にも特例があります。

2.不動産の生前贈与について

相続財産の対象になる財産を、生前にタダで相続人となる人に譲渡する事です。生前贈与にもメリット、デメリットがあります。

① メリット

・不動産が相続財産ではなくなる為、遺産分割協議の手間を省く事ができる。

売買と同様に、生前贈与されると相続財産ではなくなりますので、遺産分割協議の手間を省く事が出来ます。

・売買代金を用意しなくても良い

贈与はタダで自分の財産をあげる事ですので、財産をもらう側は、売買のように売買代金を用意する必要はありません。

② デメリット

・きちんと贈与契約を行う必要がある。

売買と同様、贈与も法律行為です。

財産をあげる方があげる意思表示をする必要がありますし、財産をもらう方ももらう意思表示を行う必要があります。

また、贈与が行われた事を客観的に証明する書面をきちんと作成する必要もあるでしょう。

・不動産の生前贈与は特別受益になる場合がある。

不動産の生前贈与はいわゆる特別受益に該当する場合があります。

被相続人から生前に贈与を受けた相続人がいる場合、この相続人が他の相続人と同じ様に法定相続分を受けられるとすれば不公平になります。

この相続人間の公平を図ることを目的として、特別受益分(贈与)を相続財産に持ち戻して計算し、各相続人の相続分を算定することが特別受益の制度です。

ただし、被相続人となる方が、この持ち戻しをしなくても良いと言う意思表示もする事が出来ます。

③ 不動産を贈与した場合にかかる税金について

不動産を贈与した場合にかかる税金についても簡単に解説したいと思います。

なお、これらは上記の売却と同様、国税庁のホームページを参考にした、あくまで一般的なお話です。個別具体的な事情については、税理士へご相談して下さい。

※税率は2019年7月25日現在のものです。

・財産をもらう方(受贈者)にかかる税金

贈与については、財産をあげる方(贈与者)にかかる税金はありません。財産をもらう方(受贈者)について贈与税が課税されます。

(贈与税の計算方法)

不動産の評価金額-基礎控除(110万円)×税率-控除額=贈与税額

※不動産の評価金額
土地・・・路線価方式若しくは倍率方式で算出
建物・・・固定資産税評価額を使用。

(贈与税の税率)《特例贈与財産用】※特例税率
親から20歳以上の子供に対しての贈与で適用される税率です。

200万円以下   10%
400万円以下   15% 控除額 10万円
600万円以下   20% 控除額 30万円
1,000万円以下 30% 控除額 90万円
1,500万円以下 40% 控除額 190万円
3,000万円以下 45% 控除額 265万円
4,500万円以下 50% 控除額 415万円
4,500万円超  55% 控除額 640万円


【贈与税の特例1】

配偶者控除・・・下記の条件を満たした場合、2,000万円までは非課税になります。

・居住用の不動産の贈与であること
・婚姻期間20年以上の夫婦の間での贈与であること
・そのマイホームに配偶者が住み続けること、等

【贈与税の特例2】

相続時精算課税制度・・・・原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度の事です。

相続時精算課税制度を利用しますと、贈与時には2,500万円まで非課税となり、その代わりに、相続のときには、生前に贈与された財産と相続された財産を足した額に相続税(一律20%)がかかるという制度です。

 ※贈与税の特例を利用する場合、贈与税の申告が必要です。

《不動産取得税》
→上記の売買と同様です。

その他、売買、贈与共通で課税される税金として、不動産の名義を変更する際の登録免許税や固定資産税等があります。

3.まとめ

税率だけを見ますと、親族間売買の方がメリットがあるのですが、生前贈与にもそれ以外のメリットがありますので、どちらが良いかはトータルで考える必要があります。

金額の損得勘定で考える事も重要なのですが、最終的に親子間で納得する形はどういった形なのかをじっくりと話し合って、結論を出す必要があります。

当事務所では不動産の親族間売買や生前贈与と言った相続対策のご相談を承っております。不動産の親族間売買、生前贈与でお悩みの場合はお気軽にお問い合わせ下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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