
こんにちは。司法書士の甲斐です。
家族信託(信託契約)では様々な事を家族信託の内容として決める必要があります。
その中でもっとも重要な事と言えば、家族信託の当事者、つまり「委託者・受託者・受益者」です。
委託者・受託者・受益者は、家族信託の登場人物であり、家族信託がきちんとその目的にそって継続していく為の重要な要素となります。
ところが、家族信託における委託者・受託者・受益者は基本的に個人であり、場合によっては亡くなる事があります。
家族信託の登場人物が亡くなって欠けた場合、一体どのようにすれば良いのでしょうか?そのままで問題なく家族信託を継続させる事が出来るのでしょうか?それぞれの登場人物の地位は相続されるのでしょうか?
今回はその家族信託の委託者・受託者・受益者が亡くなった時に関するお話をしていきたいと思います。
1.委託者が亡くなった場合
まずは委託者が亡くなった場合の、信託法の規定を見てみましょう。
(遺言信託における委託者の相続人)第百四十七条 第三条第二号に掲げる方法(著者注:遺言信託)によって信託がされた場合には、委託者の相続人は、委託者の地位を相続により承継しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
委託者が亡くなった場合については、この条文でしか規定されていません。
家族信託の方法の一つ、遺言信託では原則、委託者の地位は相続されません。しかし、この条文を反対解釈しますと、遺言信託以外の家族信託では、委託者が亡くなった場合、その地位は相続人に相続される事になります。
ただし、信託契約の中で「委託者の地位は相続しない」等、別のルールを決める事が出来ます
権利関係の錯綜を防ぐ為、基本的には委託者の地位を相続させないとする規定を置くのが多いと思います。
2.受託者が亡くなった場合
続いて、受託者が亡くなった場合やその他の理由で受託者の任務が終了する場合の、信託法の規定を見てみましょう。
(受託者の任務の終了事由)
第五十六条 受託者の任務は、信託の清算が結了した場合のほか、次に掲げる事由によって終了する。ただし、第三号に掲げる事由による場合にあっては、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
一 受託者である個人の死亡
二 受託者である個人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと。
三 受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと。
四 受託者である法人が合併以外の理由により解散したこと。
五 次条の規定による受託者の辞任
六 第五十八条の規定による受託者の解任
七 信託行為において定めた事由(二項以下省略)第六十二条 第五十六条第一項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、信託行為に新たな受託者(以下「新受託者」という。)に関する定めがないとき、又は信託行為の定めにより新受託者となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず、若しくはこれをすることができないときは、委託者及び受益者は、その合意により、新受託者を選任することができる。
また、注意が必要な点として、受託者が死亡して1年間、新受託者が選任されなかった場合、強制的に家族信託は終了してしまう事が挙げられます。
3.受益者が亡くなった場合
受益者が亡くなった場合、受益者が有していた「受益権」が相続の対象となります。
その為、受益者が死亡した場合は、相続人が受益者となります(受益権を相続することで受益者となります)。
なお、委託者と受託者同様、信託契約の中に別のルールを定めれていればそのルールに従う事になります。
4.まとめ
信託法では一応、家族信託の当事者である委託者・受託者・受益者が亡くなった場合の規定が定められています。
しかし、信託法の規定で新しい当事者を定めようとしても、それが出来ない場合があります(信託法の規定の通り、新受託者を委託者と受益者の合意で定めようとも、どちらかが認知症等で意思能力が無ければそれは不可能になるでしょう)。
その為、家族信託はありとあらゆる事態を想定し、初めから信託契約の内容として定めておく事が、家族信託が問題無く機能する上での重要なポイントになります。