こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、死因贈与についてご相談されたい方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
Q:私もそれなりの年齢になり、相続の事を考えなくてはいけない状態になりました。
私の相続人となる者は、私の妻と別居している息子のみです。
実は私の妻は寝たきりで外出する事が困難になっており、私が亡くなった後の事を考えますと、誰も妻の面倒を看る者がいなくなり、非常に気がかりになっています。
息子に遺産を多めに渡しても構わないので、それと引き換えに息子が妻の面倒を看てくれるような方法は無いでしょうか?
A:ご相談内容の場合、息子様と負担付の死因贈与契約を締結する事が、一つの解決方法として考えられます。
1.(負担付)死因贈与契約とは?
死因贈与とは贈与の一種なのですが、贈与者(財産をあげる者)が死亡する事によって効力が生じる贈与の事です。
贈与者の死亡後に効力が生じますので、遺言に近い性質があり、その為、遺言による贈与(遺贈)の規定が、その性質に反しない限り、適用されます(民法第554条)。
また、この死因贈与契約に関しては、事例のように「遺産をあげる代わりに、妻の面倒を看る」と言った条件=負担を付ける事ができます。
これを「負担付死因贈与契約」と言います。
なお、相続税も死因贈与を遺贈に含めて規定しており、相続税の課税対象としています。
2.遺贈との違い
① 単独行為と契約
大きな違いは、遺贈は遺言者による単独の意思表示ですが、死因贈与はあくまでお互いの契約であると言う点です。
契約である為、その負担を行わない場合、債務不履行責任を問われます。
② 放棄が可能か否か
遺贈は遺言者の単独行為の為、受遺者(遺贈を受ける者)は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をする事ができます(民法第986条)。
遺贈でも負担を定める事が出来るのですが、せっかく妻の面倒を看てもらいたくても、受遺者が遺贈を放棄してしまえば、全く意味はありません。
死因贈与であれば、お互いの契約の為、原則勝手に放棄、撤回をする事は許されません。
この点で言うと、負担を定めるのであれば、死因贈与の方が良いのかも知れません。
※書面によらない死因贈与であれば、いつでも撤回は出来ます。
ただし、受贈者が契約に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、特段の事情がない限り撤回はできません。
③ 書面の作成義務
遺贈は遺言による贈与ですので、遺言の作成に関しては法律上、厳格な規定があり、原則書面の作成が必要ですが、死因贈与は書面の作成は法律上義務付けられていません。
しかし、②で記載したとおり、書面によらない贈与はいつでも撤回ができますので(民法第550条)、契約書の作成、特に公正証書での契約書の作成をお勧めします。
3.死因贈与のデメリット
死因贈与の対象を不動産とした場合、下記のデメリットがあります。
① 不動産の登録免許税が相続と比べ高くなる
通常の相続による所有権移転登記の場合、登録免許税は不動産の評価額の0.4%ですが、死因贈与を原因とする所有権移転の場合、2%となります。
② 不動産取得税が発生する
不動産取得税は、不動産を取得した際に、1回だけ発生する税金です。
相続人が相続により不動産を取得した場合、不動産取得税は発生しませんが、死因贈与の場合、4%の税率が発生します。
4.死因贈与契約書のサンプル
① 贈与する意思表示と、それを受諾する意思表示を記載します。
② 不動産の場合、登記の順位を保全する為、仮登記を行う事ができ、死因贈与契約書の中にもその内容を盛り込む事ができます。
③ 遺贈に関する規定が適用され、執行者を定める事ができます。なお、執行者を定めた場合、死因贈与契約書が私文書か公正証書かによって、その後の不動産の所有権移転登記手続きに関する添付書類(登記義務者の印鑑証明書)が変わってきます。
・公正証書の場合
執行者の印鑑証明書のみ。
・私文書の場合
登記の真正を担保する意味から、贈与者の印鑑証明書又は贈与者の相続人全員の承諾書及び印鑑証明書+相続人全員であることの証明書(戸籍等)が必要(登記研究566号参照)。
5.まとめ
死因贈与契約にもメリット、デメリットはありますが、何かしらの負担を求めるのであれば、死因贈与契約(特に公正証書での契約書作成)が優れています。
「公正証書は何だか難しいそう」と思われましても、ご相談者様の状況を適切にお伺いさせて頂き、適切な文案を作成させて頂きますので、お気軽に当事務所にお問い合わせ下さい。