自分の死後の事を丸ごとお願いしたい(死後事務委任)

相続一般

【事例】
Q:相続の事でご相談です。

私は数年前に夫に先立たれ、現在一人暮らしです。

子供も両親もいない為、私の相続人となるのは兄弟なのですが、実は兄弟も既に亡くなっている為、私の相続人となるのは甥姪になります。

甥姪との交流はほとんどない為、私が死んだ場合、財産は全てとある児童養護施設にあげたいと思っています。

また交流がない甥姪には迷惑をかけたくないため、葬儀や納骨等、死後の一切の手続きを誰かにお願いしたいと考えています。このような事は可能なのでしょうか?

A:死後事務委任契約を利用する事で、甥姪に迷惑をかける事なく、死後の手続きを行う事が可能です。

1.遺言の限界

ご自分の死後の事について、その意思を残す事が出来る代表的はものが遺言です。

遺言で自分の財産を相続させたい者を指定すれば、原則遺言に記載したあなたの意思が優先されます。

このように、ご自分の意思を残すと言った意味では、遺言は非常に有効なものなのですが、それでも限界があります。

それは「遺言で出来ない事=法的拘束力を持たせる事が出来ない事がある」からです。

人が亡くなった時様々な手続きが存在します。例えば、

葬儀、死亡診断書・死体検案書の取得、死亡届、埋火葬許可申請手続及び埋火葬行為、納骨、公的年金・社会保険等の処理手続き、遺品整理etc。

ざっと挙げただけでも、これだけあります。

では、この死後の手続き(これを死後の事務と言います)を遺言で誰かにお願いしたとしても、法的な拘束力がなく、あなたの想いが実現されない事もあるのです。

でも現実には事例のように、遠縁の相続人に迷惑をかけたくなく、死後の事務をあなたの親しい方、信頼が出来る方にお願いしたいと思う事もあると思います。

このような問題を解決出来る方法が「死後事務委任契約」なのです。

2.死後事務委任契約とは?

死後事務委任契約とは、委任者(あなた)が受任者(死後事務をお願いする人。法人でもOKです)に対し、あなたが亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等についての代理権を与えて、死後の事務を委任する契約です。

死後事務委任契約は文字通り契約ですので、契約内容で決めた死後事務の内容については法的拘束力を持たせる事が出来ます。

なお、契約書の形式は特に法律上決まっていませんが、第三機関(市区役所等)に提示する事もありますので、疑義を生じさせないよう、公正証書で作成する事をお勧めします。

3.死亡届の提出について

ただし、死後事務委任契約を締結したとしても、受任者が出来ない事があります。

それは「死亡届の提出」です。

実は死亡届は戸籍法で届出義務者が決められており、その届出義務者以外の者が届け出る事は出来ません。

戸籍法
第87条 左の者は、その順序に従つて、死亡の届出をしなければならない。但し、順序にかかわらず届出をすることができる。
第一 同居の親族
第二 その他の同居者
第三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人 
2 死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人及び任意後見人も、これをすることができる。

事例では「同居の親族、その他の同居者」はいません。

死後事務委任契約の受任者が「家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人」であれば良いのですが、そうではない場合、相続人である甥姪が「同居の親族以外の親族」に該当する為、甥姪が死亡届を提出する必要が生じてしまいます。

しかしそれでは「甥姪に迷惑をかけたくない」と言う想いを実現出来なくなります。

その為実務では戸籍法第87条2項の「任意後見人」も死亡届が出来る事に着目し、委任者と任意後見契約を締結し、死後事務をカバーする場合があります。

なお、任意後見の詳細についてはこちらをご参照下さい。

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4.まとめ

このように、ご自分の死後の事を全てお願いしたい場合、遺言(遺言執行者もきちんと指定しましょう)と死後事務委任契約、場合によっては任意後見契約を締結する事で、相続人に迷惑をかけずに、安心して最期を迎える事が出来ます。

当事務所では死後事務委任契約のご相談も承っております。

死後の事務について、お悩み、お困りの場合はお気軽にご相談下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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