
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、後妻の方が、相続人に前妻との子供がいる場合の相続について、もめない相続の話し合いをされたい方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
Q:先月、私の主人が亡くなりました。
主人と私の間には子供はいないのですが、主人は私とは再婚で、前妻との間に子供がいます。
主人は前妻と離婚してから何十年もその子供とは会っておらず、私も当然に主人の前妻との子供とは会った事がありません。
本等で調べた結果、前妻との子供も主人の相続人になる事が分かったのですが、色々とトラブルになると言うお話も耳にします。
私としては特にもめる気持ちは全くないのですが、前妻との子供との相続の話し合いの中で、注意すべき点を教えて下さい。
A:例えあなたにもめるつもりが無くても、あなたの何気ない発言や行動から、もめる相続に発展する事が十分に考えられます。
基本的には常に公平である事を心がけて下さい。
なお、ここで言う「公平」とは客観的な公平の事です。
「あなた」にとっての公平ではない事に十分にご注意下さい。
1.前妻との子供VS後妻
TVドラマで良くありそうなシチュエーションですが、実際の相続においても前妻との子と後妻は、相続において良くトラブルになります。
特に事例のように前妻との子供と後妻が交流が無く、お互いの事が良く分からない状態で相続が発生した場合、お互いの気持ちが確実にすれ違います。
特に主な財産が自宅の場合、後妻は当然自宅に住み続けたいと思うのですが、子どもは売却して法定相続分で分けたい、と言った紛争状態に突入する事が十分考えられます。
本来は、亡くなったご主人がこの点について遺言等で相続トラブルに発展しないようにしっかりとケアをすべきなのですが、残念ながら多くの男性はこの点については非常に無関心です。
その為、無駄な相続トラブルを未然に防ぐためには、相続人間でしっかりと努力する必要があります。
2.後妻が前妻との子供との相続トラブルを未然に防ぐ為に注意すべき事
前妻との子供との相続トラブルを未然に防ぐ方法はただ一つ、「常に相手思考を心がける。相手から見て不審な行動を行わない。」という事です。
まずは相手思考、つまり「相手の立場になって物事を考える」事を徹底して下さい。
前妻との子供との相続トラブルは、この「相手の立場になって物事を考える」事をおろそかにした結果、発生している事がほとんどです。
具体的には、ご主人が亡くなる前後でご主人名義の預金を引き出したり、遺産分割協議を常にご自分の優位に進める事等です。
① ご主人の預金を勝手に引き出す事について
被相続人の未払いの入院費や葬儀費用に充てたりする事を目的として、被相続人が亡くなる前後で預金を引き出す事は、通常の相続でも良く行われます。
その為、あなたもご主人の預金を引き出す事が当たり前と思い引き出したのかもしれませんが、前妻との子供の立場になると、あなたの行動はどのように見えるでしょうか?
おそらく、「後妻が遺産隠しをした。」と思われても不思議ではありません。
あなたは「失礼ね!そんな事するハズないでしょう!!」と怒るかも知れませんが、相手の立場になると、そう見えてしまうのです。
実際に被相続人の預金を後妻が数百万円単位で引き出した事について、そのお金を何に使ったのかをきちんと説明できない後妻の方が良くいらっしゃいます。
こんな事をしてしまったら、もめて当然です。
その為、被相続人の預金を仮に引き出すのであれば、何にいくら使ったのかの記録と領収書を絶対に保管するようにして下さい。
② 遺産分割協議を常にご自分の優位に進める事について
また、遺産分割協議を常にご自分の優位に、ご自分のペースで行うのも危険です。
基本的に被相続人の遺産は、後妻であるあなたが管理しているはずです。
その為、遺産分割協議についてどうしても優位に進めがちになってしまいますが、これもNGです。
良くあるパターンとして、後妻が自宅不動産を取得し、前妻との子供が預金を取得する、と言う遺産分割協議が成立する事があります。
ただし、相続登記が完了した後に、後妻が管理している預金(通帳等)を前妻との子供に渡す、と言う主張がされる事があります。
後妻であるあなたの立場で考えれば、

今後住む自宅はどうしても確保したい。相続登記は完了するまで時間がかかる。その間の登記が出来ないリスクは私が負う事になる。だから通帳を渡すのは相続登記が完了した後にしたい。
と思われるのは当然です。
あなたにとっては自宅を確保する事は死活問題ですので、相続登記が完了するまでは遺産(通帳)を渡したくないと思うのは一見公平に見えます。
しかしこの考え方は、実は全く間違っており、公平ではないのです。
③ 相続登記完了後に他の遺産を引き渡す事が不公平な理由
まず、多くの方が誤解している点があります。
それは、相続登記を行う事でご自宅の所有権が移転するわけではありません。
あくまで相続人間で遺産分割協議が成立した段階で、相続開始時に遡ってご自宅の所有権を取得した事になります。
つまり、登記をしてもしなくても、遺産分割協議が成立した段階で、あなたがご自宅の所有者なのです。
(登記はあくまで相続人以外の第三者に所有権を対抗する為に行うだけです)。
また、そもそも相続登記を行う行わないは、ご自宅を相続した相続人の自由です。
相続登記を義務とした法律は、現在存在しませんので。
以上の事から、どのような結論が導き出されるか分かりますか?
ご自宅を相続しない前妻との子供は、相続登記に必要な書類(遺産分割協議書に署名・押印、印鑑証明書、戸籍謄本等)をご自宅を相続するあなたに引き渡せば、前妻との子供がやるべき事は終了です。
それ以上、相続登記について前妻との子供が負うべき法律上の義務はありません。
と言う事は、「相続登記が完了してからではないと、遺産(通帳)を渡さない」と言う主張が、どんなに不公平であると言う事がご理解いただけると思います。
なお、「もし相続登記が出来なかったら誰がどう責任をとってくれるのか?」と言うご質問をたまに承るのですが、登記ができなかった責任を取るのは登記申請を行ったあなたご自身です。
また、あなたが司法書士に依頼したのであれば、その司法書士が取るべきです。
なぜなら、上記で説明したとおり、「相続登記は法律上の義務ではない」からであり、前妻との子供は相続登記に必要な書類をあなたに渡せば、その義務を果たした事になるからです。
その印鑑証明書が偽造されたもの等、特殊な事情がない限り、登記の責任は申請者のあなたや司法書士が負うべきです。
以上、法律上の義務がない、ご自宅を相続しない前妻との子供にその責任を転嫁させる事は、法律上不公平である事がご理解いただけたと思います。
その為、どうしても相続登記の完了を優先したいのであれば、上から目線で交渉を行うのではなく、その事情をあなたは前妻との子供に対して、しっかりと丁寧に説明すべきでしょう
3.まとめ
もめる相続になった原因の多くが、「相手の立場を無視した、自己都合の考え」が発展したものです。
「普通はこうでしょう」
「これぐらいやっても大丈夫でしょう」
等、あなたにとっての「普通」「常識」は相手にとって「普通」「常識」ではありません。
交流がほとんどない前妻との子供とのもめる相続を防ぐ為には、丁寧すぎるぐらい丁寧な説明を、誠実すぎるぐらい誠実な対応を行う必要があります。