
こんにちは。司法書士の甲斐です。
被相続人がお亡くなりになった直後に、相続のご相談をされる方がたまにいらっしゃいます。
そのほとんどのケースが、「お父さんが住宅ローンを残して亡くなったのですが、住宅ローンも相続の対象になるのですか?」と言うご相談です。
確かに、残されたご家族としては何百万、何千万と言う住宅ローンを支払っていくのは大変な事であり、相続においては非常に重要な関心事でしょう。
対象の不動産の登記事項証明書を取得しますと、確かに住宅ローンらしき抵当権が設定されていますので、ご家族はますます心配になってしまうのですが、実は、住宅ローンが無くなる可能性があるのをご存知でしょうか?
そのカラクリは、「団体信用生命保険」です。
本日は、被相続人が「団体信用生命保険」通称、「団信」に加入されていた場合の相続と、その注意点をお話ししていきたいと思います。
1.団体信用生命保険、通称「団信」とは?
団体信用生命保険とは、その名の通り生命保険なのですが、住宅ローン専用の生命保険です。
通称「団信(だんしん)」と呼ばれています。
団信に加入していれば、住宅ローンの債務者(不動産の所有者)が亡くなった時や一定の病気になった時に、住宅ローンの残金が保険会社から金融機関に支払われ、住宅ローンを清算することができます。
つまり、加入者である被相続人が亡くなった事により、住宅ローンが消えてなくなるのです。
住宅ローンを利用する時は、団信の加入が条件とされていることがほとんどです。
・・・そうなのですが、実は肝心の団信の契約者である被相続人やそのご家族が、団信に加入していた事をすっかりと忘れている事がほとんどなのです。
基本的に不動産の所有者が住宅ローンを組み、団信に加入してから亡くなるまでは数十年間と言った期間が経過する事が通常です。
さらに、保険料を支払っているのは住宅ローンの貸し手である銀行等の金融機関です。
一般の生命保険のように毎月契約者の口座から保険料が引き落とされているわけではありませんので、ご家族は、被相続人が団信に加入していた事をすっかりと忘れてしまうのです。
その為、被相続人が亡くなって司法書士に相談したり、金融機関に連絡した時に団信に加入していた事を記憶の彼方から思い出す、と言う事がよくおきるのです。
2.団信で住宅ローンが消滅した場合の注意点
「あると思っていた住宅ローンが消えたのだから、嬉しい事しかないはず。どうして注意しなくてはいけない事があるの?」
と思われるかもしれませんが、実は注意すべき点があるのです。
それは、住宅ローンがある=不動産としての価値もそこまでないだろうと思い込み、被相続人が相続対策を全く行っていない、ノーガード状態になっているケースが多々あるのです。
住宅ローンがある=価値がない不動産、と思っていたところ、「実は住宅ローンはもうありません」と言う状態になれば一転、その不動産は資産としての価値がある不動産に変化するのです。
そのような時はもめる相続に発展する事が多いのです。
相続人間で不動産の帰属を巡ってもめる事もありますし、
「実はその不動産には私にも権利があるのだ!」と、突然その不動産の権利を主張してくる遠縁の親戚が現れたり、
「実はお父さんにお金を沢山貸していたんだ。その不動産を売ってお金を返してもらおうか」と詰め寄ってくる近所のおじさんも現れるかもしれません。
当然の事ながら、被相続人はこのような事態を想定していなかったため、残された相続人は、突然権利を主張してくる人達の対応を行わなくてはいけなくなるのです。
3.住宅ローンがある不動産の相続対策
まずは団信に加入しているか確認を行うようにしましょう。
団信に加入しているのであれば、相続が開始した場合に、住宅ローンの負担のない、完全な不動産を残す事ができます。
その不動産を相続するのに誰が一番良いかを決め、遺言等で相続対策を行いましょう。
団信にもし加入されていない場合(ごくまれにこのような方もいらっしゃいます)、相続が発生した場合にどうやって住宅ローンを支払っていくのかをご家族で事前に話し合って下さい。
住宅ローン等の負債の話しは、被相続人が亡くなった後に行うと必ずバタバタします。
その為、事前に話し合うようにしましょう。
4.まとめ
団信に加入されていた場合、抵当権の抹消登記も行う必要があります。
(住宅ローンが消滅しても、抵当権の登記は自動的に消滅しません。あくまで登記の申請を行う事が必要です。)
今後、不動産を売却したり、担保にする場合に抵当権の登記が残っていますと不利益になりますので、早めに抵当権の登記の抹消を行いましょう。
なお、抵当権の登記を抹消する為の書類は金融機関が用意してくれるはずですので、それを元に法務局で登記相談を行いご自身で申請するか、お近くの司法書士に抵当権の抹消登記の依頼を行って下さい。