
こんにちは。司法書士の甲斐です。
相続でよく話題に出てくるお話しの一つとして、「子供は親のために相続を放棄すべきか?」と言うお話しがあります。
例えば、父親が亡くなり、相続人が母親と子供の場合、子供が母親のために父の遺産を一切相続しない、もしくは少しの遺産しか相続しない、と言う事です。
相続の事を相談できる質問サイト、ポータルサイトでもこの話題が定期的にあがっており、特に「発言小町」と言う女性向けサイトでは、「子供は親のために相続を放棄すべき」と言う傾向が強いに思えます。
しかし、それを巡って親と子供のトラブルに発展しているケースもあり、注意点が必要でもあると言えます。
1.法律はあくまで平等
まず、法律(民法)では、親と子供の相続分が決められているのですが、それはあくまで平等で2分の1づつです。
(子供が複数いた場合、「2分の1×子供の人数」が、子供一人あたりの相続分になります)
あくまで子供にも相続する権利がありますので、法律上で言えば「子供は親のために相続を放棄すべき」とはならないはずです。
つまり、それはあくまで子供が親の事を思う「感情的」な配慮であり、本当は相続を放棄する事を求める事はできないはずです。
しかしながら、高齢の方の中には、「子供は親のために相続を放棄して当然」と思っている方がいて、子供に相続を放棄するよう頭ごなしに言って、親と子供が大ゲンカ、と言う事も良くあります。
親としては子供は親孝行して当然!と思うかもしれませんが、法律上は子供にも相続の権利はありますし、それを頭ごなしに否定すると、当然もめる相続になります。
親のために相続を放棄すると言う事は、あくまで子供の自主的な気持ちである必要があります。
2.どうして子供は親のために相続を放棄すべきなのか?
それではなぜ、子供は法律で認められている権利であるにも関わらず、それを放棄すべきと言った議論がなされているのでしょうか?
一つには、親の財産はあくまで親が築いたものであり、子供は相続すべきではない、と言う考え方があります。
父の財産は母の協力のもと、何十年もかけて築き上げた財産であり、それは当然に親のものであり、子供のものではけっしてない。
だからこそ、父親が亡くなっても母に遺産を全て渡すべきだ、と言うわけです。
もう一つは、残された母の生活のために、子供は相続を放棄すべきと言う考えです。
父親が高齢で亡くなった場合、母親も通常は高齢で働く事ができないでしょう。
老後の資金として、何百万から何千万円は必要になってくるはずです。
その為、母親が不自由なく暮らしてもらうためにも、母に全ての遺産を相続させるべき、と言う事です。
そもそも、仮に法定相続分どおりや、子供が多く遺産を相続した結果、母親が生活に困窮してしまえば、子供が母親を扶養しなくてはいけません。
そうなってしまえば本末転倒ですので、そのような意味でも、子供は相続を放棄すべきと思っている方がいらっしゃるのです。
3.親のために相続を放棄する場合の注意点
ところで、親のために相続を放棄する場合に、絶対にやってはいけない事があります。
何だか分かりますか?
それは、文字通り、家庭裁判所での「相続放棄」は行ってはダメだと言う事です。
家庭裁判所での「相続放棄」の手続きを行いますと、初めから相続人にならなかった事になります。
その為、母親と次順位の相続人(被相続人の父母や兄弟姉妹)が被相続人の相続人となりますので、「母親に全ての遺産を相続させる」と言う目的が達成する事ができなくなります。
その為、家庭裁判所での相続放棄ではなく、あくまで遺産分割協議で全ての遺産を母親に相続させる事にして、その遺産分割協議書を作成するようにしましょう。
4.まとめ
冒頭でもご紹介しましたが、一番やってはいけないのが「決めつけ」です。
法律上は子供にも当然に相続する権利はあります。
それにも関わらず、親の方から相続を放棄する事を子供に迫れば、子供は当然に感情的になります。
そこからお互い一歩も引かず、相続の話し合いができなくなってしまったら、その解決としては遺産分割調停や審判を行わざるを得ないでしょう。
ちょっとした対応のミスから、争いが長期化することは十分に考えられます。
相手の事を考えない「決めつけ」は絶対に行わないようにしましょう。