
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、根抵当権が設定された不動産について売却を考えている方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
Q:私は横浜市のとある場所に土地を所有しているのですが、相続税の納付資金に充てる為、この土地を売却をしたいと思っています。
しかし売却に関して、一点問題があります。実はこの土地には、私の弟の為の根抵当権が設定されているのです。
弟は個人事業主を行っており、事業はそれなりに成功をしているのですが、その事業の拡大の為、まとまった資金が必要となり、弟からの相談を受けた私は、弟の為に自分の土地に根抵当権を設定した経緯があります。
この根抵当権付き不動産の売却を行うに際して、注意すべき事を教えて下さい。
1.根抵当権とは?
まずは民法の条文を見てみましょう。
(根抵当権)
第398条の2 抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
2 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
条文を一読しても中々分かりづらいと思いますので、抵当権と比較しながら解説したいと思います。
抵当権とは簡単に言えば借金の担保の為に不動産に設定する権利の事です。
例えば、あなたが友人にお金を貸して、友人の不動産に抵当権を設定した場合で、友人がもしあなたへの支払いが出来なくなった場合、あなたは抵当権が設定された友人の不動産を売却して、優先的に支払いを受ける事ができます。
これが抵当権です。
(なお、抵当権は不動産に登記しなくても契約行為で成立するのですが、登記まで行うのが一般的です。)
抵当権の特徴は色々とあるのですが、その中の一つが、借金が全額返済された場合、抵当権と言う権利も消滅する「付随性」と言う特徴があります。
抵当権は借金の担保ですので、借金が消えれば抵当権も消えるのはむしろ当然と言えます。
しかし、この場合、継続的にお金の貸し借りを行いたい場合、少し困った事になります。
お金を貸す度に抵当権の設定登記をして、完済する度に抵当権を抹消登記をして・・・と言う非常に忙しい事になって大変です。
では、一定の金額を上限にして(これを「極度額」と言います)、債権者と債務者が取り決めした、ある特定の継続的な取引や一定の種類の取引(金銭消費貸借取引とか、売買取引等)を全て担保する抵当権があればどうでしょうか?
この抵当権であれば1回登記すれば、その後は登記を設定したり抹消したりの煩わしさはありません。
この、「極度額」を限度にして、継続的に続く特定の取引や一定の種類の取引から発生した債権を担保するのが根抵当権なのです。
2.根抵当権付き不動産を売却したい場合
① 残債務の確認
根抵当権が設定されている不動産を売却する場合、抵当権とは異なる手続きが必要になるような印象を受けるかも知れませんが、基本的にその流れは同じです。
まずは残債務がどれくらいあるのかを確認する必要があります。
残債務の額と、予想される売却価格を比較して、売却価格が残債務を上回っていれば、根抵当権者(債権者)に残債務を支払う事が出来ますの不動産の売却が出来るでしょう。
ただし、売却価格が残債務を上回っていても、根抵当権者が債務者と取引を継続する為にどうしてもその不動産が必要と主張する場合、売却を行う為に根抵当権者と交渉を行う必要があります。
なお、売却価格が残債務を下回ってしまうのであれば、それはいわゆる任意売却になりますので、根抵当権を抹消してもらう為に、根抵当権者(債権者)との交渉が必要になります。
② 売買契約、残金決済
不動産の買主が現れたら、諸条件を詰めて売買契約を締結、残金決済の流れになります。
登記の依頼を受けた司法書士は事前に根抵当権抹消の為の書類を金融機関等で確認し、決済当日に抹消登記を行います。
この流れも抵当権が設定された不動産の売却と違いはありません。
3.注意点
① 根抵当権者との契約内容の確認
住宅ローンの契約の場合、ほとんどの場合、「債権者の承諾無く不動産の所有権を移転してはならない」と言う規定があります。
根抵当権を設定した際にも、もしかしたら上記と同じ趣旨の規定があるかも知れません。
まずは契約内容を確認の上、規定がある場合は根抵当権者の承諾を得るようにしましょう。
なお、所有権は自由に処分する事が出来ますので、根抵当権者の承諾を得なくとも、売買契約は有効に成立します。
根抵当権者に対して責任(損害賠償)を負うだけです。
② 所有者(根抵当権設定者)と債務者が違う場合
ごくまれにですが、事例のように不動産の所有者(根抵当権設定者)と債務者が異なっている事があるのですが、この場合は注意が必要です。
根抵当権は極度額の範囲内であればその債権を担保します。
その為、極度額が5,000万円、当時の実際の残債務が3,000万円だった場合、不動産が3,500万円で売却出来れば何ら問題はありません。
しかし、残債務を調べた後に、債務者が根抵当権者と新しい取り引きを行いその残債務が4,500万円になっていたらどうでしょうか?
売却価格で残債務を支払う事が出来ませんので、困った事になります。
その為、所有者(根抵当権設定者)と債務者が異なる場合、下記にご紹介する元本の確定を行った方が良い場合があります。
4.元本の確定
極度額が限度とは言え、実際の債権額がコロコロと変わった場合、売却時等に困る事があります。
この為、所有者(根抵当権設定者)から債権額を確定させ、以後の取り引きがあっても根抵当権では担保させなくする事が出来る手続きがあります。
これを「元本の確定」と言います。
根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から三年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができます。
この場合、担保すべき元本は、その請求の時から二週間を経過することによって確定します(民法第398条の19)。
所有者(根抵当権設定者)と債務者が異なるようなイレギュラーなケースは(債務者との関係性もあるかも知れませんが)、元本の確定請求を行った方が良い場合もあります。
5.まとめ
抵当権、根抵当権のような担保権が設定されている不動産を売却する場合は、債権者との調整が必要になる事があります。
その為、不動産会社に仲介を依頼する場合は、担保権の事を熟知した不動産会社にご依頼される事をお勧めすます。