
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回は、遺言以外で内縁関係の妻が亡き夫の遺産を相続する方法のお話しです。
ある方が死去し相続が発生した場合、その遺産は相続人に承継されるのが原則です。
ところが、相続人の有無が分からず、身寄りは内縁の妻のみと言った場合はどうでしょうか?
内縁の妻は相続人ではありませんので、原則論を適用させると、被相続人が遺言を遺していない限り、内縁の妻は遺産を取得する事ができないはずです。
しかしながら、相続人の有無が分からず、その後相続人が現れなければ、内縁の妻のように、被相続人と一定の近しい関係にあった者(特別縁故者)に対して、遺産を取得させる手続きがあります。
今回はその流れを解説したいと思います。
1.相続財産管理人の選任申立てを行う
亡くなった方に遺産はあるが、相続人がいるのか、いないのかが分からない状態であれば、被相続人の財産を管理する『相続財産管理人』の選任申立てを家庭裁判所に対して行う事が必要です。
なお、申立てに関しては「予納金」を裁判所に納めなくてはいけない場合があります。
この予納金は、相続財産管理人の報酬等に充てられるのですが、その金額は20万円~100万円ほどとされています。
なお、相続財産管理人選任申立てに関しては、こちらも併せてご覧下さい。

2.相続財産管理人の選任公告がされる
家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任申立てを行い、相続財産管理人が選任されると、相続財産管理人を家庭裁判所が選任した事を公告するため官報等へその掲載がされます。
3.相続債権者と受遺者への請求申出の公告
上記2の公告がされて2ヶ月以内に相続人が現れなかったら、相続財産管理人は全ての相続債権者及び受遺者に対して、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨の公告を行います。
この一定の期間は2ヶ月以上となっています。
また、この段階で既に判明している相続債権者と受遺者がいれば、公告した内容の督促を相続財産管理人は個別に行います。
この期間内に届出を行った債権者と受遺者に対しては、相続財産管理人はそれぞれの債権額の割合に応じてその支払を行います。
なお、期間内に届出がしなかった債権者と受遺者は、残った財産があれば支払いを受ける事ができるのですが、財産が残っていなければ、支払いを受ける事はできません。
4.相続人捜索の公告
3の公告の期間満了後、まだ相続人が現れていない場合、家庭裁判所に対して相続財産管理人が期間を定めて相続人捜索の為の公告を行うよう請求します。
なお、この期間内(6ヶ月以上必要)に相続人からの届出がなければ、相続人が不存在である事が確定します。
5.特別縁故者への相続財産分与手続き
この段階まできて、ようやく特別縁故者への相続財産分与の手続が可能となります。
相続人捜索の公告の期間が満了したら、3ヶ月以内に特別縁故者の方が家庭裁判所に対し、相続財産の分与を求める申立てを行い、家庭裁判所の許可が出る事で相続財産の分与がされます。
6.特別縁故者と認められる要件
特別縁故者と認められる為の判断は、家庭裁判所が個別に行いますが、一応の目安は下記のとおりとなります。
① 被相続人と生計を同じくしていた者
いわゆる内縁の配偶者や、事実上の親子関係が該当します。
② 被相続人の療養看護に努めた者
被相続人に対して、献身的に療養看護を行った場合です。
③ その他、被相続人と特別の縁故があった者
①、②に準じて個別的に判断されます。
7.残余財産の国庫への帰属
6で分与されなかった財産は、相続財産管理人の報酬の精算後、その権利は国に帰属する事となります。
8.まとめ
以上が、他に相続人がいない場合で特別縁故者が遺産を取得する手続きの流れとなります。
但し、この流れを見て頂くと分かるのですが、特別縁故者に相続財産が分与されるまで、最短でも約10ヶ月かかります。
また、まとまった予納金が必要になる場合もあり、遺された者に対して負担になる可能性があります。
その為、もし手続きをスムーズに進めるのであれば、やはり遺言を遺してもらう事が一番の方法かもしれません。
なお、司法書士は相続財産管理人選任申立ての書類を作成したり、相続財産管理人に選任する事もできます。
このような相続の問題も解決できますので、相続についてお悩みの方はお気軽にご相談下さい。