
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回は「遺産分割協議書って作る必要あるの?ウチは財産なんてとくに無いので面倒なんですけど」と思っている方向けの記事です。
相続手続きの流れとして、遺産の分け方を決める遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成するのが一般的です。
しかし、
「正式なモノではなく、別に手書きのモノでも良いんじゃない?」
と言った様々な理由で、せっかく話し合いを行ったにも関わらず、遺産分割協議書を作成していないご家庭も存在します。
そこで今回は、遺産分割協議書は本当に必要なのか?口約束でも良いのでは?と言ったあなたの疑問にお答えしたいと思います。
1.遺産分割協議書とは?
そもそも、遺産分割協議書とは一体何なのでしょうか?
まずは遺産分割協議書の『定義』をしていきたいと思います。
実は、相続のルールを定めた民法上、遺産分割協議『書』と言う言葉は存在しません。
その為、法律上の定義は存在しない事になってしまうのですが、分かりやすく言ってしまえば遺産分割協議書とは、相続人間で決めた遺産の分け方を書面化したものです。
法律上の定義はないので、どのように書くべきかと言った決まりは特になく、どの遺産を誰が相続するのかがキチンと明記されていて、各相続人が住所記入・署名・実印にて押印していればOKです。
※住所と署名は自筆を必要とされてなく、パソコン(Word)で作成した「記名」でも大丈夫です。
このように、法律上作成が義務付けられていない為、

ウチは特に財産なんてないし、相続人の仲も悪くないので遺産分割協議書なんて必要ないでしょ?それなのに、法律にのっとって書類を作成するなんて面倒でしょ?
と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
遺産分割協議書は我々専門家であればともかく、一般の方は作成に慣れていないため、正直面倒だと思います。
しかし、相続人の仲が良くても、財産がなくても、遺産分割協議書はキチンと作成した方が良いのです。
それでは、その理由をお話していきたいと思います。
2.仲の良い相続人でも、そのまわりの人間はそうとは限らない
あるところに、父親を亡くしたご兄弟がいました。
相続人は長男と次男です。
めぼしい遺産は実家のみで、預金はほとんどありませんでした。

実家の相続、どうする?

実家は兄さんに譲るよ。
この兄弟は、実家を長男が相続する事に決めたのですが、口約束だけで遺産分割協議書は作成しませんでした。
そしてその数年後、次男が急な病気で亡くなった事から、長男と次男の嫁がトラブルになってしまいました。

そんな口約束は認められません!夫には2分の1の相続分があったのですから、夫の相続分はしっかりと頂きますからね!

そんな・・・
口頭での遺産分割協議は有効です。
しかし、本当に「長男に実家を相続させる」と言う遺産分割協議が成立したかどうかは、第三者からは分かりません。
その為、次男の嫁は次男の相続人として、次男の法定相続分を請求する、ドロドロな相続争いを繰り広げたのです。
このように、どんなに相続人間で「こんな話でまとまった」と言っても、その証拠が無ければトラブルになるのは当たり前の事なのです。
その為、遺産分割協議書は絶対に必要なのです。
3.そもそも、不動産の相続登記や預金の相続手続きで必要
そもそも、不動産や預金の相続手続きを行う上で、遺産分割協議書は実務上必要になってきます。
どんなに口頭で話がまとまりましたから、と言っても、銀行や法務局は受け付けてくれません。
理由は、上記2と同様で、相続人間でどのような話がまとまったのかは第三者からは分からないからです。
その為、遺産分割協議が成立した証拠として、遺産分割協議書が必要になってくるのです。
なお、遺産が預金のみだった方で、
「遺産分割協議書を作成した覚えがない」
と言う方がいらっしゃるかも知れませんね。
でも、思い出してほしいんです。
確かに、『遺産分割協議書』と言うタイトルの書面は作成されていないかもしれませんが、銀行所定の用紙に、相続人全員が住所と名前を書いて、実印を押印しませんでしたか?
預金を引き継ぐ相続人の名前を記載しませんでしたか?
印鑑証明書を銀行に提出しませんでしたか?
その書類は『遺産分割協議書』と言うタイトルではなかったかもしれませんが、内容はまぎれもなく『遺産分割協議書』なのです。
4.まとめ
「いや、ウチは本当に遺産なんてないから」
と言われている相談者の方に、『では、預金は具体的においくらぐらい有るのですか?』と質問すると、ほとんどの場合「数百万円程度ですよ」と言う回答が返ってきます。
数百万円でも遺産じゃないですか・・・と心の中で思いながら、『それだったら遺産分割協議書は必要ですね』と説明を良くしています。
どんなに「たいして財産はない」と思われても、その相続手続きが必要な場合、遺産分割協議書は必要になってきます。
面倒くさがらず、必ず遺産分割協議書を作成するようにしましょう。