遺産分割協議書に捨印は必要か?

実印遺産分割協議・調停

こんにちは。司法書士の甲斐です。

今回の記事は、遺産分割協議書の捨印についてご相談されたい方向けの記事です。

(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)

【事例】
Q:先月母が亡くなりました。相続人で話し合い、自宅は私が相続する事になり、その名義変更の手続を近くの司法書士に依頼しました。

後日、司法書士から相続人全員に署名・押印をしてほしいと言う遺産分割協議書が送られてきたのですが、そこで一つ疑問になりました。

内容そのものは特に問題は無いのですが、この遺産分割協議書にはいわゆる「捨印」を押す部分があります。

捨印を押す事で、遺産分割協議書の内容を自由に訂正する事が出来る事になり、結果として私以外の者が自宅を相続出来る事になるのでは悪用されるのでは、と心配になりました。

TVや新聞でも契約書に捨印を押した事で、後々トラブルになった例を耳にします。

本当にこの遺産分割協議書に捨印を押しても大丈夫なのでしょうか?

A:本来、遺産分割協議書に捨印を押す事は避けた方が良いのですが、司法書士が相続登記の為に作成した遺産分割協議書であれば、捨印を押しても問題はありません。

1.捨印とは?

「捨印」とは、法律上の定義はありませんが、一般的には契約書や委任状等に事前に押す訂正印の事を意味します。

本来は、一度作成した書類に関しましては、どんな軽微なミスであってもその都度訂正印を押すのが原則です。

しかし、当事者が離れた所にいて、書類上本当に軽微なミスを訂正する為に郵送費や交通費を使って訂正印を押す事は手間も時間もかかります。

そんな時に捨印を使う事で、迅速な訂正をする事が出来ますので、契約書や委任状、事例のような遺産分割協議書に事前に捨印を押す事が実務上求められる事があります。

2.捨印の問題点

捨印はその書類等に万が一ミスがあった場合に簡易迅速、手軽に訂正が出来ますので、一見何も問題が無いように思えますが、実は大きな問題があります。

それは、捨印は「ミスがあった時に訂正しても良い」と言う意思表示の現れなのですが、これを利用して自分の都合の良いように書類を作成しなおす事が出来るのです。

例えば、「下記の不動産は山田太郎が相続する」と言う文章の「山田太郎」を、捨印を使って別の相続人の名前に訂正する事が出来ます。

さらにその遺産分割協議書を添付して相続登記を申請した場合、おそらく申請が受理されて登記が完了するでしょう。

(登記官には実際の法律関係を調査する権限が無い為です)

捨印の本来の趣旨は軽微なミス(遺産分割協議書では住所や不動産の表示を数文字訂正する事がこれに該当すると思われます)を訂正する趣旨で捨印を押します。

しかし、上述のとおり、捨印の法律上の定義はありませんので、事実上ありとあらゆる訂正を行う事が可能なのです。

ただし、捨印の効果については、このような判例があります(最判昭和53年10月6日判決)。

「いわゆる捨印が押捺されていても、捨印がある限り債権者においていかなる条項をも記入できるというものではなく、の記入を債権者に委ねたような特段の事情のない限り、債権者がこれに加入の形式で補充したからといって当然にその補充にかかる条項について当事者間に合意が成立したとみることはできない」

と判示しています。

少し分かりにくい表現ですが、当事者が捨印を押すという意味は、あくまで当事者間で合意した法律的な内容について、その本質は変えずに、その書面の誤字・脱字・書き損じ等、一見して軽微で明白な誤記を訂正する為に押したと言う意味に捉えるのが妥当でしょう。

上記の判例は、その常識的な観点から判断したものと言えます。

とは言え、捨印で具体的にどこまで訂正出来るのかと言うのは、個別的に検討する余地があると思います。

その為、契約書や委任状に捨印を押した事により、様々なトラブルが現実的に起こっています。

基本的には捨印を押さないようにして、ミス等があった場合は後日訂正印を押す対応にした方が良いでしょう。

3.司法書士が作成する遺産分割協議書の捨印について

原則、捨印を押す事はお勧めしないのですが、司法書士が相続手続きの為に作成した遺産分割協議書や委任状は、この例外だと思って下さい。

司法書士は想定外の事態について、簡易迅速に手続を行う為に捨印が必要な事もあります。

また司法書士には職務上、非常に重たい責任がありますので、遺産分割協議書や委任状を悪用される心配は不要です。

その為、相続手続きをご依頼した司法書士から捨印付きの遺産分割協議書や委任状が送られてきても、問題がないと思って下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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