遺産分割協議のやり方(方法)。後から困らない相続の為の遺産分割のポイント

遺産分割協議・調停

こんにちは。司法書士の甲斐です。

相続手続きの中で一番大変な事、何だかあなたはご存知でしょうか?

戸籍集め?遺産の調査?

それも確かに面倒で大変なのですが、一番大変なのが、被相続人が残された遺産についてどのように分けるかを相続人全員で話し合う、「遺産分割協議」です。

この遺産分割協議を巡っては、ふとしたきっかけで想定もしなかったトラブルに発展する事もあり、「なめてかかる」ととっても痛い目にあう事もあります。

そこで今回は、遺産分割協議の基本的な知識と、その心得をお話ししていきたいと思います。

1.遺産分割協議の前提問題

① 相続人は誰か?

遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。

一人でも相続人を欠いて行った遺産分割協議は無効となりますので、十分に注意しましょう。

法律(民法)で定められている相続人は、下記のとおりです。

第1順位の相続人子供

(子供が亡くなっている等の場合は、孫が相続人になる)

第2順位の相続人

(第1順位の相続人が
いない場合)

父母
(父母が亡くなっている等の場合は、
祖父母が相続人になる)
第3順位の相続人

(第1、2順位の相続人が
いない場合)

兄弟姉妹

(兄弟姉妹が亡くなっている等の
場合は、甥姪が相続人になる)

※配偶者は上記の第1~第3順位の相続人と同順位で、常に相続人になります。

なお、相続人の確認は、必ず被相続人の出生から死亡時までの戸籍を取得して確認する必要があります。

過去の戸籍を取得しない限り、被相続人が再婚している事や、前妻の間に子供がいる事が分からない事があるためです。

② 遺言は無かったのか?

そもそも遺言があった場合、実務上は遺産分割協議よりも遺言が優先します。

その為、亡くなった方が遺言を残していたかどうかを確認するのも重要事項になります。

遺言は大きく分けて、亡くなった方ご自身が作成した「自筆証書遺言」と、亡くなった方の希望をもとに公証人が作成した「公正証書遺言」があります。

自筆証書遺言の場合は、亡くなった方の自室や貸金庫の中で保管されている可能性があります。

また、知らない弁護士や司法書士等の名刺が出てきた場合、その専門家が遺言の作成に関与して、遺言を保管をしている事も考えられますので、連絡を取ってみて下さい。

なお、公正証書遺言の場合は、お近くの公証役場で亡くなった方が遺言を残していなかを検索する事ができます。

詳しい確認方法はお近くの公証役場に確認するようにしましょう。

③ そもそも、「遺産」とは?

遺産分割協議ですので、当然「遺産」とは何なのか?と言う点もしっかりと理解する必要があります。

代表的な物を挙げてみましょう。

・不動産

土地や建物の事です。

自宅はもちろんの事、賃貸に出しているアパート等も不動産になります。

・不動産を借りる権利(不動産賃借権)

アパート、マンションの賃借権や借地権の事です。

被相続人がこれらの不動産を借りていた場合、その権利は被相続人が亡くなっても消滅しません。その為、相続の対象となります。

また、不動産賃借権は分ける事ができない権利(不可分債権)ですので相続が開始されたと同時に、相続人間の共有状態になります。

その為、その共有状態を解消するためには、遺産分割協議が必要になってきます。

※例外として、公営住宅を使用する権利については、遺産分割の対象とはなりません(最一小判平成2年10月18日)

・現金、預金、株式等の有価証券

銀行預金は分ける事ができる権利(可分債権)のため、判例上遺産分割の対象とはならないとされていました。

しかし、上記の判例が変更され、現在は、銀行預金は遺産分割の対象となります。

・いわゆる「動産」と呼ばれている物

被相続人名義の自動車、バイク、船舶、家財、骨董品、宝石、貴金属、美術品等がこれにあたります。

・その他

ゴルフ会員権等の権利も遺産分割の対象になります。

④ 遺産分割の対象とはならない遺産

・預金以外の可分債権

預金以外の可分債権、つまり「分ける事ができる権利」は、原則として遺産分割の対象とはなりません。

ただし、相続人全員の合意で遺産分割の対象とする事は可能です。

【具体例】
損害賠償(慰謝料)請求権等。

・相続発生から遺産分割協議成立までに発生した遺産である不動産の賃料

被相続人が不動産を貸していた場合の、その賃料の取扱いは少し特殊です。

不動産の賃料請求権は、その不動産を相続した相続人が当然に取得します。

しかし、被相続人が亡くなってから、遺産分割協議が成立するまでの間の賃料は、判例上、相続人がその持分=相続分に応じて取得するとされています。

遺産分割協議が成立した場合でも、不動産を相続した相続人に取得した賃料を返還する必要はありません(最一小判平成17年9月8日)。

・受取人が相続人の生命保険金

被相続人が契約者で、受取人が相続人となっている生命保険に関しては、相続人固有の財産であり、遺産ではありませんので、遺産分割の対象とはなりません。

2.遺産分割協議の下準備

① 相続分を確認する

法律(民法)では、相続人それぞれに相続分が定められています(法定相続分)。

相続人全員の合意があればこの法定相続分とは異なる分け方を行っても良いのですが、遺産分割の基本ですのでしっかりと法定相続分は理解するようにしましょう。

相続人相続分
配偶者のみ全て
子供、父母、兄弟のみ
(配偶者がいない場合)
1/相続人の人数

例外:被相続人の兄弟姉妹が
相続人になる場合で、その中に
異母(異父)兄弟がいる場合は、
その異母(異父)兄弟の相続分は
他の兄弟姉妹の2分の1になります。

配偶者と子供(孫)配偶者 1/2

子供  1/2×子供の人数

配偶者と父母、祖父母(直系尊属)配偶者  2/3

直系尊属 1/3×直系尊属の人数

配偶者と兄弟姉妹(甥姪)配偶者  3/4

兄弟姉妹 1/4×兄弟姉妹の人数

例外:被相続人の兄弟姉妹が
相続人になる場合で、その中に
異母(異父)兄弟がいる場合は、
その異母(異父)兄弟の相続分は
他の兄弟姉妹の2分の1になります。

② 遺産の評価を行う

各相続人が取得する具体的な相続分を算出する為、遺産を金銭に換算(遺産の評価)を行う必要があります。

金銭や預金、上場株式等は具体的な金銭的数字がはっきりしていますので分かりやすいのですが、問題になるのは不動産です。

不動産の評価(価格)は「1物4価」と呼ばれ、複数の評価方法があり、どの評価方法を取り入れるかによって遺産分割協議に大きな影響が出てきます。

(不動産を相続したい人は、低い金額で評価したいと思うでしょうし、不動産を相続しない人は、高い金額で評価したいと思うからです。)

不動産の評価については、こちらをご覧下さい。

相続・遺産分割協議における不動産の評価の方法
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③ 寄与分、特別受益を検討する

寄与分は被相続人の財産の維持や増加について、特別な貢献をした相続人の相続分を増加させる制度です。

分かりやすいのが、親の介護を行った子供がいた場合に、他の子供(相続人)よりも介護を行った子供(相続人)の相続分を増やす事です。

特別受益は、遺産の前渡しのような贈与を受けた相続人の相続分を実質減少させ、他の相続人との公平を保つ制度です。

寄与分や特別受益は相続人間で話し合いその額を決めるのですが、相続人間で話がまとまらない場合、家庭裁判所での調停や審判を利用してその額を決める事になります。

なお、寄与分と特別受益に関しましては、こちらもご覧下さい。

相続時に寄与分が認められるケースとは?療養看護と扶養を中心に解説します
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3.遺産分割の方法

① 現物分割

もっとも基本的な遺産分割の方法が現物分割です。

各相続人の相続分を基本として、相続財産についてその取得者を個別に決定させる遺産分割協議の方法です。

例えば、相続人が被相続人の子供A、B、Cの3人で、遺産が不動産(3,000万円)、X銀行預金(5,000万円)、Y銀行預金(1,000万円)だった場合、Aが不動産、BとCが預金を解約して半分ずつ(3,000万円)取得する遺産分割の方法です。

② 換価分割

不動産のように分割が困難な遺産で、かつ売却等で金銭に代える事が可能である場合に、その財産を共有状態のまま(もしくは便宜上相続人単独の名義として)第三者に売却して、その代金を相続人間で分配する遺産分割の方法です。

対象の遺産の取得を誰も希望しない場合に、金銭等、簡単に分ける事ができる財産に換価させる事は非常に有益な方法です。

なお、換価分割を行う場合は、遺産分割協議書の中に下記のような文言を入れないと思わぬ税金を支払う事になる可能性がありますので注意しましょう。

(文言例)
後記不動産を売却換価し、売却代金から売却に伴う不動産仲介手数料・契約書作成費用・登記手続き費用を控除した金額を、長男A、二男B、三男Cが、それぞれ3分の1ずつ取得する。

③ 代償分割

換価分割のように分割が困難な相続財産で、換価が容易にできないか、相続人の内の誰かが取得を希望した場合に、その財産を取得する相続人が、他の相続人に対してその者が本来取得するはずだった相続分を、自己の財産を持って支払う事により、結果として各相続人間の公平を図る遺産分割の方法です。

この代償分割には注意点が有ります。

遺産分割協議書の中で代償分割を記載しないと、代償金の支払いが単なる贈与であるとされ、贈与税を課税されることに注意が必要です。

代償金の支払いに対して贈与税が課税されるのを避けるためには、遺産分割協議書に「代償として」支払うということを明確にする必要があります。

(文言例)
1.相続財産中、下記の不動産については、長男Aの所有とする。

(不動産の記載省略)

2.長男Aは、上記の相続財産の取得の代償として、二男Bに金〇〇万円、三男Cに金〇〇万円を支払う。

4.遺産分割協議の心得

① 権利だけど権利とは思わない

相続は法律で定められた各相続人の権利です。

権利を主張する事は何ら問題はありません。

しかし、相続人は(寄与分は除いて)、財産を取得する事に関して何ら努力をしていません。

その財産を築き上げたのは、あくまで被相続人であり、相続は棚からボタ餅的に財産を取得する事ができる制度なだけです。

その為、当たり前の権利とは思わずに、まずは財産を残してくれた被相続人に感謝する事が重要になってきます。

けっして「財産を残すのが当然」「財産をもらって当然」と言う感覚で、他の相続人と接する事のないようにしましょう。

② いつも以上に相手思考を心がける

人はお金が絡むといつも以上に神経質になったり、無頓着になったりする事があります。

その為、あなたが「当たり前」「普通」と思って行った事が、他の相続人にとってみれば「不審な行動」と思われる事もあります。

例えば、被相続人が亡くなる前後で被相続人の口座から預金を引き出したり、通帳を他の相続人の了承を得ずに管理したりする事です。

このような、あなたにとっての「普通」の行動は、他の相続人にとってみれば「普通」ではない事もあるのです。

「普通」の感覚の違いから、坂道を転がるようにもめる相続に発展する事もあります。

「自分の今の行動、他の相続人からどう見えるのか?」等、相続の場面ではいつも以上に相手思考を心がけましょう。

③ 法定相続分をベースに、でも法定相続分にとらわれない自由な発想も必要

法律(民法)では、各相続人の相続分が決められている事は、上記で説明したとおりです。

その相続分を仮に修正するのであれば、法律上は寄与分と特別受益の制度しかありません。

しかし、そもそも相続人全員が合意すれば、どのような分け方を行っても良いのが遺産分割の本質です。

例えば、被相続人である父が亡くなり、その相続人が長男、次男と言う相続を考えてみましょう。

長男は結婚し家庭を持っています。決して裕福な暮らしと言うわけではありませんが、安定した給料を得ています。

ところが次男はこれとは正反対で、勤務先が倒産し再就職もできず、どんどん貯金が無くなって家族をどうやって食わせていこうかと絶望状態になっているとします。

そのような時に親が亡くなり、まとまったお金を相続できる事になった場合、確かに長男と次男の相続分は均等ですが、次男は自分の責任とは関係がない部分で苦しんでいます。

そうであるならば、法定相続分を無視して次男に多く相続されるのも、一つの方法なのではないでしょうか?

このように遺産分割は法定相続分と言うベースはありますが、全ての事情を考慮して遺産をどのように分けるのかを決める必要があると、私は思います。

5.遺産分割協議でもめてしまったら?

遺産の分け方について、どうやっても相続人間の意見が合わなかったり、そもそも話し合いが行う事ができない状態であれば、家庭裁判所を利用する手続きで、遺産分割調停や審判を行う方法があります。

遺産分割調停は裁判官の指揮の下、一般の方から選ばれた調停委員を中心として、相続人間で遺産分割協議を行います。

家庭裁判所の手続きですが、民事裁判とは異なり裁判官が法律に基づいて一刀両断的な判断を行う手続きではありません。

あくまで、相続人間の話し合いの手続きです。

なお、遺産分割調停で話し合いがまとまらない場合、手続きは「審判」に移行します。

審判は通常の民事裁判と似ていて、裁判官が法律に基づいて遺産の分け方を決める手続きです。

遺産分割調停、審判についてはこちらもご覧下さい。

遺産分割調停のデメリットとは?
相続人間でもめている等、遺産分割協議がどうしてもまとまらない時に弁護士等に相談すると、ほぼ間違いなく「遺産分割調停を行うしかない」とアドバイスを受けると思います。現実問題として遺産の分け方についての問題を解決を行うのであれば、遺産分...

6.まとめ

繰り返しになりますが、遺産分割協議は各相続人の相続分と寄与分、特別受益が基本となりますが、その他の一切の事情を考慮して、遺産の分け方を決めても良いのです。

その為、各ご家庭のご事情にあった、臨機応変な遺産分割協議を行う事が、後からもめない相続のためのポイントになります。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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町田・横浜FP司法書士事務所
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