TVドラマとは違う実務。遺産分割協議に相続人全員が集まれない場合

遺産分割協議・調停

こんにちは。司法書士の甲斐です。

今回の記事は、相続人全員が産分割協議の為に集合出来ない事についてお悩みの方向けの記事です。

(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)

【事例】
Q:先月亡くなった父の遺産の把握が出来ましたので、相続人全員を集めて遺産分割協議を行うと考えているのですが、どのように行えば良いのか非常に困っています。

相続人は全員で4人いるのですが、それぞれ別の県に住んでおり、実家に一番近い場所に住んでいる相続人でも、車で片道2時間かかります。

その為、全員が同じ場所に集まって話し合うと言うのが非常に難しいのですが、このような場合、どのように遺産分割協議を行えば良いのでしょうか?

1.遺産分割協議の形式

TVドラマ等では、相続人全員が実家に集まって、亡くなった方の遺産についてどのように分けるか、「遺産分割協議」の場面が良くあります。

その為、遺産分割協議とは、相続人全員が同じ場所に集まって話し合うもの、と言うイメージがありますが、実際に法律上、このように決められているのでしょうか?

実は、遺産分割協議の形式について、法律上の決まりは何もありません。

つまり、相続人全員が集まれない場合は、別の方法で話し合って、その結果相続人全員が納得すればそれで良い事になります。

2.遺産分割協議の方法

① 事前のすり合わせ

相続財産の調査が修了後、まずは相続財産についてどのように分けたいのかを、事前にすり合わせましょう。

電話で行うのが一番手間がかからないように思えますが、相続人が複数いる場合、「言った言わない」の争いになる事もありますので、きちんと証拠として残るやり方が望ましいでしょう。

メールの一斉送信等を利用する方法が一番良いと思います。

その他、FAXや郵便等を利用する方法が考えられます。

いちいちメールとか郵便を使うのって、面倒くさくありませんか?

確かに面倒くさいのですが、多くのお金が絡む事ですので、後々の事を考え、キッチリとしておくべきです。

② 遺産分割協議書(案)の作成、確認

事前のすり合わせが完了したら、それに基づいて遺産分割協議書(案)を作成し、それを各相続人が確認します。これもメールを利用すると便利でしょう。

なお、遺産分割協議書は法律上の作成義務はありませんが、不動産や預貯金の名義変更に関して必ず必要となりますので、作成するようにしましょう。

インターネットや書籍等で公表されている、遺産分割協議書のひな型を使用しても大丈夫ですか?

原則として問題はありませんが、協議書案を作成したら、必ず専門家にチェックしてもらうようにしましょう。記載内容によっては遺産の特定が不明確で、その後の相続手続きが不可能になる事もあります。そうなると二度手間になりますので。

③ 遺産分割協議書に署名・実印を押印する

遺産分割協議書(案)が問題が無いようであれば、後は各相続人が遺産分割協議書に署名と実印で押印するだけです。

これもいろいろと方法があるのですが、大きく分けて以下の二通りのやり方があります。

⑴ 一枚の遺産分割協議書に、相続人全員が署名・押印する形式にして、郵便等を利用して相続人全員で回しあう。

⑵ 一枚の遺産分割協議書に署名・押印するのは相続人一人として、各相続人がそれぞれ署名・押印した遺産分割協議書を集める。

つまり、一枚の遺産分割協議書に相続人全員が署名・押印するのか、相続人一人だけが署名・押印するのかの違いです。

⑴のメリット
相続人全員が同じ遺産分割協議書を確認しますので、その内容に疑義を生じる事が少ない。

⑴のデメリット
遺産分割協議書が一枚だけですので、相続人が多くいるとそれだけで時間がかかる事もあるし、郵送時等に紛失の危険性がある。

⑵のメリット
相続人が各自署名・押印して、各自の遺産分割協議書を一箇所に集めれば良いだけなので、時間の短縮になる。

⑵のデメリット
昔の人のイメージでは、『遺産分割協議書は一枚の紙に相続人全員が署名・押印するもの』という刷り込みがあるため、相続人によっては、この方法が受け入れられない可能性もある。

なお、『遺産分割協議書の偽造が比較的容易に出来る』と言う指摘もありますが、例え一人が偽造したとしても、他の相続人の遺産分割協議書と内容が異なるので、実質的には偽造の意味はありません。

⑴、⑵の方法についてはそれぞれメリット、デメリットがありますので、相続人の方の状況に合わせてどちらかを選択すると良いと思います。

3.まとめ

相続人全員が同じ場所に集まる事が出来なくても、合意させ調えば遺産分割協議は有効に成立します。

しかし話し合いに集まらない、集まれないと言う事はちょっとしたニュアンスや言葉の取り違いを生じる事もありますので、慎重に行う必要があります。

法律手続きは「こんな感じで大丈夫だろう」が通用しない事が沢山あります。

後日トラブルにならないように十分に注意するようにして下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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