こんにちは。司法書士の甲斐です。
遺産分割協議の目的は、被相続人が残された相続財産について、誰が何を相続するか相続人間で話し合い、相続財産の帰属を確定する事です。
簡単に言ってしまえば、

私は自宅が欲しい。

俺は○○銀行の××支店の預貯金が欲しい
等、意見を言い合って、全員が納得してしまえばそれでお終いの手続きとなります。
TVドラマのように全員が集まって厳粛なムードで・・・・と言った事は必要ないのです。
この様に書きますと、非常に単純で簡単な内容の手続きにみえますが、実は色々と注意すべき点が存在します。
その注意すべき点について気を付けていないと、後々相続手続きが出来なくなったり、相続人間で長期間に渡る紛争状態に突入したり、と言った不利益になる事があります。
今回は、その遺産分割協議について気を付けるべき事を解説していきたいと思います。
1.遺産分割協議で気を付けるべき事
① 相続人全員での話し合いが必要
「三男の○○は、気難しい性格なので、三男以外で話しをして手続きを進めても良いですよね?」とたまに質問を受ける事があるのですが、これはダメです。
遺産分割協議は相続人全員が話し合い、相続人全員が合意しなければ無効です。
「暴力的だから」「気難しい性格」「嫌なヤツだからあまり話したくない」等、人間性に問題がある相続人を排除して手続きを進めたくなるお気持ちは分からなくはないですが、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要になります。
② 原則、やり直しは出来ない
遺産分割協議は相続人全員の合意が調い、成立してしまえば、法律上やり直す事は出来ないとされています。
「相続人全員が遺産分割協議の全部または一部を合意解除した上で、あらためて遺産分割協議を成立させる事が出来る」
と言う判例はあるのですが、相続人全員が合意解除の意思表示をして、また遺産分割協議を成立させる必要があります。
また、税務上では、一度成立した遺産分割協議を合意解除して、再度遺産分割協議を成立させた場合、相続税よりも税率が高い贈与税を課せられる事もあります。
その為、「やり直しは出来ない」ものとして、慎重に協議する必要があります。
その他、遺産分割協議が成立した後に、新たな相続財産が出てきたといった、遺産分割の前提を揺るがすようなケースが発生した場合は、遺産分割協議の無効を主張する事が出来ます。
なお、実務上は、遺産分割協議が成立した後に新たな相続財産が出てきた場合の取り扱いを事前に決めるのが一般的です。
③ 遺産分割協議成立後に遺言が発見された場合
原則、遺言が優先しますので、遺言に抵触する遺産分割協議は無効になります。
しかし、相続人全員がその遺言の内容を無視して、遺産分割協議の内容を優先するという合意をすれば、遺産分割協議の内容が優先される事になります。
「相続人全員」と言う条件がある為、遺産分割協議を行う前に、被相続人が遺言を作成していなかったかをきちんと確認した方が良いでしょう
④ 遺産分割協議書はきちんと作成する事
法律上は、遺産分割協議書の作成義務はないのですが、不動産の名義を変えたり、預貯金の相続手続き等で実務上必要になりますので、必ず遺産分割協議書は作成しましょう。
なお、協議書に押印する印鑑は実印である事が実務上求められています。
⑤ 遺産分割協議を禁止にする事が可能
被相続人は遺言で相続開始の時から5年を超えない範囲で、遺産分割を禁止する事が出来ます(民法908条)。
相続トラブルが想定されるような時に、被相続人がこの制度を利用する可能性が高いと思われます。
この様な注意点もありますので、遺言が作成されていないかの確認はしっかりと行った方が良いでしょう。
2.形見分けについて
なお、遺産分割協議と良く混同されてしまうものに、「形見分け」があります。
形見分けとは、被相続人の愛用していた衣類や時計等、高額ではない身の回りの物を分ける事で、いつでも行う事は可能です。
3.まとめ
どのような手続きでもそうですが、特に遺産分割協議は「後から問題があっても、きっと何とかなるでしょ?」と思っていても、実際には何とも出来ないケースが出てきます。
たかが遺産分割協議、されど遺産分割協議です。
被相続人の財産を問題なく引き継ぐ為に、気を付けるべき事はしっかりと気を付けていきましょう。