
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、相続についてご相談されたい方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例紹介】
太郎さんは困っていました。
先日、病気で入院していた父親を突然亡くし、喪主として葬儀を取り仕切ったのですが、入院費や葬儀費用が思った以上にかかり、その支払の為、父親の口座から預金を引き出そうと銀行に行きました。
ところが、窓口で父親が亡くなった事を告げると父親の口座が凍結され、お金を引き出す事ができなくなり、結果、入院費、葬儀費を支払う事が難しくなり、途方に暮れてしまったのです。
このように、口座の名義人が亡くなった事を銀行が知ると、その口座が凍結され、預金を引き出す事も預け入れする事もできなくなります。
1.そもそも、なぜ口座が凍結されるのか?
金融機関は、口座名義人が亡くなった事を知った時に口座を凍結させます。
その理由は、口座名義人が亡くなった時から預貯金は相続財産となるためです。
銀行はとにかくトラブルに巻き込まれる事を嫌います。
そのリスクを回避して、相続人間の争い事に巻き込まれる事を未然に防ぐ為に、遺産分割協議が整い、相続財産の帰属が確定するまで、相続財産保全の処置を行うのです。
一部の相続人が勝手に預金を引き出して、いわゆる「争続」になる事を防ぐために被相続人の口座を凍結させるのです。
2.遺産分割協議前の預金払い戻し請求の必要性と判例
人が亡くなった場合、色々をお金がかかります。
例えば、被相続人が病院へ入院していた場合、入院費の未払いがあった場合はその支払いをしなくてはいけないでしょう。また、葬儀費用も普通に行えば数十万円~数百万円かかります。
これらの費用を相続人が支払う事が出来れば良いのですがそれが難しい場合、被相続人の預金を使用する事を思いつくでしょう。
では、被相続人が亡くなり、遺産分割協議前に遺産である預金を引き出す事が出来るのでしょうか?
従前の判例(最判昭29・4・8)によりますと、相続財産中の可分債権(分ける事が出来る債権)は、法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を取得する。
預金はその性質として分割できる債権であるので、法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を取得する。また相続人全員が合意しない限り、遺産分割協議の対象とはならない財産となっていました。
その為、各相続人は自己の持分について個別に払い戻しを金融機関に請求する事が出来ましたし(ただし、銀行側は実務上の取扱いとして、これを中々認めていませんでした)、遺産分割協議の対象とする為に、相続人全員が合意する必要がありました。
しかし上記の判例が変更され、「銀行の預金は遺産分割協議の対象となる財産になり、法律上当然に分割されない」と言う判断がなされました。
この判例を徹底してしまいますと、どんなに相続人がお金が必要になった状態になったとしても、遺産分割協議前であれば銀行はその預金の引き出しに一切応じる必要がないように思えます。
それでは相続人が大変不利益を被る事になりそうですが・・・。
3.遺産分割協議前の預金払い戻し請求
実は銀行は、遺言書がなく、かつ、遺産分割協議前でも、相続人全員の合意があれば、相続人名義の口座の預金の一部払戻しに応じている場合があります。
さらに、金融機関によっては、相続人の一人から、その法定相続分に応じた預金の払戻しに応じるところもあります。
これは個別の事情による場合がありますので、一度金融機関に確認するようにして下さい。
4.払戻しに必要な書類
これも銀行によって違いがありますが、「相続届」「念書」「死亡届」「葬儀費用(納税費用)のための相続に関する依頼書」と言った書類を提出します。
なお、相続届には、後日紛争が生じても、相続関係者間で連帯して責任を負い、金融機関には一切迷惑・損害をかけない旨の記載があるのが一般的です。
ちなみに遺産分割協後であれば、遺産分割協議書も必要となります。
5.仮払い制度
2018年に相続に関する法律が改正され、遺産分割協議前でも一定の範囲の元、預金を引き出す事ができるようになりました。
相続人のうちの一人が預金を引き出す事ができ、その金額は、
=単独で払戻しをすることができる金額(上限150万円)
このお金を葬儀費用や入院費用に充てる事が考えられます。
6.まとめ -葬儀費用等の用意の為、生前にできる事-
被相続人名義の口座が凍結されるとパニックになり、冷静な対処ができないこともありますが、一旦冷静になり、葬儀費等の支払いの為に必要である事を金融機関に説明をして下さい。
また、生前にできる対策として、生命保険を活用する事が考えられます。生命保険は預金口座とは別の財産となりますので、口座が凍結されても問題なく支払われます。