専門職後見人の横領事件から考える家族信託。高齢者の財産管理対策の必要性

民事信託・家族信託の基本

こんにちは。司法書士の甲斐です。

ご両親が認知症になり、財産の管理能力が低下した場合、その程度にもよりますが、成年後見制度を利用する必要が生じる事もあるでしょう。

成年後見人は申し立てを行う事により家庭裁判所が選任するのですが、不動産、預貯金等の財産がある場合、成年後見人には弁護士、司法書士と言った専門職が選任される事が多いのが現状です。

しかし、成年後見人に選任された、弁護士、司法書士等の専門職後見人が、認知症の方(成年被後見人)の財産を横領する事件が多発しています。

裁判所の調査によりますと、平成27年で専門職の横領事件が37件(被害総額約1億1千万円)確認されています。

これは実際に発覚した件数ですので、水面下では専門職の横領はもっとあると言われています。

全体の成年後見の件数からすると、横領事件は非常に少ないのですが、それでも財産を横領されたご本人やご家族の方にとってみれば深刻な問題です。

さらに、平成37年には、認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みと言う推計も出ていますので、認知症になったとしても、ご自分の財産をどのように管理・活用していくのかを考える事が非常に重要になってきます。

今回は成年後見制度の財産管理の現状と、成年後見制度に代わる財産管理の手法として家族信託のご紹介を行っていきます。

1.専門職後見人の横領事件が多発する理由

そもそも、なぜ専門職後見人の横領事件が多発するのでしょうか?

法律実務家としての倫理、モラルが低下した等、色々な事が指摘されているのですが、一番の問題点は、「仕事がない」からです。

① 弁護士の場合

弁護士の人数は平成11年以降行われている司法制度改革によりその人数が爆発的に増えました。

日本弁護士会連合会の統計によりますと、平成11年には1万6,731人だった弁護士が、平成27年の段階では3万6,415人とたった16年で約2万人も増えています。

一方、裁判所に持ち込まれる新規事件数(民事、行政、刑事、家事、少年事件)は司法統計によりますと、平成11年は552万2,201件であったのに対し、平成27年は352万9,977件と、約200万件減少しています。

弁護士は増えたけれど、新規事件数は低下しています。

その為、いわゆる「食えない弁護士」が増えており、その結果として事務所経費や自己の生活費の為に被後見人の財産を横領する、と言う事が発生するのです。

② 司法書士の場合

司法書士も同様の状況です。司法書士の代表的な仕事は「不動産登記」なのですが、平成4年は1,895万件あったところ、平成28年は1,164万件と約730万件減少しています。

一方、司法書士の人数は平成4年は約1万6,500人だったのに対し、平成28年は約2万2,000人と約5,500人増加しています。

さらに簡単な登記申請であれば、インターネット上に申請書のひな型が沢山紹介されており、不動産登記は司法書士に頼らずご本人で行う事も増えているでしょう。

このように、弁護士、司法書士になっても食えない=お金が無いから横領する、と言う図式が成り立ってしまうのです。

これはどんなに研修で職業としての品位や倫理を学んだとしても解決しない問題なのです。これが横領事件の本質なのです。

2.横領事件に対する家庭裁判所の対策。後見制度支援信託

このように、専門職後見人による横領事件が多発した為、成年後見人を監督する立場である家庭裁判所はある対策を考えました。

それが、「後見制度支援信託」と呼ばれている制度です。

後見制度支援信託は日常的な支払いをするのに十分なお金を預金等として後見人が管理し、通常使用しないお金を信託銀行等に信託する事で、被後見人の財産を守る仕組みのことです。

信託しているお金を利用する場合は家庭裁判所の指示書が必要ですので、被後見人の財産を横領される心配が無い、と言う制度で一見非常に優れている制度なのですが、デメリットも存在します。例えば、

信託することができる財産は金銭に限られる(不動産等を信託することは出来ません)。
・信託銀行のほとんどが最低1,000万円からの利用を前提にしている。

等のデメリットがあります。

また、成年後見制度支援信託あくまで後見制度の中の財産管理の方法の一つです。

その為目的は被後見人の財産の維持ですので、例えば被後見人が生前に相続対策の為にアパート建設や生前贈与等を行っていたとしても、それを継続する事が出来なくなります。

高齢者の方にしてみれば、ご自分の財産についてこうしたい、ああしたい、と言った希望があると思います。

しかしながら、成年後見制度ではその思いを叶える事が出来ないのが現状なのです。

3.認知症対策の為に、家族信託の利用を

しかし、家族信託であれば、高齢者の方の財産に対する思いを叶える事が出来ます。

例え認知症になったとしても、かわいいお孫さんの為に、毎年決まった額のお金を贈与する事も可能です。

様々な相続税対策を行う事も可能です。認知症でどこかの施設に入所する必要が発生しても、ご自宅を売却する事が可能です。

家族信託では高齢者の方の財産に関する方針を、信頼の出来るご家族の方が代わりに行ってくれます。

高齢者の方が認知症になったとしても、そのまま継続してくれますので財産管理の面では成年後見制度より優れています。

ただし、家族信託でも出来ない事があります。

それは認知症の方がどのような生活を送ったら幸せなのかを考える「身上監護」です。

身上監護は成年後見人の職務となっています。

その為、家族信託と成年後見制度の併用を行い、財産管理の問題は家族信託で、身上監護の問題は成年後見制度でカバーすると言った方法が、今後の超高齢化社会では主流になっていくのかも知れません。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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