社長は必見!会社経営者が認知症対策を絶対に行わなければいけない理由

相続対策・認知症対策

こんにちは。司法書士/2級FP技能士の甲斐です。

日本は今、超高齢化社会に突入しています。

中小企業の経営者にも高齢者の方が沢山いらっしゃいます。

元気な高齢者の方が生き生きと働く社会は非常に素晴らしいと思いますが、その一方で考えなくてはいけない事もあります。

そう、経営者の方の認知症対策です。

今は65歳以上の認知症患者は約7人に1人と言われており、自社株の大多数を保有している社長がもし認知症になった場合、どのような問題が起こり得るのか?

またどのような対策を行う事ができるのか?

今回は、会社経営者が認知症対策を絶対に行わなければいけない理由をお話ししていきます。

1.事例紹介

太郎さん(70歳)はとある会社の創業者です。

太郎さんは既に社長の地位(代表取締役)を息子の一郎さんにバトンタッチしているのですが、まだ会社株式のほとんどを所有しており、経営にも積極的に参加しています。

また、会社の経営も順調で、近いうちに古くなった社屋を改築する為、太郎さん名義の不動産に抵当権を設定し、銀行からの融資を受ける予定となっていました。

ところが、太郎さんの奥さんから一郎さんに緊急の連絡があり、状況が一変したのです。

一郎大変!!お父さんが突然倒れて入院したの!!

え?え!!何だって!!!

元気だった太郎さんは、突然脳卒中で倒れたのでした。

幸い命には別状は無かったのですが、脳卒中の結果、脳の一部に血が流れなくなってその部分の脳の働きが失われ認知症(脳血管性認知症)になってしまったのです。

日常生活に支障を来たすような記憶障害等があり、自分1人で出来る事が少なくなってしまいました。

しかし、太郎さんは自分自身ではまだまだ元気だと思い、自分が認知症になった時の備えは一切していません。

さてこの場合、太郎さんの会社は果たしてどうなってしまうのでしょうか・・・?

2.会社経営者が認知症対策を行っていなければ・・・

① 経営者個人の預貯金がおろせなくなる

中小企業の社長は個人的な財産を会社の為に使っている場合が多くあります。

事例の太郎さんも同様で、自分のお金を会社に貸し付けたり、自分名義の不動産に社屋を立てていました。

太郎さんが元気なうちであればこのように自分の財産を会社の為に使用する事は自由なのですが、認知症になってしまい意思能力がない場合、同様の事が難しくなります。

銀行手続きは原則として口座名義人以外は行う事が出来ず、また口座名義人が認知症等と言う事が銀行側に分かれば、口座自体が凍結されるでしょう。

そうなれば会社の事業資金は元より、普段の生活費にも困る事になります。

② 経営者個人のその他の資産が使えなくなる

また、困るのは預貯金だけではありません。

経営者が今まで会社の為に使っていた資産も、今後は活用が難しくなります。

事例で言えば不動産の活用です。

会社の融資の為に、経営者名義の不動産に抵当権を設定する事は難しくなるでしょう。

抵当権を設定すると言う事は、銀行と経営者とで抵当権設定契約を行う必要があります。

認知症等で意思能力がない場合、契約そのものを行う事が出来なくなるからです。

③ 経営がストップし、役員すら決められなくなる

経営者が認知症になった場合、困るのは資産の事だけではありません。

中小企業の経営者の場合、経営者が会社の株式を100%(もしくはそれに近い割合)所有している事があります。

大株主が意思能力が無くなれば、経営に関する事に関与する事が出来なくなります。

さらに、株主には取締役、監査役と言った役員を選任する権限があるのですが、それも出来なくなってしまうのです。

役員の任期は定款で定めている場合が多いのですが、大体2年~10年です。

つまり、大株主が認知症になってしまった場合、新たに役員を追加したり、任期満了した役員の代わりに新たな役員を選任する事も出来なくなってしまいます。

3.成年後見(法定後見)制度を利用すれば解決できるのか?

このように、経営者が認知症等になった場合様々な問題が発生します。

その為、その問題解決方法として良く挙げられるのが「成年後見制度」です。

認知症の親の預金をおろそうと銀行に行った時、銀行側が良く言ってきます。

裁判所に成年後見の申し立てをして下さい。成年後見制度であればお父様の預金をおろす事が可能です。

成年後見人は認知症等で意思能力が無くなった人の代わりに財産の管理や契約等の法律行為を行う人です。

成年後見制度の事は書籍やインターネットで紹介されており、「名前だけは聞いた事がある」と言う方も多いのではないでしょうか?

では、成年後見制度を利用すれば、会社経営者が認知症になった後の問題を全て解決する事が可能なのでしょうか?

実はこれには大きな落とし穴があるのです。

① 成年後見人は家族がなれるとは限らない

一郎さんは銀行の言われるがまま、家庭裁判所に後見の申し立てを行ったのですが、後日弁護士を名乗る男から一郎さんに電話がありました。

私は弁護士の鈴木と申します。この度、家庭裁判所より太郎様の成年後見人に選任されましたので、そのご挨拶でお電話致しました。つきましては通帳等、太郎さんの財産を全て引渡して頂きたいのですが。

え、成年後見人には私ではないのですか??

成年後見人を誰にするかの権限は家庭裁判所にあります。

昔は家族が選任される事が多かったのですが、親族後見人の財産の横領事件が多発し(ニュースには取り上げられませんが)、弁護士・司法書士等の専門職が選任される割合が多くなりました。

特に太郎さんのように資産が有る方は専門職が選任される可能性が非常に高いでしょう。

このように、成年後見では今まで会社経営に全く関係がなかった第三者が成年後見人に選任される事があるのです。

② 会社のために本人の財産が使えない

事例では太郎さんは自分のお金を会社に貸し付けたり、自分の不動産に会社の為の抵当権を設定しようとしていました。

実は成年後見制度ではこのような事が非常に難しくなります。

成年後見制度の財産管理の基本は、「本人の財産を守る事」です。

その為、他人にお金を貸したり、担保を提供する事はもってのほかであり、このような事は監督権限がある家庭裁判所が許さないでしょう。

③ 会社の経営に関しても後見人が関与する事に

成年後見人は本人の全ての財産を管理する事になります。

事例では太郎さんは会社の株式のほとんどを所有しており、この株式も成年後見人の管理下に置かれます。

つまり、会社経営権や取締役等の選任権限を成年後見人が握る事になるのです。

例えば『任期満了した取締役の再任を成年後見人が拒否!』なんて事が有りえるのです。

いや、それっておかしいでしょ!成年後見人は会社については部外者だし、今までの経緯だって全く知らないわけだから!

そう思われるお気持ちはごもっともです。

恐らく、ほとんどの成年後見人は取締役の再任を拒否する事はないでしょう。

しかし、理論上はこのような事が可能であり、もし一郎さんに取締役としての適格性が無いと成年後見人が判断したら・・・と言う可能性もゼロではないのです。

このように成年後見制度は会社経営とは非常に相性が悪い為、経営者が認知症等になる前の対策が必須となってきます。

具体的には任意後見と家族信託(民事信託)です。

4.任意後見とは?

任意後見は成年後見(法定後見)とは異なり、認知症になる前に自分の任意後見人を決めておく制度です。

元気なうちは自分で財産の管理等が出来ますが、実際に意思能力がなくなった時は事前に決めた任意後見人が、事前に決めた約束事に従ってあなたの代わりに財産管理等を行います。

また、老人ホーム等の施設との入所契約や年金に関する事も任意後見人は本人に代わって行う事が出来ます。

5.任意後見の注意点

① 任意後見監督人が選任される

任意後見は本人の意思能力が低下した時に、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申立てる事により開始します。

つまり、任意後見人を監督する任意後見監督人が選任される事が大前提であり、任意後見人の日々の活動は任意後見監督人にチェックされます。

(もっと言えば、家庭裁判所が任意後見監督人を通して任意後見人の仕事をチェックするイメージです。)

また、任意後見監督人は弁護士・司法書士等の専門職が選任される可能性が高く、その場合、月々の報酬が発生します。

② 後見の内容は契約で定めるが、その内容に制限がある

任意後見は成年後見(法定後見)とは異なり、財産の管理方針を事前に決める事が出来ます。

しかし、自由に決められるとは言えあくまで後見制度ですので、ある程度の制限・不確実さがあります。

事例のように本人の不動産に抵当権を設定する事が後見の枠組みで出来るかどうかは、正直なところ不確実です。

また、財産の管理方針について監督人と対立した場合、最終的には任意後見人の解任の申し立てを行われる可能性も否定できません。

任意後見の詳しい内容は下記のページもご覧下さい。

将来の為の後見。任意後見を分かりやすく解説します
今回は任意後見制度のお話しです。【事例】Q:私は今年、70歳になります。意思能力はちゃんとしており、特に病気も無く健康なのですが、将来の事を考えますと、どうしても不安になります。今のうちに成年後見の制度を利用する事はできないでしょう...

6.家族信託(民事信託)とは?

家族信託は最近注目されている財産管理の仕組みで、自分の財産を誰かに託したい人が、信託と言う形で信頼できる家族等に譲渡して、財産を管理・処分してもらう仕組みです。

『信託』と言う名前が付いていますが、投資信託とは関係がありませんので信託銀行を通す必要もありません。

事例で言えば、太郎さん(委託者)が、会社で利用する預金や不動産(信託財産)を一郎さん(受託者)に譲渡して、信託財産の管理や処分を行ってもらうのです。

信託財産の管理・処分方針は事前に太郎さんと一郎さんで決めておけば、仮に太郎さんが認知症になったとしても、一郎さんは事前に決めた内容に従って信託財産の管理・処分を行う事が出来ます。

任意後見との主な違いは、より自由な財産の管理・処分が出来る事と監督機関の設置が義務ではない事です(当然、設定してもOKです)。

また、下記のような注意点があります。

7.家族信託(民事信託)の注意点

家族信託で行う事が出来る事は、あくまで財産の管理・処分に関する事です。

その為、任意後見人が行う事が出来る契約関係、老人ホーム等の施設との入所契約や年金に関する事は行う事が出来ません。

なお、家族信託の詳しい内容は下記のページもご覧下さい。

親が認知症になる前に!家族信託のやり方を分かりやすく解説します
親が認知症になると非常に大変になってくる事、何かご存知でしょうか?それは、「自宅の処分」です。一人暮らしの親が認知症になり、施設等に入所する必要が発生した場合、困るのがその資金です。子供に潤沢な資金があった場合は問題はないで...

8.まとめ -任意後見と家族信託、どちらを選ぶべきか?-

経営者が認知症になる前の事前対策として任意後見と家族信託をご紹介しましたが、それでは、どちらを利用すれば良いのでしょうか?

色々な考え方があると思いますが、両方利用した方が良いでしょう。

任意後見は身上監護に関する事(施設との入所契約等)は出来ますが、あくまで後見制度ですので、財産管理に関しては柔軟性が欠ける場合があります。

その為、会社で活用する財産については家族信託で対応し、それ以外の財産は任意後見を利用する、と言う方法を取るのです。

一方、家族信託では身上監護に関する事は出来ませんので、その分野は任意後見でカバーすれば良いのです。

成年後見(法定後見)制度はニュース等でどうしても悪いイメージがあると思います(弁護士・司法書士の横領両事件等)。

また、会社経営に注目した場合、成年後見(法定後見)制度の相性は(仕方が無いのですが)最悪です。

だからこそ、家族のためにも、従業員のためにも、しっかりと認知症対策を行っていきましょう。

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