
こんにちは。司法書士の甲斐です。
相続の手続きの中で一番困るのが「話し合いに応じない相続人がいる場合」です。
相続の話し合い、「遺産分割協議」は相続人全員で行う必要がある為、話し合いに応じない相続人を除外して遺産分割協議を行ったとしても無効になります。
その為、あなたはあの手この手で話し合いに応じてもらうように説得していると思うのですが、連絡を無視されたり、理不尽な要求をされたり等、散々な対応をされて大変困ってしまう時もあると思います。
相続の話し合いがまとまらない場合、最終的には遺産分割調停や審判といった家庭裁判所の手続きを利用する事で、その問題の解決を行う事が出来ます。
しかし、遺産分割調停も審判もそれなりの時間がかかりますし、弁護士に依頼した場合には弁護士費用も発生します。
その為、遺産分割調停の申し立てを行う事をためらっている方もいらっしゃると耳にしています。
ところが、良くこのような相談者の方のお話を聞いてみますと、申し訳ありませんが、「そりゃ確かに、その相続人は話し合いに応じないよな・・・」と思う事があるのです。
その理由、分かりますか?ずばり、あなたは相手の話を「聴いて」いないのです。「聞く」ではなく「聴く」です。
今回は、その「聴く」事の重要性にスポットを当てて、話し合いに応じない相続人に協力してもらう方法をお話していきたいと思います。
1.相続の話し合いに応じない相続人は「モンスター相続人」なのか?
最近は理不尽な要求を行う、モンスター○○が増えてきています。
モンスタークレーマー、モンスターペアレント、モンスター社員、等。
最近ではモンスター相続人なる者がいて、このモンスター相続人の為に、他の相続人が困っていると言うのです。
遺産分割協議は多数決で決まるわけではありません。
どんなに法律的に正しい話をしたとしても、モンスター相続人が反対すれば話がまとまらなくなります。
このようなケースでは、他の相続人VSモンスター相続人と言う対立構造が出来上がっており、モンスター相続人はまともな人間ではない、異常な人間として他の相続人から取り扱われます。
・・・と言う事なのですが、モンスター相続人は本当にまともな人間ではない、異常な人間なのでしょうか?
実はそうではないと思います。
私の経験上、モンスター相続人を創り出しているのは、紛れもなく他の相続人です。
2.一方的な主張を押し付けていませんか?
私の事務所に「相続人の一人が話し合いに応じてくれない」とご相談される方の多くは、既に一度対象の相続人にアプローチされていらっしゃる方が多いです。
そのアプローチの方法として手紙を出されている場合があり、私は参考としてその手紙を拝見させて頂くのですが、その内容が酷いモノが存在するのです。
・一方的に自分達の有利な主張、自分達が欲しい相続分を主張して、「連絡を下さい」と言っているケース。
・いきなり遺産分割協議書を送り付けて、署名押印を求めているケース。
・具体的な理由を告げる事なく、相手方に相続放棄を求めるケース。
このような、「一方的な主張」を行った事により、あなたは相手から不審がられているのです。
あなたが一方的な主張を行った為に、相手も同様に一方的な主張を行っているだけなのです。
ただし、当事者は一方的な主張を行った事に気が付いていません。むしろ当たり前だと思っています。
つまり、「相続人の一人が話し合いに応じてくれない」と言う問題は、そもそも最初のアプローチが大失敗した結果に過ぎないのです。
人は第一印象で決まってきます。最初のアプローチを間違えてしまいますと、その後にリカバリーする事は非常に困難になってきます。
もし最初のアプローチであなたが理由もなく一方的な主張を行った場合、誠意を持って相手に謝罪する必要があるでしょう。
3.「聴く」事の意味
それでは、遺産相続の話し合いに応じない相続人に対してどのようにアプローチすれば良いのでしょうか?
それが冒頭でお話した「聴く」事をしっかりと意識する事です。
「聴く」とは「聞く」と異なり、相手の話を全身全霊で聴く事を言います。
基本的に人間は自分とは意見が合わない人に対して、「聴く」事が大の苦手です。
あなたにも経験がありませんか?自分とは異なる意見を持っている人に対し、話しを聞いている時の状況の事を。
相手の話を聞いているようで、実はどうやって自分の意見を相手に納得させようかと、頭の中が一杯ではありませんか?
「聴く」とはそう言った姿勢で相手と接する事ではありません。
相手の話を聴く時の、あなたの頭の中にある事はただ一つ、相手の事です。
ただひたすら、相手の事を理解しようとして目の前の相手に集中するのです。
相手が間違っていても関係ありません。あなたが正しくても関係ありません。意見も批判も言わず、ただひたすら相手に集中して下さい。
また、相手の話の中で、ご自身が理解が出来ない事が出てきたら、深く掘り下げる為に質問して下さい。
「その時にどのように思ったのか?」
等、質問を繰り返し、相手の話をどんどん掘り下げて具体化していって下さい。
そうすると、理不尽に思えた相手の発言、態度について、相手さえ気が付かなかった根本的な原因が判明する事があります。
その根本的な原因が分かれば、後は将来に向かってどうするのかの話し合いを行うだけです。
4.弁護士や司法書士も聴く事は基本的に下手です
ところで、弁護士や司法書士等の法律家は聴く事にたけているのでしょうか?実は、法律家は基本的には聴く事は下手です。
その理由は法律家の仕事の内容を考えれば一目瞭然です。
法律家は様々な法律問題について、その問題解決の為に法律的な主張を行います。
そう、基本的には法律家は主張する側の人間であり、「聴く」と言うスタンスで仕事を行っていません。
私は司法書士の資格とは別に心理カウンセラーの資格を持っており、聴く事に関する訓練を沢山行っています。
しかし、それはあくまで例外であって、一般的な弁護士、司法書士は聴く事の重要性はあまり意識していません。
その為、弁護士や司法書士が相続の話し合いに応じない相続人にアプローチする事で、かえって話が混乱する事がありますのでご注意下さい。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか?このように「聴く」事を意識する事により、相続の話し合いがまとまる事が十分にあるのです。
しかし一方で、「それは机上の空論」と思われている方がいらっしゃるかもしれませんね。
確かに、どんなに聴いても全く協力してくれない相続人もいるでしょう。それも事実です。
だからと言って、行動しなければ何も問題が解決しないのも、また事実だと思います。
法律上の制度で、相続の話し合いがまとまらない最終手段として、遺産分割調停や審判があります。
でも、なるべくであれば手間も時間もかけずにスピード解決を行いたいと思いませんか?
ちょっとした工夫で、相続の話し合いがまとまる事だってあるのです。
他の相続人とのアプローチに問題があったのであれば、そのアプローチを変えれば良いだけです。
まずは出来る事をしっかりとやっていきましょう。
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