【民事信託】子供に預貯金の管理をしてもらいたい場合

民事信託・家族信託の基本

【事例】
私は今年80歳になります。

私は一人暮らしをしているのですが、数年前から足腰を悪くして、外出するのにも一苦労です。

その為、息子に普段の買い物やその他の支払いをしてもらう為、(本当はダメだと思うのですが)キャッシュカードを預けて金銭管理をしてもらっている状態です。

今はまだ良いと思うのですが、今後、キャッシュカードでは無く銀行の窓口に行く必要性が出てきた場合は、今の状況ではとても対応出来ません。

また、万が一私が認知症になってどこかの施設に入所しなくてはいけない場合、今住んでいる実家を売却する必要があると思うのですが、その為には成年後見人が必要と言う事を聞きました。

成年後見人は、私が亡くなるまで一生続いて、しかも私の家族とは何ら関係がない弁護士や司法書士がなると聞いています。出来れば私の預貯金等、財産の管理は家族である息子に行ってほしいと考えています。何か良い方法はないでしょうか?

A:民事信託を利用する事で、あなたの財産を息子様が法律上適切に管理する事が出来ます。

1.民事信託とは? 

民事信託とは、ご自分の財産を、親族等の信頼が出来る人に託して、ご自分もしくは第三者の為に財産の管理や処分等を行ってもらう、法律上の制度です。

「信託」と言う言葉から「投資信託」を連想されるかも知れませんね。

信託銀行は顧客から財産を預かり、それを運用し、得た利益を顧客に還元する事で利益を得る(業務)事を目的とし、「商事信託」と呼ばれているのに対して、親族等が業務として行わない信託を「民事信託」(家族信託)と呼んでいます。

「財産管理」と言えば有名なのが成年後見制度ですが、成年後見制度にも様々な問題点があります。

特に、弁護士、司法書士のような家族とは全く関係がない専門職が後見人に選任され、その事でご家族とのトラブルになる事があります。

「ウチの事はウチで決める」事を非常に大切に思われている方にとってみれば、成年後見制度は使い勝手が悪い制度であり、その為、民事信託の制度が昨今クローズアップされている現状があります。

① 信託の登場人物

信託には主に3人の登場人物が出てきます。

・委託者・・・財産を託す人です。事例で言えばご相談者です。
・受託者・・・財産を託され、管理・処分する人です。事例で言えば息子様です。
・受益者・・・信託された財産から発生した利益を得る事が出来る人です。事例で言えばご相談者です(受託者以外の第三者でも構いません)。

その他、受益者の為に受託者を監督する「信託監督人」、受益者を代理する事が出来る「受益者代理人」等が信託法で規定されています。

② 信託の方法

信託法で信託の方法が規定されているのですが、

・委託者と受託者で信託の為の契約を結ぶ「契約信託」
・委託者が遺言によって行う「遺言信託」
があります。本ページでは契約信託について解説していきます。

遺言信託はこちらをご覧下さい。

相続:遺言信託とは?
『遺言信託』をご存知ですか?最近、銀行や信託銀行が取り扱っている商品として良くTVCMが流れています。相続に関連する財産管理の手法の一つなのですが、実はこの『遺言信託』と言う言葉が、複数の意味で使われている事をご存じでしょうか?今回...

③ 信託財産の範囲

委託者が所有して、契約で信託の目的としたものが信託財産となるのですが、どのような財産が信託財産となりえるのか?が一つのポイントになります。

結論としては、信託財産は、「金銭的に価値がある物」が対象になります。

例えば現金、不動産、有価証券、自動車、貴金属類等のいわゆるプラスの財産がこれにあたるでしょう。

では、反対に信託財産に出来ない物は何なのでしょうか?

これは先ほどとは逆に「金銭的な価値がない物(金銭的価値に置き換える事が出来ない物)が該当します。

例えば、何かしらの名誉、委託者の身体、生命等、金銭的価値に置き換える事が出来ませんので、信託財産とする事は出来ません。

④ 信託財産は誰の財産になるのか?

信託財産は元々は委託者の財産なのですが、受託者が信託財産を管理・処分する関係上、その名義は受託者名義になります。

と言う事は、信託財産は受託者の物になるような印象を受けますが、実はこれは便宜上、受託者名義になっているに過ぎず、信託財産が受託者の物になったわけではありません。

ではやはり信託財産は委託者の物かと言いますと、財産の名義や管理・処分権限が受託者に移動していますので、「信託財産は委託者の物」とも言い切れないでしょう。

実はこの答え、信託財産は誰の物か?と言えば、誰の物でもないと言うのが正解になります。ちょっと分かりにくいかと思いますが、信託財産として、独立した状態になると思って下さい。

2.民事信託で具体的に出来る事

信託で出来る事は、「財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること」です(信託法第2条1項)

信託財産を何にするのか?信託財産について受託者に具体的にどのような管理・処分権限を与えるのか?と言った事は、信託契約の中で委託者と受託者が決める事になります。

その具体的な内容ですが、分かりやすいように、また事例の場合で考えてみましょう。

① 預貯金の管理

まず、ご相談者は息子様にキャッシュカードを預けており、預貯金の管理をしてほしいと思われています。その為預貯金口座の管理を行う事が出来ます。


(なお預金債権は譲渡禁止特約が付いておりそのままでは受託者名義にする事は出来ませんので、実際には現金を信託財産として対応する形になります。)

管理方法は、受託者預かり口名義の口座を開設し、その口座に預貯金を移動させ管理する事になるのですが、これには実は注意点があります。詳細は下記の注意点をご確認下さい。

② 不動産の管理

事例のご相談者様は不動産(自宅)を所有しており、その不動産の管理も信託の契約内容とする事が出来ます。

例えば、築年数が長くなった家はどうしても色々な箇所が傷んできて、場合によっては修繕を行う必要があるでしょう。

その時に受託者が業者と修繕工事に関して契約を行い、工事代金の支払い等を行う事が可能になります。

また、ご相談者様が認知症等になりどこかの施設に入所し、自宅に誰も住む人がいなくなった時に自宅を売却する権限を受託者に与える事も可能です。

③ 租税公課その他の支払い

ご相談者は自宅を所有しており、固定資産税等の支払いが必要になりますのでその支払いの為に信託財産を利用する事が出来ます。

また、自宅の修繕等が必要になった場合、管理している預貯金からその支払いを行う事が可能になります。

その他、病院に通院している場合や施設に入所した場合は信託財産から支払う旨を定める事が出来ます。
 
なお、信託財産の管理・処分権限は受託者にありますが、契約内容として「受託者は毎月○○万円を生活費として委託者に渡す。

これ以外にも委託者の申出により随時生活費等を委託者に渡す」と言った取り決めを行う事は可能です。

その他、財産管理・処分に関して、信託の本質に反しない限り、当事者が望む様々なスキームを組み立てる事が出来ます。

3.民事信託の注意点

① 信託財産は相続財産とはならない

信託財産は委託者の手を離れ、「誰の物でもない」財産となります。その為、仮に委託者が亡くなったとしても、信託財産は相続財産とはならず、遺産分割協議の対象とする事は出来ません。

その為、委託者が亡くなった場合に信託財産を誰かの物にしたい場合、その信託財産の取り扱いを事前に契約の中で決めておく必要があります。

② 預かり口口座の問題

金銭は基本的に専用の口座(受託者預かり口)を解説し、その口座で管理する事になりますが、民事信託は新しい制度の為、金融機関によっては理解を示さずに専用口座の開設を行ってくれない所もあります。

民事信託用の専用口座を開設する事が可能かどうか、必ず金融機関に確認するようにして下さい。

③ 税務上の複雑な問題が発生する可能性がある

信託では、形式的な所有権は受託者に移りますが、税務上においては、「受益者」が「信託財産」を所有しているものとみなされます。

この関係上、場合によっては贈与税等の複雑な税務上の問題が生じる可能性があります。

④ 契約書は公正証書で作成するのがお勧め

信託法上、民事信託の契約書は公正証書である必要はありません。

しかしながら、金融機関等、第三者の方に対して受託者がきちんと信託法上の権限がある事を証明する為に、契約書は(費用はかかりますが)、公正証書で作成された方が良いでしょう。

4.まとめ

民事信託(家族信託)を利用されたい場合、様々な事を決めなくてはいけません。

何を信託財産とするのか?具体的な管理・処分方法をどうするのか?等々、決めなくてはいけない事はいっぱいあります。

面倒かもしれませんが、他人の財産を管理・処分すると言う事は、それだけ責任がある重いものであるとご理解下さい。

当事務所では民事信託(家族信託)のご相談も積極的に行っております。民事信託(家族信託)についてお悩み、ご不明点等ございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。

なお、下記の民事信託(家族信託)専門サイトで、民事信託の事をより分かりやすく解説していますので、併せてご覧下さい。

https://www.kazoku-shintaku.yokohama

 

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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