家族信託で抵当権がついた不動産を信託財産にしたい場合

こんにちは。司法書士の甲斐です。

家族信託は認知症対策等、様々な目的で利用されていますが、信託財産のメインになるのが不動産でしょう。

この不動産、自宅やアパート等の投資用物件を含め、ローンを担保するための抵当権が設定されている場合があります。

このように不動産に抵当権が設定されていたとしても、家族信託を行い信託財産とする事は可能なのでしょうか?

法律的には不動産に抵当権が設定されていても信託財産とする事は可能です。

ただし、ローン等が設定されている場合、不動産の所有者の変更には銀行の承認が必要になってくる事が一般的です。
(家族信託を行うと、形式的に所有権者が受託者になります。)

この時の銀行側への説明や調整が上手くいかないと、事実上家族信託を行う事がストップしてしまいます。

その為、家族信託を成功させる為には、銀行等、金融機関の立場にたった分かりやすい説明が必要になります。

そこで今回は、抵当権が設定された不動産を信託財産としたい場合の流れや注意点をお話ししたいと思います。

 

1.抵当権付き不動産を信託する事による銀行の影響

① 抵当権への影響

家族信託を行う上で銀行側が懸念する事の一つが、不動産に設定している抵当権への影響です。

銀行は債務者に融資をし、不動産に抵当権を設定しています。

つまり、万が一債務者が返済できなくなった場合、抵当権を実行して不動産を競売にかけ債権の回収を行います。

家族信託を行った場合、所有権の名義は形式上、受託者に変更されますが、既に抵当権は登記されていますので、受託者への所有権移転登記よりも優先されます。

その為、銀行としても状況は今までとは何ら変わりません。

② 被担保債務への影響

続いて抵当権で担保されている債務(これを「被担保債務」と呼びます。)はどうなるでしょうか?

信託財産となり得るのはプラスの財産のみであり、借金等のマイナスの財産は信託財産とする事は出来ません。

その為、抵当権付き不動産を信託財産としても、その債務者は委託者のままとなります。

実はこの点が実務上非常に困るのです。

その理由を説明していきましょう。

 

2.委託者の債務を受託者が債務引受する必要性

① 不動産売却時の繰上げ返済における問題点

家族信託を行う理由の一つとして、委託者(受益者)の判断能力が低下し一人暮らしが出来なくなった場合に自宅を売却する、認知症対策があります。

この自宅を売却する際に、住宅ローン等の抵当権が設定されていて、売買代金で繰上げ返済をする時に債務者が委託者のままだと困ってしまう事になるのです。

不動産の売却そのものは受託者が行う事ができます。

ですが抵当権を抹消する為の繰上げ返済申込書及び口座引落し依頼者等の書類は債務者が記入する事が求められます。

その際に債務者である委託者(受益者)が意思能力・判断能力を喪失している場合、これらの書面の記入は出来ないでしょう。

では受託者が代わりに記入すれば良いのか?

実はこれは出来ません。

何故なら、受託者は住宅ローンの債務者では無いからです。

つまり、被担保債務の債務者が委託者(受益者)のままでは、銀行側が繰上げ返済にスムーズに対応してくれない可能性があるのです。

② 家賃管理口座の問題点

アパート等の収益物件に抵当権が設定されており、そのローンの債務者が委託者(受益者)のままの場合も問題点があります。

アパートの家賃は通常、銀行の口座で管理をされていますが、家族信託を行いアパートを信託財産とした場合、今後の家賃の管理は、受託者が管理する信託口口座で行う事になります。

一方、ローンの返済口座は家族信託を行っただけでは変わらず、委託者(受益者)名義のままです。

家族信託を行う前であれば、仮にローンの返済が滞った場合、委託者(受益者)名義の家賃管理口座を凍結し、相殺処理をする事で迅速にローンの回収が可能になります。

しかし、家族信託を行いアパートを信託財産とした場合、家賃管理口座とローン返済口座は別名義になりますので、銀行は即時に相殺により口座凍結を行う事が出来なくなります。

委託者=受益者の場合、銀行は最終的に受益者の持つ「受益権」を差し押さえる事は可能ですが、それには時間もかかりますし、様々な問題もあります。

以上①、②から、抵当権付きの不動産を信託財産とする場合、銀行が承認する条件として委託者名義の被担保債務について、受託者にも引き受けてもらう事が、銀行の対応として多くなっています。

 

3.債務引受の方法

債務引受は実務上、銀行・債務者・債務引受者の三者間の契約で行い、下記の二種類の方法があります。

① 免責的債務引受(めんせきてきさいむひきうけ)

委託者が負っている債務を、受託者が委託者の代わりに引き受けることです。

これがされると、債務は委託者から受託者に完全に移転するため、委託者は債務を今後支払わなくても良い事になります。

② 重畳的債務引受(ちょうじゅうてきさいむひきうけ)

委託者が負っている債務を、委託者と一緒に受託者も引き受けることです。

債務者が一人増えるイメージと思って下さい。

重畳的債務引受を行いますと、委託者と受託者は連帯債務関係、つまり同一の内容の債務について、独立して全責任を負う事になります。

 

4.抵当権付不動産を信託財産とする場合の注意点

注意点はずばり、銀行との交渉が難航する場合がある事です。

家族信託を行うと信託財産である不動産の所有権は「形式上」受託者となります。

その為、抵当権者である銀行に所有権者が代わる事への承認を求める必要があるのですが、家族信託を理解していない(分からない)銀行の場合、まずは家族信託の制度の事を丁寧に説明する必要があります。

担当者レベルで分かってもらえない場合、本部の法務部等を巻き込んで承認をしてもらう必要があります。

その上で上記の債務引受を要請された場合、対応を行う、と言った流れになります。

なお、銀行への家族信託の説明は専門家でも中々苦戦するのですが、家族信託を行う上での銀行側のメリットもしっかりと伝えてあげる事で、理解を示してくれる場合もあります。

家族信託を行う上で、銀行側の大きなメリットは、万が一ローンの支払いが滞った場合に初期対応で行う、内容証明についてです。

ローンの返済が滞った場合、銀行側の内部規約として内容証明を債務者に送付します。

でも、もし債務者が認知症になり意思能力・判断能力が低下した場合、内容証明の受領能力の問題が出てくるでしょう。

場合によっては内容証明が債務者に届かない、と言う状況にもなるかもしれません。

そうなってなれば銀行としても困りますので、認知症対策としての家族信託は意味がある事を丁寧に説明する事が重要になってきます。

【ポイント】

・家族信託を行っても、抵当権としての影響はない。
・場合によっては債務引受を求められる事がある。
・家族信託の事についてあまり良く分かっていない銀行もあるので、丁寧な説明が必要。

 

5.まとめ

家族信託はしっかりと勉強している人間にとっては何も問題ありませんが、全く知らない人(組織)に対して一から説明を行うのは非常に困難です。

特に銀行は家族信託について積極的に取り入れようとしている銀行と、そうではない、全く理解をしていない(しようとしない)銀行が存在し両極端で、説明に非常に時間がかかる事があります。

その為、家族信託をご検討中で、抵当権が設定された自宅やアパートを信託財産にしたい場合、必ず経験豊富な専門家にご相談するようにして下さい。

 

 

 

【このブログの著者】

甲斐 智也(かい ともや)
司法書士/上級心理カウンセラー
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