認知症対策で家族信託を利用したい理由 -成年後見制度との違い-

民事信託・家族信託の基本

こんにちは。司法書士の甲斐です。

「家族信託」と言う言葉が一般に浸透されるようになり、様々な場面で活用されつつあります。

その場面の一つが「親の認知症が心配なので、家族信託を利用したい」なのですが、そもそも認知症の方の財産管理の制度として、成年後見制度があります。

すでにある成年後見制度を利用せず、新しい制度である家族信託を利用すると言う事はそれなりの理由があると思われるのですが、今回は家族信託と成年後見制度の違いを中心に、認知症対策でなぜ家族信託を利用したいと思う方が増えているのかをお話ししていきたいと思います。

1.成年後見制度とは?

そもそも、成年後見制度とは一体何なのでしょうか?

成年後見制度は、判断能力の不十分な方(認知症高齢者、知的障がい者、精神障がい者等)を保護するための制度です。

自己決定権の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション(高齢者や障がい者を施設などに隔離するのではなく、一般の人と当たり前に一緒に暮らす社会を目指す、福祉のあり方に関する考え方)等の理念のもと、判断能力が不十分な方々を、法律面や生活面で保護したり支援したりする制度です。 

成年後見制度は判断能力の低下のレベルによって3つの類型があります。ほぼ一般の方と同じだけど、時々判断能力が無い状態を「補助」、基本的に意思能力、判断能力が無い状態を「後見」、補助と後見の中間として「保佐」と言うように分類しています。

後見制度は家庭裁判所に申立てを行う事により開始され、家庭裁判所が選任した成年後見人(保佐人、補助人)が判断能力が無い方(成年被後見人、被保佐人、被補助人)の権利を守る目的で、身上監護と財産管理の面からその職務を行う事になります。

成年後見人等は、被後見人が所有している財産の金額にもよりますが、基本的には弁護士や司法書士と言った専門家が選任される可能性が高くなっています。

2.認知症対策で家族信託を利用したい理由

① 両親の預金を引き出す事が出来なくなるのを危惧しているため

Aさんは高齢になり、最近物忘れが激しくなっており、認知症になる事を非常に心配しております。

さらに足腰も悪くなってきており、外出をほとんど行っておりません。

その為、銀行へ行って生活費等の引き出しや、その他外出が必要な用事は全て長男のBさんが行っております。

Bさんは、「父の代わりに父の預金を引き出しているが、父が認知症になって口座が凍結され、必要なお金を引き出す事が出来なくなったらどうしよう」と心配しております。

このような場合に家族信託を利用し、信託財産をAさんの預金にしておけば、例えAさんが認知症になり、意思能力、判断能力が低下したとしても、Bさんは今まで通りAさんの預金をAさんの希望通りに管理する事が出来ます。

【成年後見制度の場合・・・】

成年後見制度を利用した場合、家庭裁判所から選任された成年後見人がAさんの財産を管理する事になります。

しかし、成年後見人の財産管理の方針は基本的に硬直的であり、柔軟な対応を行う事は出来なくなります。

② 専門職の成年後見人が家族の中に入ってほしくないため

そもそも、専門職成年後見人である弁護士や司法書士に家庭の中に入ってほしくないと言う思いがご家族の中にあります。

家族はお互い何十年も接する事により、その考え方や価値観を共有し、「何も言わなくても分かりあえる状態」になっていきます。

だから、例え両親が認知症になったとしても、両親がやってほしい事は十分に理解出来ていると思います。
 
そして家族全員が「家族の事は家族で解決する」、と言った認識であるところ、ある日突然全く知らなかった弁護士や司法書士が現れて、

「今日からお父さんの財産は私が管理します。つきましてはお父さんの通帳を全て渡して下さい」

と言ってきたらどうですか?

絶対に良い気持ちはしないと思います。

そんな時でも家族信託を利用し、家族の誰かが受託者となる事で、「家族の事は家族で解決する」と言った信念を貫き通す事が出来ます。

【成年後見人制度を利用するとこうなる】

この点で言えば、専門職後見人は家族の方の立場にたってみるとあまり歓迎されていないのかもしれません。

成年後見人はあくまで本人の権利を守る専門家です。

この本人の権利を守る為に、時には家族と対立する事もあるでしょう。

家族としてみれば「昔のお父さんはこんな事、あんな事をしていた。だから今もさせてあげたい」と言う気持ちがあると思います。

でもそれも、成年後見人(と成年後見人を監督している家庭裁判所)が許可をしなければ出来ない事も沢山あります。

代表的なのが財産に関する事です。

例えば、毎年お孫さんのためにお年玉をあげていたとか、教育資金の為に贈与していたとか、子供の結婚資金や住宅購入の為の資金を準備する事を以前約束していたとか、そのような事があっても後見制度を利用すると出来なくなります。

後見制度は本人の権利を守る制度ではないのか?
教育資金や結婚資金、住宅購入の資金の贈与は被後見人の意思なのではないのか?
それを尊重すべきなのではないのか?

と言った疑問が沢山出てくると思います。

しかし、現状の家庭裁判所の考えでは、被後見人の財産は極力使わず現状維持させる方向にあります。

これは親族後見人、専門職後見人の財産の横領等の不正事件が多発したせいで家庭裁判所及び成年後見人の財産管理方針が非常に厳しくなってきているのがその理由です。

その為、本当の意味で被後見人の意思を尊重する、と言う事が難しくなってきています。これが家族信託が普及しつつある原因の一つでもあるのです。

3.専門職後見人の報酬について

また、家族信託と成年後見制度の違いとして、成年後見人の報酬が挙げられます。

もし弁護士や司法書士と言った専門職後見人が選任された場合、毎月の報酬が発生します。その額は家庭裁判所が決めるのですが、相場として月3万~5万円ぐらいです。

成年後見制度は被後見人が亡くなるまで続きますので、例えば5年間成年後見制度を利用をした場合、3万×60ヵ月=180万円の支出が発生します。

これに対して家族信託は家族間で行いますので、基本的に無報酬で行う事が多いです。

(ある程度の報酬を取っても良いのですが、金額によっては信託業法に抵触する可能性もあります。)

4.まとめ -認知症になってからでは遅すぎる-

このように、家族信託は成年後見制度では出来ない、足りない部分を補う事が出来るすばらしい制度なのですが、注意点もあります。

その注意点の一つが「ご家族が認知症になる前に利用すべき」と言う点です。

家族信託の基本は財産を託す側の委託者と、財産を託される側の受託者の契約で行うのですが、委託者が認知症になり、家族信託の事が理解出来ないようであれば、そもそも家族信託を利用する事が出来なくなります。

その為、「両親が認知症になりかけているのでは?でも成年後見制度は極力利用したくない。」と思われる場合は、早急に行動する事が必要になります。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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