
こんにちは。司法書士の甲斐です。
本日は本厚木で家族信託のご相談を承りました。
その中でご相談者の方から非常に沢山のご質問を受けました。
家族信託はまだまだ新しい制度であり、分かりにくい部分が沢山あります。
そこでこのページでは、今回のご相談でも出てきました、家族信託の分かりにくい部分、よくあるご質問等をまとめてみました。
1.家族信託は認知症になってから出来ますか?
Q:父が認知症で施設に入ってますが、もう色々な事を判断できる能力がなく、成年後見人制度の利用を検討しています。
しかし、成年後見制度について調べてみると、後見人への報酬は発生したり、家族が父の財産の管理が出来なくなったり等、非常に面倒な点がある事が分かり、その利用を躊躇しています。
そこで家族が認知症の父の財産を管理する事が出来る家族信託の利用を考えているのですが、このような状態でも家族信託の利用は可能でしょうか?
A:認知症にも様々なレベルがあるのですが、事例の場合、お父様は色々な事を判断する事が出来ないようですから、家族信託の利用は難しいでしょう。
基本的な家族信託は委託者と受託者の契約によって行います。
契約を行うと言う事は、その契約の意味、内容をしっかりと理解する事が出来なければいけません。
認知症で契約の内容、その意味する事が理解出来ないのであれば、家族信託を利用する事は出来ず、仮に契約を行ったとしても、その契約は無効となります。
2.契約書は絶対に必要ですか?
Q:家族信託の利用を検討しています。色々な専門家に相談したのですが、全員の方から『家族信託には契約書が必須』と言われました。
私としてはあくまで家族間の事ですので、契約書を作るのは正直面倒ですし、そこまできっちりとしたものではなく、あくまで柔軟に対応した利用にしたいと考えています。
家族信託を利用するに際して、契約書の作成は必須なのでしょうか?
A:委託者、受託者の契約で行われる家族信託(信託契約)は、信託法上、契約書の作成は義務付けられていません。
しかし、下記の点から契約書は作成すべきでしょう。
⑴ そもそも、家族信託は他人の大切な財産を管理する責任のある行為です。
『家族間だから』と言う理由で信託の内容、信託財産、受託者の義務等を曖昧にする事は非常に問題になり、場合によっては受託者が損害賠償の対象になる事だってあり得ます。
その為、しっかりとした契約書を作成し、信託の内容や受託者の権利、義務を客観的に明確にするべきです。
⑵ 信託財産は受託者の財産とは別に分けて管理を行う必要がある為、金融機関に信託専用の口座を開設する必要があるのですが、契約書と言う客観的な資料が無ければ、口座の開設は事実上不可能です。
第三者に対して家族信託を行っている事を客観的に知ってもらう為にも、契約書の作成は必須と言えます。
3.受託者は誰でもなる事が出来ますか?
Q:高齢の父の為に、家族信託の利用を考えています。
父には私を含め子供が3人いるのですが、この3人の内、1人が受託者になる事を考えています。
受託者は誰がなっても良いのでしょうか?
A:信託法上、受託者となれないのは、未成年者、成年被後見人、被保佐人です。
つまり、それ以外の方は受託者になれるのですが、注意が必要です。
家族信託(信託契約)は委託者と受託者の契約によってスタートしますが、場合によっては何十年も続く事になります。
長い間家族の大切な財産を管理すると言う事は、受託者にとっては非常に負担になる事があります。
その為、受託者は、年齢・職業・健康状態、精神状態等の一切を考慮して選ぶべきでしょう。
4.家族信託はどこに頼めば良いですか?
Q:家族信託に興味があり、色々と勉強をしているのですが、具体的に相談をしたい場合、どこに相談すれば良いのでしょうか?
市役所でも対応してくれるのでしょうか?
A:家族信託は新しい制度であり、また家族信託を利用すれば、場合によっては何十年も続きます。
その間に発生しうるリスクやアフターフォローを責任を持ってしっかりと行う事が出来る専門家を選ぶべきです。
また、家族信託はまだ新しい制度であり、沢山勉強しなくてはいけない事があります。
その為、弁護士、司法書士と言った法律の専門家でも、家族信託の内容、仕組みを理解出来ていない人もいます。
専門家を選ぶ時は、しっかりと家族信託に取り組んでいる専門家を選びましょう。
5.信託口口座の預金の引き出しについて
Q:私は昨年脳梗塞をわずらい、物忘れも激しくなってきた事から、家族信託の利用を考えているのですが、一つ心配があります。
家族信託は自分の財産を家族に託して管理してもらう制度と聞いたのですが、それはつまり家族が私の財産を自由に使う事が出来ると言う事なのでしょうか?
例えば預金であれば家族が勝手に引き出す事が可能になるのでしょうか?
家族の事は信頼はしているのですが、預金を自由に引き出されるのは少し怖い気がします。
A:家族信託は制限無くご自身の財産を管理されるのではありません。
まず、信託財産にしなければご家族の方が財産を管理する事は出来ませんし、さらにその管理方法は信託契約で決めた内容に従う必要があります。
その為、家族信託を利用したからと言っても、ご自身の財産を家族の方に無制限に管理や処分はされません。
6.抵当権付き不動産を信託財産にしたい
Q:自宅を信託財産にしたいと考えています。
しかし、まだ住宅ローンが残っており、自宅に抵当権が設定されたままです。
このような状態でも自宅を信託財産とする事は可能でしょうか?
A:不動産に抵当権が設定されていても信託財産とする事は可能です。
ただし、抵当権を設定している金融機関には事前に説明する必要があります。
家族信託は信託財産の名義を受託者に変更して、受託者が信託財産の管理や処分を行う制度です。
その為、不動産を信託財産とした場合、不動産の所有権を形式的に受託者に移転します。
住宅ローン等の抵当権の場合、不動産所有者と金融機関との特約で所有権を移転させる事を禁止している事があり、これに違反すると損害賠償の対象になる可能性があります。
上述のとおり、不動産を信託財産にすると受託者に名義を変更しますので、金融機関との特約に違反する事になりますが、これはあくまでも信託を利用する上で形式的に名義を変更しただけです。
ただし、金融機関によってはその事情を良く理解出来ない場合もあり、その為、信託による所有権移転はあくまで形式上である事、金融機関にとってみれば今までと全く同じで、損害が発生しない事等をきちんと金融機関に説明する必要があります。
7.家族信託をすれば、遺言や成年後見制度を利用しなくても大丈夫ですか?
Q:認知症対策や相続対策の為に、家族信託の利用を検討しているのですが、家族信託さえ行えば遺言を書かなくても大丈夫ですか?
A:確かに、家族信託は財産管理や財産承継において非常に優れた制度なのですが、家族信託ではできない事もあります。
例えば、遺産分割協議の禁止や子供の認知等は家族信託では出来ず、遺言等の他の方法を選択する必要があります。
また、認知症になった場合、家族信託の受託者には「身上監護権」(認知症の方が今までと同じ生活を送る事ができるようにする権利)がありません。
身上監護が必要になった場合は、別途成年後見制度の利用を検討すべきです。