家族信託は「終わらせ方」も大切です

民事信託・家族信託の基本

こんにちは。司法書士の甲斐です。

家族信託では様々な事を決める必要があるのですが、今回はその中の「家族信託の終わらせ方」についてスポットをあててみたいと思います。

「終わらせ方?それって重要なの?」と思われる方がいらしゃるかもしれませんが、最後の最後でトラブルになってしまえば、今まで折角頑張ってきた家族信託が全てムダになってしまいます。

だからこそ、「家族信託の終わらせ方」にも注意をする必要があるのです。

1.家族信託が終了する法律上の理由

家族信託の終了事由は信託法の中に多数規定されており、その中でも家族信託を利用するにあたって押さえておくべきモノを挙げてみたいと思います。

① 委託者及び受益者が合意したとき

家族信託は委託者が一定の目的のもと、受益者のために設定するものです。

その為、受益者単独で家族信託を終了させる事はできませんが(信託法第164条4項)、委託者と合意を行う事により、家族信託を終了させる事ができます。

② 信託契約等であらかじめ定めておいた事が発生したとき

例えば、

・信託開始から5年間
・受益者が死亡した時
・父及び母の死亡した時

事前にこのような定めた場合に家族信託を終了させる事ができます。

③ 信託の目的を達成したとき、又は達成することができなくなったとき

家族信託は受託者が信託の目的に従って信託財産の管理・処分を行うものです。

その為、信託の目的を達成した時や達成する事ができなくなった時は、家族信託は終了します。

④ 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき

これは何らかの事情で受託者と受益者が同一人物になってしまい、その状況が1年間続いた事を指します。

家族信託は受託者が受益者(他人)の為に信託財産を管理・処分する仕組みです。

受託者=受益者と言う状態は信託の趣旨にそぐわない為、1年間の猶予期間の経過により家族信託は終了します。

⑤ 受託者がいなくなった場合で、新受託者がいない状態が1年間継続したとき

何らかの理由で受託者がいなくなった場合、受益者の権利が守られないため、家族信託をそのまま継続させる事には問題があります。

その為、新受託者が現れない状態が1年間続いたら、家族信託は終了します。

⑥ 受託者が立て替えた費用を信託財産で賄えないとき

受託者は信託の目的に従って信託財産の管理・処分を行いますが、その費用を立て替えた場合、信託財産からその立て替え分を取得する事ができます。

この時に信託財産が不足して、受託者が立て替えた費用を賄う事ができない時は、一定の手続きを行った上で信託を終了させる事ができます。

2.家族信託の終わらせ方の注意点

① 委託者や受益者が意思能力を失った時の注意点

上記に記載したとおり、委託者と受益者が合意した場合、家族信託は終了します。

両親の認知症対策の為の家族信託の場合、委託者=受益者となる場合が多いと思いますが、この場合、委託者(受益者)が実際に認知症等で意思能力を失い、信託財産外で成年後見制度を利用する必要が生じて、家庭裁判所から成年後見人が選任された場合は要注意です。

成年後見人は本人の利益を守る必要があり、場合によっては本人(委託者)を代理して家族信託を終了させる事があるからです。

また、委託者が亡くなった後にも家族信託が継続するようにしていたけれど、事情が変わって信託を終了させる必要が発生した場合、委託者の相続人の協力が得られない事も考えられます。

その為、信託契約等でこのような場合になっても家族信託を終了させる事が出来るような取り決めを行う必要があります。

② 残った信託財産をどうするか?

家族信託が終了する事由が発生しても、信託は直ぐに終了しません。

信託終了時以降の受託者は信託財産に関する債権の回収や債務の支払いを行い、それでも残った信託財産を引き継ぐ者(帰属権利者)に引き渡す事になります。

なお、残った信託財産は次の順番で帰属権利者に引き継がれる事になります。

(1) 信託で事前に定めた人
(2) 上記の定めがない場合、又は上記の者がその権利を放棄した場合
⇒委託者又はその相続人等
(3) 上記により定まらない場合
⇒信託終了時の受託者

基本的には信託の中で帰属権利者を指定する事が多いのですが、その指定の仕方がポイントになります。

例えば、委託者兼受益者をAさん、帰属権利者をAさんの相続人である子供のBさんとCさんとして、信託契約の中で下記のような定め方にしたとします。

本件信託が終了した場合の残余の信託財産は、B及びCがそれぞれ2分の1の割合で取得する。

残った信託財産のAさんの相続人であるB、Cさんに法定相続分で取得させると言う趣旨であり、一見なんら問題がないように思えます。

ところが、もし仮にAさんよりも先にB、Cさんが亡くなった場合、残った信託財産は誰が取得すると思いますか?

Bさん、Cさんの相続人でしょうか?

実はこの場合、BさんやCさんの相続人は、残った信託財産を取得する事は出来ないのです。

なぜなら、信託財産は相続の対象とはならないのです。

だからこそ、信託法にわざわざ帰属権利者の規定があるのです。

その為、上記のような定め方をしてしまいますと、後々困る事になる可能性もあるのです。

その為、帰属権利者を委託者の法定相続人としたい場合、下記のような定め方をした方が良いでしょう。

本件信託が終了した場合の残余の信託財産は、委託者の相続人(代襲相続が発生している場合は代襲相続人を含む)が、法定相続分に従い取得する。

③ 税金の問題

家族信託が終了した場合、どのような税金が発生するのでしょうか?

基本的には何らかの財産が移転した場合、通常は贈与税や相続税が発生します。

家族信託でも同様なのですが、違う部分は、「受益者と帰属権利者が誰なのか?」と言う結果によって変わってくるところです。

⑴ 受益者=帰属権利者の場合
この場合は、実質的な権利の移転がない為、贈与税や相続税は発生しません。

⑵ 受益者≠帰属権利者の場合
この場合は、権利の移転が生じるため、贈与税や「受益者の死亡」を原因として信託が終了した場合、相続税が課税されます。

なお、贈与税や相続税とは別に、信託を原因として不動産の名義変更を行っている場合、登録免許税や不動産取得税が課税される事もあります。

3.まとめ

家族信託は今後想定される様々な事を考慮する必要があります。

家族信託の終わらせ方もそうなのですが、私は信託の内容を考える事は「パズル」だと考えています。

「Aと言う条項を信託契約の内容とした場合、Bと言う問題が発生するので、Cと言う解決策を考えて・・・」

と言うように、発想を次から次へと巡らせる必要があります。

この「発想を巡らせる」と言う事は非常に難しいのですが、穴がない家族信託を行う上では必須の条件になります。

終わらせ方も含めて、家族信託はトータル的に考えていく必要があります。

・・・とお伝えしますと「家族信託って何だかとっても面倒なんだな」と思われるかもしれませんが、その面倒な事をきちんと行う事によって、将来の大きなリスクを未然に防ぐ事ができるのです。

「面倒だから」と言う理由で一切拒否してしまうのはもったいないです。

食わず嫌いをしないで、まずは「どんなものなのか」知る事が大切になってくるでしょう。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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