
こんにちは。司法書士の甲斐です。
認知症対策や障がい者の財産管理の方法として、家族信託(民事信託)がクローズアップされています。
その為、実際に家族信託を導入したく、勉強をされている一般の方も多いと思うのですが、その難しさに頭を悩ます事も多いのではないでしょうか?
そもそも、法律の専門家でも「信託」の仕組み、本質を理解するのには非常に時間がかかります。
そこで今回は、「なぜ家族信託(民事信託)は難しいのか?」をテーマにしてお話していきたいと思います。
1.なぜ、法律の専門家でも家族信託の理解が難しいのか?
いつも法律の事を勉強している弁護士等の専門家であれば、家族信託の仕組み、本質を理解するのは簡単なのでは?と思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。
その理由は、法律の専門家が一番慣れ親しんでいる民法とは、家族信託は全く異なる考え方から成り立っている事がその原因です。
一番分かりやすいのが登場人物です。民法等の通常の法律は、利害が対立する二人の登場人物がいる事が想定されているのですが、家族信託は、委託者、受託者、受益者と言った三者間の権利、義務を調整する必要があるのです。
単純に言葉だけで見ると、登場人物が二人から一人増えて三人になっただけですが、その権利関係等を調整する為に、普段から慣れ親しんだ二者間での考え方を変化させる必要があり、その為、法律の専門家でも家族信託の仕組み、本質を理解するのに一苦労するのです。
とは言え、法律の仕組み、本質をきちんと理解を行わなければ、どんなに素晴らしい法律であっても使いこなす事は出来ません。その為「新しい制度で難しい」と言いながらも、専門家はしっかりと勉強を行っているのです。
2.家族信託(民事信託)が難しい理由
① 新しい制度で判例等がまだない為
法律の条文には曖昧なものがあり、その解釈を巡って裁判になる事があります。
そして判決が出された場合、今まで曖昧だった条文の解釈が原則、その判例の解釈のとおり運用される事になります。
暮らしの中で一番身近な法律である民法は、施行されて何十年も経過しており、その間様々な争いがあり、その都度判例が出されましたので法律を使いこなす、と言った面では安定をしています。
しかし、家族信託の基礎となる信託法は平成18年12月に改正された、まだまだ新しい法律です。その為、条文の解釈に争いがあったとしても、それを解決してくれる判例はありません。
例えば遺留分の問題です。専門家の中には、
「家族信託を利用すると最低相続分である遺留分が消えるので、財産を渡したくない遺留分の権利を持つ相続人対策になる」
と主張されている方がいらっしゃいますが、裁判所でも確定された判断がまだ出されていない状態です。
家族信託と遺留分についてはこちらもご覧下さい。

このように、信託法の条文の中には解釈がはっきりとしていないものもありますので、家族信託を利用する場合は、想定されるリスクを最大限考慮する必要があります。
② 家族信託に精通する専門家が少ない為
上記のとおり、家族信託を仕組み、本質を理解する事は難しい為、理解をする為には非常に時間がかかります。
その為、忙しい日常の時間を割いて、新しい制度である家族信託を勉強を行っている法律の専門家はまだまだ少ないのが現状です。
③ 問題が発生するのが、10年以上先になる可能性がある為
家族信託の中で一番利用されているのが信託契約です。
信託契約は場合によっては数十年継続する家族信託なのですが、その契約内容の問題点が家族信託スタート時には表面化しておらず、スタートから数十年経過して、初めて契約の問題点が表面化する事も珍しくありません。
例えば、家族信託でキーマンとなる受託者が、その業務を行う事が出来なくなった場合の事や、家族信託終了時に信託財産をどうするのか、と言った問題は家族信託をスタートして数年~数十年後になって初めて表面化する問題です。
つまり、何十年も先を見越した契約の内容を考える必要があり、そこに家族信託の難しさがあります。
3.まとめ -ご自分で行う場合は、契約書のひな形は安易に使用しない-
現在、家族信託の専門家のホームページ等で、様々な家族信託の契約書のひな形が公開されています。
しかし、家族信託は上記のとおり様々な難しさ、問題があります。
その為、家族信託の契約の内容は、各ご家庭のご事情に合わせた、オーダーメイドの内容とすべきです。
公開されている契約書のひな形を安易に使用する事で、時には取返しのつかないトラブルに発展する可能性があります。
公開されている契約書はあくまで一例ですので、容易に使用しないようにして下さい。